第2話

深い眠りの海から引き上がっていく。

こんなによく眠れたのはいつぶりだろう。


体を動かしても、節々が痛まない。前はギシギシと傷んでいた体の生傷も嘘のように沈黙していた。


今世では若かったのに、前はいつも体が老人のように重く、痛んでいた。

だが、いまは本来の力を取り戻したかのように力がみなぎっている。


スッキリと起き上がると、俺は黒っぽい天井を見上げた。まず最初に感じたのは疑問だった。


…なんで俺は生きているんだろう。あんなダンジョンのど真ん中で寝ているような俺は、魔物にとって格好の餌のはずだ。


そう不思議に思って、周りをぐるりと見渡す。すると俺のいる周りは壁のようなものに囲まれていた。


…きっとこれだ。


壁に近づいていき、じっと見つめる。それは黒っぽく、つやつやとした壁だった。

俺は腰にさしていたロングソードを抜くと、力いっぱい斬りつけた。


俺だって伊達に冒険者を8年やっていたわけじゃない。この世界のレベルアップという概念のこともあって、普通の石壁くらいならこれで砕くことができる。


だが、その黒っぽい壁は何回斬りつけても傷一つつかなかった。


やっぱり、この壁は俺が意識を失った、世界最難関ダンジョンの内の壁だ。このダンジョンの壁は、どんなに強い人が斬りつけても、魔法を撃っても傷一つつかない。


ということはここはあのダンジョンの中というわけだ。


…えっ。


ここがどこかわかったところで、疑問が増えただけだった。

信じがたいが、もしここがあのダンジョンだとするならば、ここはダンジョン内のどこなんだという話になる。

なぜなら、この世界最難関のダンジョン内で魔物が湧くことのない場所なんてないからだ。

ここで俺が生き残っていたということは、俺が寝ている間、魔物は1回湧かなかったことになる。


後、もう一つ引っかかるところがある。


俺が意識を失う前に、スキル『開拓』を何故か使用でき、その時、俺がぼんやりともし魔物の攻撃を回避して生き残れるならこれだろうなと思い描いたのがそのまま俺がいるこの場所なのだ。



そこまで考えると、俺は目をつむり、『鑑定ステータスオープン』と小さくつぶやいた。



#<名前>セオ(家名なし)


<HP> 50/50

<MP> 15/15

<筋力> 50

<体力> 50

<瞬発力>40


:レベル 10

:固有スキル 『開拓』{制限開放}


<スキル> 『鑑定Lv.12』 『視界強化Lv.6』『筋力増強Lv.6』『ダメージ耐性Lv.9』#


眼の前に青いウインドウが表示された。

…相変わらず貧弱なステータスだ。だが、今大事なのはそこじゃない。


固有スキルの欄に向けて、もう一度『鑑定』をする。


:固有スキル 『開拓』{制限開放}

:効果  物の形を思い描いたように変化させることができる。(最難関ダンジョン内でのみ使用可能)


じっと表示されたウインドウを見つめる。


「これまでこんなことなかったのに、あの『開拓』がこんなチートみたいなスキルになるわけな…」


なにかの間違いにに決まってると苦笑しながら、スキル『開拓』を使おうといつものように手をかざすと、とても固く、加工するなんてもってのほかのはずの壁が動き、小さな猫の像ができた。


俺はさっき想像した、前世の自宅にあった猫の像を眺める。手にとって見てみても、材質がおかしいことを除けば、俺の記憶のまま再現されていた。



「嘘だろ…!?」



鑑定の結果は絶対に正確だ。その結果を疑っていたわけじゃないが、少し表記の仕方が間違っているのだろうと思っていた。


だが、この結果をみる限り間違っているわけでもなさそうだ。



俺はじっと猫の像を眺めながら、気分が高揚していくのを感じていた。

前世では、務めていたブラック会社のお偉いさんたちに使い潰されて命を終えたように、俺はこのままあの幼馴染たちに、使い潰されて一生を終えるのだと思っていた。


でも、この力で自由に生きるチャンスを与えれたのだ。このときはじめてこの異世界に転生してよかったと思えた。


✕✕✕✕✕


不定期更新ですが、一週間に一回以上は投稿します。


小説のフォロー、レビュー、応援ありがとうございます!

少しでも面白いと思ってくださったら幸いです。


1話ずつの文字数に変化があるとは思いますが、どうぞよろしくお願いします。

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