第22話 新しい村発見。しかし門番は爆弾発言をした。
翌日、いつも通りに日の出の少し前に目を覚まし、木皮の紐を回収すると昨日の予定通りに、この辺りで一番大きいと言う村を目指して移動を始めた。
日が昇る頃に道を少しそれて火を起こし、元の村から持ってきた歪んだ鉄鍋を肩掛け袋から取り出し麦粥を作る。
水は昨日の村跡の井戸から汲んで水袋に詰めておいた。この水袋も村長がカバンに入れてあったものだ。何気に準備が良い村長だったんだなと思いつつ有難く使わせてもらっている。鉄鍋も、本当は少し重いのだが貴重な金属でもあるし最悪は盾代わりに使えなくもないので、持ち運んできている。
最も、鉄鍋と言いつつ五才の彼でも持てる程度の小さい物だったが。だからこそカバンに入れられたとも言う。
休憩も兼ねた朝食を済ませ火の始末をすると再び歩き出す。そして聞いていた通りに二股の道が見えて来る。どっちが町でどっちが村に向かう道なのかは分からなかったが、道幅が若干狭い事に気が付き、恐らく狭い方が村に通じる道だろうと考えそちらに向かう。
数度休憩を必要としたが早くから歩き始めた事もあり、翌日の日暮れ前には辺りに畑が広がり、その奥には丈夫そうな造りの木の柵で覆われた、結構な広さの村が見えて来た。
「おお、確かにこれは大きいね。流石にこの規模の村なら襲われずに済んだのかな。それともここまで移動する事が出来なかっただけなのかな」
この辺りも収穫後でまだ秋に向けての作付けは始まって居ないようで、畑に作物は殆ど植えられていなかったが、畑の面積はかなり広い。
そして村の建物も木だけでなく石なども使われた、かなりしっかりした作りである事が遠目でも見て取れた。少年の村では適当な板を張り付けただけの様な、掘っ立て小屋に毛が生えた様な建物しかなかったが、この村では基礎石も使われており前世で見た様な中世ヨーロッパの建築物に近い造形をしている。
「いやぁ……やっぱり家と言えばこんな感じなのが普通だよね。良かった……アレが基本かと思ってたよ」
ハッキリと眼が見える様になってから、あの貧困な村しか知らない少年にとり、目の前に広がる風景こそイメージしていた異世界的な村の光景であり、初めて異世界に生まれ変わったのだと実感できた瞬間だったりする。
あの村のバラックの様な建物では異世界感など正直あった物では無かった。見た事の無い森の生物や魔物なども見かけてはいるが、実際の生活はほぼ薄汚い恰好の西洋人が暮らすスラムの様な場所だった。
まるで、前世の第三国での生活と言われても納得できそうな位の感じでしかなかった。何よりあの村では食う事に手一杯で生活感があり過ぎた。
そんな事を考えながら畑に挟まれた道を進む。暫くして村の入り口と思しき所にたどり着く。入口の脇には見張りらしき人間が立っている。
少年が居た村にも一応見張りは居たが、普通の農夫が数時間毎に見回りに来る程度であったのだが、この村ではちゃんと人を常時立てているようだ。
「おお、やはり大きい村は違うね。門もあるし見張りも居るし門番もいて、それらしい恰好しているよ!」
村の入り口には夜には閉めるのであろう木製の門があり、見張りに立っている人物は手に槍の様な物を持ち、皮で作られたであろう鎧の様な物を着込んでいる。
こういうお約束的な光景こそ異世界ってもんだよ、と一人思いながら門に近づいて行くと、番をしていた人物は少年の方を胡散臭そうな目で眺めて来る。
「……うん?随分薄汚い恰好したガキだな……坊主、この村に何か用か?」
薄汚いと言われ、これでも水浴びはしたし村長の服を加工したんだから以前よりも遥かにマシな恰好なんだけどな、と内心文句を言う。
今の少年の恰好は、一応服に見える物を身に着けてはいるが、切れ味の悪いナイフで適当にサイズを切り詰めた物であり、長年の垢は川で水浴びをしてそれなりに落としてはいるが、髪の毛は一度も切られないまま伸び放題のボサボサだ。洗ってある分多少マシ位だ。
そしてボロ布のカバンを肩にかけ、背中には不格好な弓を引っ掛け腰には玩具の様な手製の木剣を差している。
少年にとってはまともな服にお手製の装備品であっても、この村の感覚では乞食の方がまだマシな恰好に見える程、薄汚れた物に見えていた。
実はそれだけ少年が居た村は貧しかったのだが、それが普通だと思っていた少年にはこの格好がそこまで酷い物だとは思っていなかった。なので普通に、
「住んでいた村が野盗に襲われて全滅したんで逃げてきました」
と、門番らしい人物に答える。すると門番は「何!?」と驚き目を見張る。
「隣村から逃げて来たのか!?襲われたとは聞いているが……だがもう十日以上前の話だぞ?今まで何処に居たんだ!」
なる程、野党から逃げて来たからそんなに汚い恰好なのか、と変な納得をするが、それにしては日数がかかり過ぎている事に、いぶかし気な顔をする。
