レシプロシティ
佐久早 比夜
1章
第1話
――どうして私はこんな場所にいるのだろうか
私は豪華な食事を戴きながら、目の前にいるイマイチパッとしない男性を睨みつけた。男は私に目もくれず、食事の方に夢中になって食い付いている。――卑しい、私の脳内にはそのような言葉が浮かんだが、急いでそれを取り消した。勿論、大人の常識としてのテーブルマナーはなっているが、それだけではなく、彼は私の食べる速度になるべく合わせようとしてくれている。彼は無造作に見えて確りと今の状況を理解しているし、よく物事を捉えているようだ。
ふと彼がグラスを取った時に合わさる目線にドキリと、何とも形容し難い気持ちになる。
(しっかりしろ私、相手はボサボサ頭にパットしない顔。黒縁眼鏡の堅物で見るからに陰キャそうな、この気まずい空気を気遣うこともなく黙々と食事を進める男だ)
政府は少子化対策の為に無作為に選ばれた男女20名に対して、お見合いの場を設けた。対象は20代前半。当然、個人の尊重が認められるので、断っても良い。けれども私はこの政策に参加を決意した。折角の税金が他所の人の方へ行くのは少し損した気分になるし、何より設定された食事場が滅多に予約の取れないレストラン。序でに良いお婿さん候補を拾えば将来は明るい。
淡い期待と貪欲に勝てず、此処ロイヤルホテルの最上階で食事を楽しんでいる訳だが、やや不満がある。それは私のお見合い(というよりかは一対一の交流会の様な)相手が如何にもオタクそうな雰囲気を纏った男性だったという事だ。私のパーソナル診断に合わせて、誕生日、血液型、好きな物などを一つ漏らさず記入した結果を元に相手との相性で選んでいるらしいが、本当政府の目は節穴なのだろうか。相手は当日までお楽しみで、チェンジとか不可なのは知っていたが、会場に到着して一言も交わさず席に着き、一言も話さず食事を戴く。私が何か話そうかと話題を降っても、興味なさそうに「はぁ……そうですね」とか「成る程」しか言わない。無論向こうも食事目当てだっただろうけれど、エスコートは望まずとも、それでももう少し愛想良く、人相良く、人当たり良くいやせめて愉しそうにはしてくれないだろうか。おまけに猫背で着こなしも悪く、髪もぐしゃぐしゃと来たら印象なんて最悪だ。矢張り占いや心理等は当たらない。
もう一杯一杯だから、今日はこのディナーを食べ終えたら真っ先に帰って友達と電話をしながら麦酒でも飲もうと決意した。
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