第14話 予定は未定。それどころか立てようが無い。

 商人との接触に挫折したヘイロー少年だったが、実はこれは彼が悪い。そもそも商人なんて、周囲から農奴扱いを受けている子供などにかかわる気などない。金にならないことなど分かり切っているからだ。


 そして従業員や護衛の連中は仕事でこの村に来ているし、今回の取引の最中でやることなど沢山ある。従業員からしてみれば下手に会話などしてサボりと見なされては溜まった物では無い。


 護衛達にしても、如何にも貧困な子供が商人の荷馬車に近づくなど、盗みに来たかその下見かのどちらかにしか見えない。警告の意味も込めて手荒く扱うのも彼らからしてみたら当然の仕事の内である。


 よくあるネット小説やラノベの様に気さくに村人と交流を持つ事なんて実際には滅多に無い事である。商人からしてみれば大して儲けにならない村にも寄れば税収の関係で多少優遇されるから来ているだけであり、村人からすれば商人など安く買いたたく業突く張りだ。


 互いに下手に交流を持てばつけ込まれかねない関係であり、必要以上になれ合いなどしない実にビジネスライクな関係である事の方が一般的なのである。


 そんな事は知らない少年は、その後も何とかチャンスを見つけて切っ掛けを掴もうとしたが、そんな機会など訪れる事無く二日後には商人達はさっさと村から出て行ってしまった。




「うん、事前に外の情報を集めるのは無理ゲーだね、コレ。外の奴らはそもそも会話する気が無いし、村の奴らは興味もないと来たもんだ」


 畑の小石拾いを命じられエッチラオッチラと小石を弾きつつ、遠くなっていく行商人の馬車を後ろ髪を引かれる思いで眺めやる。


 麦の収穫が終わったので少しノンビリ出来ているが、仕事は幾らでもある、というか村長が問答無用で作ってくれる。


 今日は麦畑の石拾いだ。ここから秋の種撒きまでこのような畑整備の雑用がチマチマと押し付けられてくるのがここ数年のルーティンだ。


「予定が狂いまくりだね。事前情報を集められないとするとぶっつけ本番で村から出た後に色々と調べないといけないか~。でもそうなると、町とかに出てから調べる事になるんだから、少し早く村から出る必要が出て来るかな? 十二歳位で村から出て、そこからお金稼ぎながら勉強するしかないかな。十二歳で稼げる仕事って知識無くても就けるのかな……? 就けないよなぁ。ほんと、結構キツいよねこの世界」


 転生する際にセルヴァンとの会話でこの体にクラフト関係の適正がある事が分かっているので、元となっているゲームで得意であった鍛冶関係の職に就きたい、無理なら制作関係の仕事なら取り合えず生きていけるだろうと考えていた。


 だが、このままでは、その職に就くのもかなり難しいかもしれない、と少しずつ感じ始めている。


 ゲームキャラの特性が活かされた体ではあるが、記憶があるだけで体自体は全くの無垢、何の経験もない状態なので実際に鍛冶の仕事をしてスキルを得て技術を磨いていく必要がある。しかし、文明があまり発達していない世界では職人と言うのはそう簡単になれる物では無いのが通常だ。


 幼い頃から丁稚や雑用として工房なり鍛冶場なりに潜り込めれば職人になれる可能性は高くなるが、基本そう言うのは家系が鍛冶屋の生まれであったり身内であったり知人の紹介があったりの、何かしらのコネがあればの話で、えん所縁ゆかりもない農村の農奴上がりの子供がポっと町に出て雇ってもらえる事などまず無い。


 この世界、スキルがあるのでスキルさえ持っていればもしかしたらコネとか血筋とか無くても雇ってもらえるかもしれない。


 だが、この世界のスキルは「生まれた時から持っている物神から与えられた祝福」では無く「繰り返し行動した結果努力の賜物」である可能性が非常に高い。

 

 この体の元になっているゲームがそうだし、転生の際にも「覚え直す必要がある」とセルヴァンから言われている。つまり「先にその経験を積まなければスキルは付かない」と言う事でもある。


 それも転生の際の話では、繰り返したからと言って必ずそのスキルを得る訳でも無い。本人に適正が無く、スキルを覚える気が無ければどれだけ訓練してもスキルは得られないし、得られたとしても覚えるまでに長い時間が必要になって来る。


 だが、ヘイロー少年はそこは気にはしていない。HTWなんていう物作り特化ゲームのキャラがベースの体なのだ。物作りに関しての適正は必ずある筈だ。


 スキルを得るためには実際に物作り関係の仕事をするのが必須になって来る。


「って考えると振り出しに戻るんだよね。スキルを得る為には働くしかない。でも現状働きたければスキルが無いとまず雇ってもらえない。割と詰んでるよな、うん」


 最悪、自力で全ての設備を整えて鍛冶仕事をしてスキルを覚えてしまう、という手もある。入院引き籠りで灰プレイをしてきた身である。スキルの効率の良い上げ方やそれを上げやすい作業などすべて記憶している。