「あ、僕はその村の先の、あっちに見える山の向こうの麓の開拓村から逃げて来たんです。その村にも立ち寄りましたが酷い有様だったから、通り過ぎてここまで逃げてきました」
一応、よそ様の村なので丁寧な言葉で告げる。少年の言葉を聞いた門番は眉を顰め「そんな所に村なんて有ったか?」と呟く。本当に存在を知られて居ない村だったんだな、などとヘイロー少年が思っていると、
「ああ、山向こうの村か! まだ無くなって無かったのか! って、あんな場所まで盗賊が出たのか!? かなり貧乏な村だときいているぞ? 本当にそんな所が襲われたのか?」
「確かに貧乏な村でしたが、ええと……十三日前位に襲われて皆殺しになりました」
「何だと、本当か!?」
「はい。僕だけ運よく森に逃げ込めたので助かりました。その騒ぎが聞こえなくなったので村に戻ると皆殺されていたので、全員埋めてきました。その作業に七日掛かったのでここまで移動してくるのにこれだけ時間がかかりました」
本当は逃げたのではなく最初から森の中にいただけなのだが、説明が面倒なので端折り、なぜ自分がこれだけ時間が経ってからここまで来たのかを説明する。
「随分としっかりと喋れる子供だな……だがそうか。村の後始末をしてから出て来たのか」
五歳程度の子供にしか見えないのに、嫌に理路整然と話して来る少年に、一瞬いぶかし気な目を向けたが、襲われた人を埋葬してから出て来たと言う少年に、
「大変な目に遭ったな坊主……だが最後まで面倒見たのは偉かったぞ!」
と言って褒める。正直、こんな小さい子供が出来る事などたかが知れているので、どこまで片付けが出来たのか分からないが、それでも生き残り逃げる事よりも村人の埋葬を優先したと言う少年に、この門番は好感を持ったようだ。
実際の所は少年が旅立つ為の準備と旅に必要な資材集めと道具作りのついで感覚で埋葬をしただけなのだが、流石にそんな事は門番には埒外の事である。
「そんな訳で、この村まで逃げて来たんですが、少しの間この村に住まわせてもらえないかな、と思いまして。それが無理なら、雑用でもさせてもらって、この先に在ると言う大きな街に行くまでの旅費を稼がせてもらえないかな、と思いまして」
「本気でシッカリとした子供だな!?そんな予定までたてているのか?普通は村で保護して欲しいとか考えるんじゃないのか!?」
「そりゃまぁ、
「そんな訳あるか!ウチの村でも子供が家の手伝いをするのは八歳位からだぞ?こんな子供に何させているんだ、その村は!?」
少年の言葉に門番の男は憤慨して見せた。結構お人よしである様でこういう人が門番をしている様な村なら意外とこの村に住まわせてもらえるかもしれない、と思う。
「まぁ、話は分かった。だがコレは俺の一存では決められない。盗賊被害の事も連絡せねばならんし、村長に直接話すのが良いだろう。おおい、誰か来てくれ!!」
門番は近くにある建物に向けて声を掛けると、中から一人、門番と同じような恰好をした男性が出て来る。
「何だ、交代にはまだ早いぞ?どうしたんだ?」
「村長に急遽報告する事が出来た。この子も連れて行く必要があるから少しの間見張りを代わってくれ。って……そう言えば、君の名は何というんだ?まだ聞いていなかったな」
新しく来た門番に軽く説明しつつ、そう聞いてきたので少年は答える。
「ヘイローです」
「あ?何だと!?」
が、途端に門番二人の顔が険しくなる。あれ?何か僕の名前って何かマズい名前なのかな?と思いつつも、もう一度名乗る。
「だから、ヘイローです」
「何だこのガキ、舐めてんのか!?」
「待て、なぁ君、名前を聞いているんだ、ちゃんと答えろ!」
新しく来た門番がつかみかかろうとするのを、最初の門番がなだめつつも険しい顔で言って来るが、少年には一体何がいけなかったのか分からず首を傾げる。
「ですから、ヘイローが僕の名前です」
「は?」「へ?」
普通の顔で言う少年に、門番二人は顔を見合わせてしまう。
「何かおかしい名前ですか?村の皆は普通に皆ヘイローと呼んでいましたけれども」
「あーっと……ええと、本当にそう呼ばれていたのか?」
「ハイ。ウチの村には多かったですよヘイローさん。七、八人は居たと思います。なのでこの辺りでは一般的な名前かと思っていましたけれども」
「マジかよ……今時そんな村があるのかよ……」
「貧しい村だとは聞いた事があるが……まさかそんな村だったとは……」
新しく来た門番も、最初の門番も少年の言葉に可哀そうな物を見る目で少年を見る。そして、最初の門番が言いにくそうに、
「あーっと……そのなんだ。ヘイローは名前じゃ無い」
「……はい?」
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