第3話 このブログの本人です。
許して欲しい。
僕の話をするうちに、僕以外の人間も僕の話をするようになった。僕じゃない僕が、まるで僕の人生だったかのように僕の話をする。どろだんごの話も、デッサンの話も僕じゃない。僕じゃない誰かが僕になりすましている。だから、僕の話をさせてくれ。これが本当に僕の話だ。何も面白くはない。
僕は本が好きで、これまで沢山の本を読んだ。ある日、何気なく立ち寄った古本屋で五十円の本を見つけた。古本とはいえ相当安いし、何より状態も綺麗で分厚い本だった。タイトルは「いしょ」だ。最初こそ気味が悪かった。「いしょ」って聞いて大体最初に浮かぶのは「遺書」だし、もしかして遺書が沢山記された本なのかと思った。だとしたら相当趣味が悪すぎる。とりあえず目次を見てみると次の通りだった。
「はじめに」
「河合さん」
「高津さん」
「灰川さん」
「ゆうこ」
「相島さん」
「まさゆき」
「當山さん」
「あとがき」
なにこれって思ったよ。まさか本当に遺書が書かれているのかもしれないって思った。あまり長く立ち読みするのも良くないから、「河合さん」の部分を冒頭だけ少し読んでみた。
「僕の話をしましょう。」
その一文から始まって、学生時代の思い出話が綴られていた。だから僕は安心して、勢いでその本を買った。多分、緊張感と安心の落差で変なテンションになっていたんだと思う。でも今まで読んだ本にはない独特な雰囲気というか、目次やタイトルの印象で、面白いかもしれないって思ったんだ。
家に帰ってそれを読んでみた。本当になんでもない、学生時代や幼少期の思い出話の短編集だった。だけど「ゆうこ」と「まさゆき」の章だけは、少し気味が悪かった。あとはこの本に出てくる思い出話達は全部、自分の努力の結晶を破壊していたのが少し引っかかった。でもそれ以外は普通の、特に怖い要素もあまりないただの短編集だ。なんだか少し落胆したけど、五十円だしあまり損した気分にはならなかった。
だけどその本を読み終えた時から、無意識にボーッとする事が多くなった気がした。休日の朝に起きて、朝ごはんを食べようとしたつもりなのに、ベッドに座ったまま三時間経っていたり。またある時はゲームをしていたはずなのに、母親に呼ばれるまで二時間も画面を見つめたまま動かなかった時もあった。
なんだか変だなと思って、日々の記録を取ろうと日記をつけ始めた。せっかくなら面白く書きたくて、「いしょ」と同じように「僕の話をしよう」という書き出しにしてみた。それらが僕が2016年まで公開していた「僕の話」だ。いつしか飽きて、日記も書かなくなってこのブログからも離れていた。
そして先週、そういえば日記をつけていたなとブログを久しぶりに見返そうと思ったら、つい先月まで更新されていた。最初は不正ログインされたのかと思った。いやもしかしたら本当にそれだけかもしれない。だけど書いた覚えがない日記を読んでいたら、「いしょ」と同じだって気付いたんだよ。
「どろだんご」も「ヴィーナス」も、その前の日記も全部努力の結晶を自らの手で破壊してる。当たり前だけど僕は泥団子にハマったこともないし、中学生の時はバドミントン部だった。それに僕は自分が頑張って築き上げたものを壊すことなんてしない。
だからこれが本当の僕の話だ。誰がログインしてるのかわからないけど、気味が悪いからやめてくれ。文才はあるんだから、ここじゃなくて小説の投稿サイトとかに投げてくれ。
僕の話をしよう 鈴木茉莉 @mariSZK
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