最終話 借金一千万あったメンヘラVTuber、女社長の指導を受けて、総合資産一〇億を手に入れた

『ありがとー。おもむろ アンの四周年、3Dライブ、楽しんでくれた?』


 ウチは、リスナーたちに手を振る。


 3Dアバターは、地雷系をイメージしたアイドル衣装だ。

 株価チャートのロウソク型グラフが、翼になっている。株価の上下によって、天使のようにも見えるし、悪魔のようにも見える仕組み。


 ハッカむしヨケさんの曲も、ようやく市民権を得た。


 ライブ会場は、島に作った新しいスタジオだ。


 このアバターで活動を続けて、もう四年になる。

 

 あれからウチの資産額は、合計すると十億くらいになった。

 以前は、一千万の借金を背負わされていたのに。

 

 といっても、ほとんどは株の運用益である。

 ちょうどガクンと下落したところに、大量の資金を投下した。たまたまだが、それが利益につながったっぽい。

 とてつもない金額のアップダウンを繰り返し、ウチは気が気じゃなかった。

「運用損益は幻と捉えよ」とは、よく言ったものだ。今では数百万の上下さえ、気にならない。

 

 むつみちゃんのために使ったお金も、リスナーからのスパチャによって一瞬で返ってきている。そのお金で、また積み立て直した。

 ETFで分配金をもらいながら生活も考えたが、税金を払うのがアホらしいので思いとどまっている。そもそも現金が手元にあるため、取り崩しさえ考えていない。

 

 来年の税金が怖いので、まったく手を付けなかったが。

 ふるさと納税をして節税をしているが、返礼品のせいでまた家がモノで埋もれそうになった。返礼品の扱いも、考えなくては。


 もっとも大きかった買い物は、島だ。

 家兼スタジオの近くに、ちょうどいい島がある。それを購入したのだ。

 島は意外と、お金がかからない。一番安い島で、二〇〇〇万くらい、高くて五億とかである。

 がんばれば、五億の島は手に入りそう。維持費とか考えると、とても手に入れようなんて思わないが。

 さらに別荘まで建てるとなると、気が遠くなる金額が必要だろう。


 公約通り、ウチは島を買った。

 たまに砂浜で、事務所のタレントとパーティを開く。


 今日もメンバーを引き連れて、砂浜でバーベキューを楽しんでいた。

 食べる量が、シャレになっていない。食材が足りるかどうか、不安になる。

 彼女たちが大食いだと、忘れていた。


「イケるやろうか、むつみちゃん? 食費だけで破産してしまいそうや」


「ご安心を。一〇億もあったら、破産するほうが難しいですから」


「せやけど、【あぶLOVE】の株は下落してるやん」


「それは、言わないでください」


 つい最近、あぶLOVEの運営会社が上場している。

 いきなり下落スタートし、今でも横ばい状態だ。


「まあ、これからやでな」


「そうです。今は食べましょう」

 

 

 島には、子どもを連れた元ワン・タンメン先輩もいる。

 ウチが、誘ったのだ。

 みんな事情を知っているので、事務所全体を巻き込んだわだかまりなんてない。

 あれからワン・タンメン先輩は、子育てが落ち着いたあとに転生。Vの活動を再開した。小さい個人勢だが、少しずつ大きな仕事をこなしているという。


 

「三〇を過ぎても水着が似合うなんて、リアンさんは反則ですね」


 ウチの水着を見て、むつみちゃんがむくれた。

むつみちゃんは、ラッシュガードで体型を隠している。手術痕が残っているのもあるのだろう。


「むつみちゃんは、術後の経過大丈夫?」


「はい。おかげさまで、完全回復しました。ありがとうございます。リアンさんのおかげです。身体に大きな痕は残っちゃいましたが」


「回復できたんは、むつみちゃんの執念やって」


 ウチは、なにもできない。

 お金を払うことしかできなかった。

 臓器だってなんだって、提供したかったのに。


「こわいコトを、おっしゃらないでください。わたしだって、リアンさんがいなかったら、会社経営どころではありませんでしたよ」

 

 ともあれ、ここはまだ、一つの通過点なんだろう。


「不思議やな。ウチは次はどれくらい稼いだろかな、って考えてるねん」


 以前は、切り詰めた節約や気絶投資が虚しかった。「もうここでええ」って何度思ったことか。

 しかし、投資や節約の知識が身についたことで、まだまだ行けると思えている。

 ゼロになっても、また立ち上がれることもわかったし。


「そうやって、お金持ちはどんどんお金が集まってくるんですよね」


「大食いみたいやね」


「ですね。ここにつながってきましたか」



 タコ・カイナが、「写真撮るよー」と呼んでいる。


「このままV活なんて、いつまで続けられるのでしょう?」


 今、VTuberが増えすぎて、飽和状態だ。

 ある意味、もう到達点なのかもしれない。


「いけるって。ウチらはどこまでもイケるで」

 

 たとえまた無一文になっても、借金まみれになっても、また復活できそうな気がする。


 むつみちゃんと一緒なら。


(おしまい)

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借金一千万のメンヘラVTuberが、五千万の借金があった女社長に指導を受けて、資産一億を手に入れるまで 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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