眠い時の「良いこと考えた!」は大抵ろくなもんじゃない
藤田朱音
眠気・レポート・深夜2時
章タイトルから察しの良い方は全てを察するだろう。これは私が大学生の時の黒歴史である。
大学に通ったことのある人、今現在大学に通っている人、これから通う予定の人、別に通う予定のない人、世の中には様々な人がいると思う。この話をするにあたって必要なことだけを圧縮して説明するが、大学には「必修科目」なるものが存在する。あらかじめ決められた必修の授業を受け、レポートなり試験なりをクリアして単位を取らなければならないのだ。
「大学って好きな勉強できる場所じゃないの?」と思ったそこの君、そうなのである。私も入学当時、正直そう思った。だが悲しいかな、必修単位を取らないと追試が待っているか、再履修してねともう半年ほど授業を受け直す羽目になるか、最悪留年する。大学生にとって留年は命取り。中には「もう一年遊べるぜ!」と笑って過ごす猛者もいるかもしれないが、私はそうではなかった。追試も再履修もごめんだし、留年なんてしようものなら絶望しかないと思って過ごす真面目な学生だったのだ。就活のために評価も高めに稼いでおきたかった。まあその評価が就活に役に立ったかと言われたら毛ほども役に立たなかったがその話は気が向いたら別の機会にさせていただこう。
話を黒歴史に戻そう。その授業は大学二年生の時の必修単位だった。大きな教室で教授の話を聞き、授業の最後に小レポートを提出するスタイルの講義であったのだが、私は教授との相性が悪かったのか睡魔との戦いを繰り広げていたことしか記憶にない。毎回素直に睡魔に負けていたわけでもなく、必死でノートを取ろうとした痕跡だけは残っていた。私とて何もしなかった訳ではない。ブラックコーヒーを事前に飲んでおいたり授業の前に仮眠を取り眠気を払拭して臨んだり、考えられることはあらかた試した。しかし本当に眠い。教授の声から催眠音波でも出てるんじゃないかと疑うレベルで眠い。
さて、どんなに眠くても試験期間は待ってくれない。例の授業で単位の修得に採用されたのはレポートであった。試験だったら本番で眠りこけていたかもしれない、レポート提出で済むのは不幸中の幸いと胸をなでおろした私であったが現実はそんなに甘くなかった。
書けない。
そりゃあほとんど授業を寝て過ごしていたのだから当たり前である。眠りたくて寝たわけでなくても眠っていれば記憶は定着しないだろう。何とか記憶の断片を繋ぎ合わせてレポートを綴るも全く既定の文字数に届かない。困った。刻々と時間は過ぎ、夜は明けていく。何とか抜け道は無いかとレポートの要項に書かれた文字列を目で追う。最後の一文に目が留まった。
「自作小説の提出でも可」
……もうこれしかないのでは!?
思い立ったら早かった。小説を書くこと自体はずっと続けていた習慣であり、データ自体はたくさんあった。ストックしてあった小説フォルダを開き、それっぽいレポートとして形を整えるために一人称視点と三人称視点で書き分けたものをそれぞれ載せて印刷し、ホチキス止めをして寝た。データをメールで送るのではなく紙で出せというスタイルの授業であったため印刷が終わったころには朝日が昇っていた。眠気に侵されていたものの、その時の私はさあもうこの講義ともお別れだと晴れ晴れとした気分でいたのである。それが罠とも知らずに。
レポートを提出した次の週も講義があった。最後の講義である。この週も私は眠気と戦っていた。最後だとか関係ない、眠いものは眠い。しかし、その日だけは私の眠気は雲散霧消していくこととなった。うとうとしていた私の耳に教授が発したとんでもない台詞が飛び込んできたのである。
「レポートを小説形式で提出した方は講評しますので名前を呼ばれたら前に出てきてください」
…………何だって?
講評?公表の間違いじゃないのか?え?このバカでかい教室の?前に出て?講評されろと?名前呼ばれたら前に出て?え?
最早吊し上げじゃないか!?
当時、小説を書いていることは友人たちには言っていなかった。なんだか気恥ずかしかったのである。そして私が震えあがった大きな理由がもう一つあった。大学で小説を書いたり創作をしたりするのならサークルに入っている人は多いと思う。私の大学にも文芸サークルがあるにはあったがそこのノリがとことん合わず、苦手だなと感じるタイプの人間が多かった。そして入部を悩みに悩んだ私は入部しようと仄めかしておきながら新入生歓迎会をすっぽかして逃げた前科があった。授業が被って話しかけられることもあったがやはり感性が合わず関係をフェードアウトさせていたのだ。よって文芸サークルのメンバーとエンカウントするような事態は避けたかったのである。
名前を呼ばれて教授の前に出ていく生徒はそう多くはなかった。しかし例の文芸サークルの人間が何人もいる……怖い……。どうにか目立たずに終われと祈っていると私の名前が呼ばれた。突き刺さる視線。ほぼ駆け足で教授の元へ行き俯いて講評を聞く私の顔は真っ赤であったであろう。
何とかレポートを受け取って自席に戻り、友人に何て言えば良いんだろう、文芸サークルの人たちが来たら怖いな、などと考えていたら友人が一言。
「朱音ちゃん、小説書くんだ?」
「え、あ、うん」
頭が真っ白になったが、続く言葉に救われた。
「え、言ってよ!書けるの凄いじゃん!」
微笑む友人が女神に見えた。なお、彼女とは今でも良き友人である。
ここまでだったらいい話だなーで終わると思う。ただ教授。他のレポートと違う扱いをするなら書いておいてほしかったなー!全員の前で講評(くそデカボイスのためどんな話を書いたかバレる)は恥ずかしがり屋には耐えられない所業だ!
そして後日、vs文芸サークルは結局勃発したので黒歴史に新たなページが刻まれることになるのだが、その話はまたいずれ。
眠い時の「良いこと考えた!」は大抵ろくなもんじゃない 藤田朱音 @akanefujita
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