第3話


――俺は思考の中から戻ってくるように、顔を上げた。


たしかにここはあのダンジョンなのだとわかったが、その中のどこなのか確認しておきたかったからだ。


顔を上げると目に写った黒っぽい壁に、手をかざし、この壁に小さな穴が開くことを想像してみる。


今回は猫の像を思い浮かべたときとは違い、見たことがないので具体的なイメージが浮かばず、四苦八苦したが、何度も挑戦しているうちにだんだんとコツが掴めてきた。


十回目くらいの挑戦で、壁に小さな穴が開いた。要領がある程度つかめたので、次に挑戦するときはもう少し早く使えそうだ。 




緊張してその穴を覗く。片目くらいの小さな穴で、魔物は入れないとは思うが、緊張するものは緊張するのだ。


目にまず写ったのは暗い空間だった。どうやらこの穴をダンジョンまでつなぐことができたようだ。


そのまま穴をじっと見ていると、だんだん暗闇に目が慣れてきて、わずかながら魔物のようなものが闊歩しているのが確認できた。


そしてだんだんと一匹の魔物が鮮明に見えてくる。

更に暗闇に目が慣れてきたのかなーと現実逃避しながら、その魔物を見ていると、こちらに向かって口を開けた。

注意してみると、その喉の奥に赤い光のようなものが見えた。


「グオオオオオッッッ!!」



さっき開けたときの苦労は何だったなだと言うくらい、一瞬で穴をふさいだ。壁一つ隔てた向こう側なのに、何かが炸裂するような爆音が聞こえる。


あれは多分、A級の魔物のキングリザードマンだ。遭遇なんてしたことはないが、本で読んだことがある。

蜥蜴人間のリザードマンと姿形は似ているが、遥かに体は大きく、鱗は鋼鉄のように硬く、更には強力な炎を吐くことができるリザードマンの格上の存在らしい。

俺が正面から遭遇していたら、ひとたまりもなかっただろう。



その後も、なにかを叩きつけるような音が現在進行形でしている。どうやら俺に気づいて攻撃をしてきたようだ。


凄まじい音のオンパレードを背後に聞きながら、壁の隙間で震えていると、ふとアイデアが浮かんだ。


成功するかどうかはわからないが、やるだけやってみよう。


以前だったらこんな状況に直面したとき、成功するかどうかもわからないことをやってみようと思うことなんてなかっただろう。

だが、今はただやれるならやってみようと思っていた。自由になった反動かもしれない。



そう少しばかり思考を巡らせると、恐る恐るさっきよりも小さな穴を作った。

さっき一瞬で使えたからか、すぐにイメージ通り小さな穴を作ることができた。



穴を覗き、さっきの蜥蜴のような魔物を見る。幸いこちらには気づいていないようだ。


じっと見て位置を把握すると、壁に手をつけ、小さく『石槍ストーン』とつぶやいた。


さっきは口に出さないでこの『開拓』を使ったが、今回は一瞬が勝負だ。イメージをしやすいほうがいい。



黒っぽい壁が変化し、槍の穂先のような形になる。

それは、死角からキングリザードマンを襲い、いとも簡単に鉄壁と呼ばれるキングリザードマンのうろこを貫いた。


「グアアアアアアァ゙!!!」


一拍おいて、キングリザードマンの悲鳴が響き渡る。凄まじい声を上げ、暴れていたが、致命傷ではあったらしく、数秒すると動かなくなり、光の粒子になって消えていった。


何回も見たことがあるけど、科学が進んでいた日本で育ってきた俺には、やっぱり理解しがたい光景だ。

ずっとその光景を見ながら、ぼうっとそんなことを考える。


…相手はあのキングリザードマンだ。まさか本当に成功するとは思っても見なかったから、思わずなぜか思考を他のところにそらした。


だが、現実に引き戻すように、俺の頭に機械質な声が立て続けに響いた。


『レベルが上がりました』

『レベルが40になりました』

『HPが上昇しました』

『MPが上昇しました』

『筋力が上昇しました』

『体力が上昇しました』

『俊敏力が上昇しました』


『称号"竜を狩る者"を獲得しました』

『スキル"竜眼"を獲得しました』

『スキル"鑑定"が"竜眼"に統合されました』

『スキル"火魔法"を獲得しました』

『スキル"火魔法"が"炎魔法"にレベルアップしました』


『称号"下剋上"を獲得しました』



目をつぶって、ふうと深く息を吐く。

それから、『鑑定ステータスオープン』とつぶやいた。



#<名前>セオ(家名なし)


<HP> 200/200

<MP> 60/60

<筋力> 200

<体力> 200

<瞬発力>160


:レベル 40

:固有スキル 『開拓』{制限開放}


<スキル> 『視界強化Lv.6』『筋力増強Lv.6』『ダメージ耐性Lv.9』『竜眼Lv.1』『炎魔法Lv.1』


<称号>  『竜を狩る者』『下剋上』#



「すごっ。」



おもわず口元がほころぶ。少しくらい喜ぶのも許してほしい。こちとらランクが上がったのは一度きりの、万年Eランク冒険者なのじゃい。


このステータスのみなら、すべてのランク、F、E、D、C、B、A、S、SS、SSSの中堅あたりに位置する、Bランク冒険者にも匹敵するくらいなのだ。



口を直そうとしても、もっと緩んでしまうのを感じながら、俺に異世界を冒険する機会を与えてくれた神様には足を向けて寝れないなと思った。

…神様、多分天にいるから足を向けて寝ることはないと思うけど。



その日は、ひたすら魔物を石槍で刺し続け、段々と『開拓』の使い方のコツがつかむことができた。

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ダンジョン開拓記〜パーティの仲間に裏切られ、最難関ダンジョンに捨てられたのでダンジョンで生活します〜 @banananeko

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