第2話


 あのだらしな男事件から数時間後家に帰宅してから、私は深夜に友達(彼氏持ち)に電話をしていた。友達は3コール目で出て、「今から寝るところだったんだけど」と少々呆れながらも話に付き合ってくれている。乙女を美容と健康に悪いこんな時間に起こさせて大変申し訳無い、とは思ったものの今日は本当、誰かに此の気持ち(愚痴)を聞いてもらわねばやっていけない気がするのだ。




 「それでどうだったのよ、今日のディナーは? 政府公認のお見合い会場なんてなんかウケるけど」



 一言二言、他愛も無い会話を楽しんでいると突然本題に入られて、丁度飲んでいたお酒を吹き出しそうになった。取り敢えず口元にティッシュを抑えながらゴクンと飲み干した後、先程の彼を思い浮かべる。然し出てくるのは結局、彼の着けていた黒縁眼鏡ともさい頭だけ。



 「それがさ〜相手の男性がなんか変だったんだよね」

 

 「変? どんなふうに?」


 「いやなんか……うーん。 こう、食べ方はめっちゃ綺麗なんだけど、それ以外は本当に最悪で」


 「最悪? それってつまりちかは面食いだから容姿ってこと? あんまりそういう事言わないほうが良いんじゃない?」



 私自身も彼の特徴をそれとなく伝えるのに必死で、中々二人の解像度が合致しない。恐らく彼女が思い浮かべている変は変態のほうで、私の変は変人奇人のほう。彼の口数が少なくって気まずかったとか愛想笑いすらしないとか。精一杯彼女に伝わるように話すけれど、後々思い返せば特段変なのは髪型だけであとは彼の雰囲気故な気がして、私の発言も尻すぼみになってくる。

 てか私が面食いだといつ言った!


 

 「いや顔は判らんけど……てかまず髪の毛が無造作ヘアーでさ、眼鏡を掛けていることしかわからなかったんだよねぇ」


 「無造作ヘアーか、それは確かになんか」


 「後服装も」


 「服装? 服装は流石にお見合いかつ厳かな場所何だからスーツで来るでしょ」


 「いやぁ〜うーん……確かにスーツっぽくはあるけど、上着を羽織っていない時点でスーツではないよね」





 それからも彼の此処が引っ掛かったとか、友達に伝えてみたがイマイチ共感は出来なかったようだ。彼女には彼氏がいるから、私の言ったことが男の人にとっては当たり前の事だったのかもしれない。



(にしても愛想悪過ぎででしょ……)




 「まぁ確かに変人っぽそうではあるけど、ちかに興味ないだけという線もあるよね。でもまぁ、気になるんだったら抑えておいても良いんじゃない?」


 「ええ〜あんなもさい研究オタク臭漂う男を? ってか別に気になってなんていないし」


 「研究オタクかは知らないけど……顔ははっきりと見てないんでしょ? それに今どき、洋食にしろ和食にしろ、料理を上手に食べられる人なんて滅多にいない気がするけどなぁ」


 料理を一杯食べる人が好きな人が多いように、料理の食べ方から好きになっても良いんじゃない? と謎のフォローをされたが、如何せん納得がいかない。



 「いやいや逆に料理を丁寧に食べる必要性がなくなってきたんだって。そりゃ確かに丁寧に食べたほうが印象は良いけどさぁ……お局様みたいにお作法についてチクチク釘を刺してきそうじゃん」


 「……ま、ちかの様子を見る限り私はその男はまだ様子見だなぁ」

 

 


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レシプロシティ 佐久早 比夜 @Hiyasakusa

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