 しかもHTWではクラフトに必要な道具や設備も全て自作が可能である。勿論、ゲーム内では既成の施設や道具があり、それらはレンタルして使用出来る。


 しかし物作りゲームを唄っているからにはその辺の設備も当然レンタルではなく自作してオリジナルを使いたがるコアなプレーヤーが存在しており、そういう奴らにも対応して自作が出来る仕様になっている。


 そして灰プレーヤーである彼は当然自作派であり、全ての施設や道具はゲーム内で作っていたし作り方も手順も覚えている。雇ってもらえずとも何とかできそうな目途はある。


「でもそれをするにはお金が必要だよね」


 結局は金である。物を作るにしても何もない所からは何も作れないのである。何かを作るのなら当然材料は要るしそれを加工するための道具や設備は必須だ。


 そして五歳にして貧村の農奴まがいの孤児と言う立場ではお金を稼ぐ手段など無い。転生時にセルヴァンが籠の中に金を入れてくれたが、拾われた際に村長がパクっているし多分既に鶏さんや羊さんや畑の苗さんなんかに化けてしまっている。完全無欠の無一文である。必要な道具や材料など集められる訳もない。


「コレは最初からクラフターとして生計を立てるのは諦めて、冒険者とか狩人みたいな所から始めるしかないかなぁ。何かそっち系のスキル生えて来ているしなぁ」


 現状自分のスキルを確認する事が出来ないのであくまで体感でしかないが、体の動かしやすさや感の良さなどが上がっているので、間違いなく有る筈である。


「でもなぁ……そっち系はあんまり得意じゃないんだよなぁ。HTWじゃ素材集めで採取や狩猟はしていたけどメインじゃないし、前世ではそもそも病人だから体動かすのがそんなに得意じゃ無かったし」


 ゲームでは必要があったので、戦闘などをやっているが現実世界ではそんな経験は当然ないし、物を作る方が性に合っていたのでそれ程力を入れて戦闘技術を磨いていない。


 VRゲームなので現実の体の動かし方に限りなく近い経験が積めているので、多少の自信はあるが、それも同じく疑似体験のクラフター活動の方が遥かに経験が多い。


 とは言え、背に腹は代えられぬので、ある程度の金を稼ぐのに冒険者をやると言うのはやぶさかではない。問題は、


「この世界に冒険者みたいな職業があるかだけど……まぁ何かしらあるよね、絶対」


 本当はそう言った情報を事前に集めたかったのだが村の住人は外の事に興味が無いので知らなかったし、頼みの綱の行商人は面識を持つ前にアッサリと失敗している。


 ただ、恐らくあるだろうとは確信している。行商人を守っていた護衛達。彼らの装備は統一性が無かったし、何よりもこの世界には魔物がいる。


 地球では兵力になる様な存在はほぼ権力者なり為政者なりに囲われているが、身近に人を襲う魔物と言う物が存在するこの世界なら、何かしらの形で民間戦力が公認されていて組織化されているだろう、とヘイロー少年は考えていた。


 そうでなければいつどこから現れるか分からない魔物になど対応出来ないし、対応できる程の兵力を権力者なり為政者なりが全て賄うなど、金銭的にも物理的にも不可能である。


 だからあの統一性の無い装備の護衛達は、自力で装備を揃えている結果であり、自力で揃えた装備で護衛をすると言うからには、金銭でのやり取りで請け負っていると考えるのが道理である。


 ならば何らかの形で仕事を斡旋する組織があるのが自然の流れである。


「だけど、それが果たしてよくある異世界物の様に、子供でも加入できるかが問題なんだよねぇ。返す返す、情報を得られなかったのが痛いなぁ」


 事前に情報が得られたのなら、予定を早めて村を飛び出しても生きていく算段を付けられたが、何も情報が無い状態では流石に成人前に村を飛び出ても生きていける自信が無い。


 まぁ、今のままでも成人するまで生き残れる確証はないし、何より成人と言う概念が曖昧だ。気が付いたら本格的に農奴に落とされて結局村から逃げ出せなくなって居そうな予感がヒシヒシとしてくる。


「出たとこ勝負で取り合えず街に逃げ出すと言う手が無くは無いけど……流石にお金を稼ぐ手段が無いからなぁ。何かしらのクラフトスキルを身に付けてから行きたい所だけど、その機会がなぁ。リスク承知でスキル目当てで何か作るか?でも村長に見つかったら間違いなく邪魔されて仕事が増えるし。これ以上増えたら流石にキツイしなぁ……でも強引にでもやらないとジリ貧だし……う~ん、どうした物か……」


 街に逃げるなら何かしら金を稼げるスキルを身に付けておいた方がいい。だがそれをするにはこの村ではハードルがとても高かった。


 村長に押し付けられた小石拾いをこなしつつ思索に耽る少年だったが、彼の思惑も心配も無駄になったのはそれから僅か三日後だった。

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