最終回 ずっと…
咲月と渉はバーベキューの後から、気まずくなっていた。
徐々に一緒に帰らなくなったし、お互いのクラスに行く事もほとんどなかった。
なのに、渉は咲月の事をまだ彼女だと友達に話しているのを、咲月は聞いてしまった。
自然消滅と言っていいような関係なのに、渉はまだ別れていないと言っている現状に咲月は戸惑っていた。
もし朝陽と付き合うと考えた時、渉とは、きっちり別れていないといけないと思っていた。
だが、関係がほぼ壊れているのに、改めて別れを告げるのもどうかと咲月は考えた。
ある土曜日。
咲月が駅まで歩いていると、前から渉と結花が一緒に歩いて来た。
渉も結花も気まずそうにしていた。
咲月は2人が付き合っているとわかった。
それでも、かまわないと思った。
咲月が無視をして行こうとしたとき、渉に呼び止められた。
「お前が悪いんだからな」
「え?」
咲月は、意味がわからなかった。
「お前が浮気したんだから、こうなっても文句言えないんだからな」
「…浮気なんてしてない…」
咲月は、やはり渉が何を言っているのかわからなかった。
結花をチラッと見ると少し頷いているようだった。
渉は結花にもそうやって、咲月が浮気をしたという嘘の説明をしているんだとわかった。
咲月は腹が立ってしかたがなかった。
「先週、渉がまだ私と付き合ってるって、友達に話してるの聞いたよ」
「…それが何?」
渉の声が苦しくなった。
「じゃ、渉こそ、これが浮気じゃないの?」
「本命だから」
渉は結花の手を握った。
「バカみたい」
「は?」
「あんたに気を使って、朝陽に答えを言えなかった日々がバカみたい!なんで…」
(もう、朝陽との時間は無いのに…。悔しい…!)
「咲月!?」
突然、咲月の後ろから足音をたてながら誰かが近づいてきた。
「!!」
咲月が後ろを見るとそれは朝陽だった。
「朝陽…」
咲月は涙が滲んた。
「どうしたの?!」
咲月と渉と結花のただならぬ状況に朝陽は焦って聞いた。
咲月は朝陽と目が合うと悔しさで涙がこぼれた。
朝陽は咲月の肩をそっと触った。
「咲月、大丈夫?」
「朝陽…」
「ん?」
咲月は朝陽の服をギュッと掴んだ。
「…悔しい…」
「…うん…」
朝陽は渉の方に目を向けた。
「渉。泣かすなよ」
「は?!なんもしてねーし…」
「一時期は彼女だったんだから…、傷つけるような事するなよ」
「…別に、そんな」
渉は言葉を失いその場がシーンとした。
「…ま、いいけど…」
朝陽が軽く溜息をついた。
「何が…」
「咲月には俺がいるし」
朝陽以外の3人はびっくりして、目が大きくなった。
「ほら!浮気じゃねーか」
「違う。俺が一方的に好きなだけ」
朝陽は答えた。
咲月は言葉がでなかった。
「それに咲月と渉は、もうだいぶ前に自然消滅してたんだから。わかってたよね?」
「…それは」
「咲月は、浮気なんてしない。行こ」
朝陽は咲月の手をとってグイグイ引っ張って行った。
「朝陽…」
咲月はまだ泣いていた。
「ん?」
「好き…」
「うん」
「好き…」
「うん、俺も」
咲月と朝陽は手を繋いで、ゆっくり歩いた。
「悔しい…」
「そっか」
「渉に気を使って…。朝陽に好きって言うのこんなに遅くなって…」
咲月はまた涙が出た。
「俺は、大丈夫」
「なんで…。朝陽、もうすぐニューヨークに行っちゃうのに…」
朝陽は咲月の手を引っ張って道の端に行き、立ち止まった。
「俺は、咲月と一生一緒にいるつもりだから」
「……。え?」
「聞こえなかった?」
「…聞こえた…。けど…」
朝陽は立ち止まって、咲月の正面に立った。
「咲月、結婚しよ」
「え?!」
「これからもずっと一緒にいよう」
「…あ…。…え?」
咲月は混乱して頭がついていかなかった。
「” はい " は?」
「はい」
「うん…」
朝陽は嬉しそうに笑った。
「ねぇ、私、中2だよ?」
「そうだね」
「しかもさっき両思いになったばっかり…」
「そうだね」
「なのに…、結婚?」
「そうだよ」
咲月は戸惑いながらも、朝陽の言葉が嬉しかった。
「俺はずっと咲月が好きだったから」
「え?出会ってすぐからってこと?」
「違う」
「?」
「俺は、去年、咲月に会ったことがある」「そうなの?!」
「うん。親同士が道で偶然会って…。その時咲月も碧斗もいて」
「なんとなく…覚えてるけど。その時の人が朝陽だったなんて気が付かなかった」
「俺は咲月を一目みて、この人と結婚するってわかった」
「嘘…」
「本当。わかったんだよ」
「……」
「今回、ニューヨークにすぐ行かなかったのも、咲月を落とすためだったんだ」
朝陽は咲月の顔を見てニッと笑った。
「そうなの?!」
「そう。ニューヨークに行く前に両想いになれて良かったぁ」
朝陽はホッとしたように息を吐いた。
咲月はにわかに信じられない様な顔で朝陽を見ていた。
「…本当はね」
朝陽は照れくさそうな顔をした。
「名前も知ってた」
「え?」
「俺達が初めて話した時、咲月の名前を漢字でどう書くのか聞いたけど、本当はずっと前から知ってた」
「…何か可愛い」
「もう、必死だよ」
朝陽と咲月は一緒に笑った。
「じゃ、帰ろう」
朝陽と咲月は手を繋いで歩きだした。
「咲月、遠恋。頑張ろうね」
「うん…」
「さみしい?」
「うん」
「俺、日本の大学を受けるつもりだから。それまで待ってて」
「うん」
「きっと大丈夫だから」
「そっか」
「うん」
咲月は朝陽に体を寄せた。
朝陽は笑った。
「咲月、こっち」
朝陽が地下鉄に降りていく階段に引っ張っていった。
そこは人が来そうにもない階段だった。
そこに入ると、朝陽は咲月にキスをした。
咲月もそれを受けいれた。
2人はゆっくりと離れた。
「…キスしたあと困った顔をしない咲月を初めて見た」
「…今までも困ってはいなかったよ…」
「そうなの?」
朝陽はもう一度キスをした。
一度離れて顔を見合わせたあと、また朝陽はキスを続けた。
「あ、朝陽…」
「ん?」
「んっ…」
朝陽は止まらなかった。
「朝陽!」
咲月は朝陽を突き飛ばすくらいの勢いで体を押した。
「もう…!」
「…やっぱりいいね」
「え、何が?」
「困った顔」
「え」
「困った?」
意地悪そうな笑顔を見せた朝陽を、咲月は力いっぱい強く叩いた。
2人でよろけそうになり、お互いを支えながら、またキスをした。
終わり
ずっと前からわかってた Nobuyuki @tutiyanobuyuki
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