森の奥で快適スローライフを過ごす魔女。ヘンゼルとグレーテルとか言う2人のガキに家を食われる

たけしば

森の奥で快適スローライフを過ごす魔女。ヘンゼルとグレーテルとか言う2人のガキに家を食われる



「えぇ~っ!!見知らぬチビガキが2人、あたしの家を食べてるぅー!」


チビガキ2人、小さな男の子と女の子があたしの家の装飾品をはぎ取って、食べていたのよ。

なんか変な音がするな~って思って見たら、びっくりだわさ。


「ちょっと、あんた達、シロアリか何かなの?!普通、家食べるとかおかしいでしょ?!」


あたしの声に驚いたのか、男の子と女の子は食べるのを止めて、あたしをじっと見ているのよ。


「・・・魔女だ」


っと、男の子がボソッとしゃべったのよ。


「そうだよ。あたしゃ~魔女だよ。なんで人の家を食べるかね?やめてくれない?」


「だって・・・お菓子でできてるじゃん・・・それに、お腹すいたし・・・」


「そのお菓子は魔法で作った装飾用のお菓子であって、食べる為のものじゃないのだわさ!まあ、食べれない事はないけどさ、食べたって美味しくないでしょ?!」


「なんで・・・なんで・・・」


女の子が少し涙ぐんでいるのよ。


「なんで美味しくないお菓子なんか作っちゃうのー!」


女の子は泣きながら訴えてきたんだけどさ、泣きたいのはあたしだよ。

おしゃれにお菓子の家をDIYで作ってさ、ほのぼの暮らしていたってのに、とんだ悪ガキが来たもんだよ・・・


「わかったわかった。美味しいお菓子あげるから・・・ほら、うちに上がりなさい」


「・・・ダメだよ」


「なんでダメなのさ?」


「だって、お父さんがいつも、知らない人に付いて行ったり、家に上がったりしたらダメだって言っていたんだもん」


「知らない人の家を食べちゃダメとは教わらなかったのかい?!」


「・・・例外」


「何が例外だよ!あんたのお父さんお母さんにしっかりと弁償してもらうよ!?」


すると2人は何か思い出したようにうつむいたのよ。


「叱られて落ち込むなら初めから人の家を食べるなぁー!」


うつむきたいのはあたしの方だわさ~。


「お父さんもお母さんも、迎えに来るって言っておきながら来ないんだよ・・・」


「何?迷子になったのかい?」


「・・・たぶん」


ぐぅ~


女の子のお腹が音を立てたのよ。


「ヘンゼル。わたし、美味しいお菓子が食べたい・・・」


「グレーテル。ダメだよ。魔女は子供をさらって食べるって聞いた事あるだろ?ボク達が食べられちゃうよ・・・」


「うっうっ、食べられるのいやぁ~・・・捕食者の側でありたいぃ~」


「困ったガキ共だわさ・・・あたしゃ子供に限らず、老若男女すべての人を食べたりはしないのよさ」


「本当?」


「本当だよ」


「・・・魔女は嘘をつくって、誰か言ってた」


「わかった。そこまで信用してくれないなら、そこで待ってなよ」


あたしゃ後で食べようと思っていたクッキーを持って、その子供達にあげたのよ。

なんか、勝手に偏見であたしを悪い魔女みたいに言うもんでさ、ちょっとムカッときたのは確かだったのよね。


2人の子供はクッキーを食べたのよ。


「あ、美味しい・・・」


1口目は警戒していたのか、恐る恐るかじっていたけど、毒が無いとわかったのかがっついてすぐに全部食べちゃったのよ。


「あの、おかわり下さい」


「いやしいガキだね・・・」


「なんでこの美味しいお菓子を装飾品に使わないのですか?」


「そんな事したらアリにたかられるに決まってるじゃないか」


「おかわりが無いなら、この不味いお菓子で我慢するか・・・」


「うっうっ、不味いよぉ~」


「ちょっと!美味しいお菓子食べたんだから、もう家を食べないでほしいのよさ!」


すると、2人のガキはあたしの事、じっと見つめて来るのよ。


「ボク達は恵まれない子供達だよ?」


「うっうっ、不味いお菓子も食べちゃダメなんて、私達に植物のように生きろって言うの!?」


これは厄介なガキ共だよ・・・


「わかった。わかったから・・・飯、食わせてやるからさ、家に上がりなよ」


「なんで上がらないといけないの?」


「目を離すとお前らが家を食うからだわさ!」


ガキ共はやっと大人しく家に上がってくれたのよさ。


テーブルの席につかせて、あたしが夕飯用に煮込んでいたレンズ豆のスープを出してあげたのさ。


「具がいっぱいある・・・」


「ヘンゼル、見て!ソーセージが入ってるよ!」


「すごい・・御馳走だ・・・」


2人はあるふれたこのスープを美味しそうに食べているのよ。


「ほら、お腹すいているのはわかるけどさ、ゆっくりよく噛んで食べなよね」


2人はお皿をなめたんじゃないかってくらいに綺麗にスープを食べたのよさ。


「美味しかった~・・・ありがとう魔女のおばさん!」


「おねえさん!」


これだからガキは・・・


「満足したなら帰りな。そしてもう、家を食べに来たりしないように。いいね?」


「・・・ボク達、帰れないのです」


「ああ・・・迷子だったっけね?」


「いつかお父さんとお母さんが迎えに来るはずなのです。それまで、ここにいてはいけないでしょうか?」


「はぁ~?そんな都合がいい事・・・」


「お願いです!何でもします!だから、だから見捨てないでっ・・・」


「うっうっ、お父さんお父さん森の中に魔王がいるよー」


「それはただの枯れた木だわさ・・・」


困ったもんだよ。

涙見せれば思い通りに行くとでも思っているのかねぇ。

図々しいガキ共だわさ・・・


「掃除、ご飯の支度、後裏の庭にあるハーブの手入れ、それらを手伝ってくれるんだったら、しばらくの間だけ、いてもいいよ・・・」


困ったもんだよ。

押しに弱いあたしもねぇ。


「ありがとう魔女のおばさん!」


「おねえさんだっつってんだろーがっ!」


「お父さんお父さん魔王の娘が優しいー」


「だったらよかったじゃねーかっ!魔王の娘じゃねえけど!」


それから、このガキ共との生活がはじまったのよさ。

男の子はヘンゼル。

女の子はグレーテル。

この子のお父さんは、木こりをやっていて、貧しいながらも暮らしていたそうなのよさ。

生みの母親はもう亡くなっていて、今は父親の再婚相手、継母が家にいるそうなのよ。

継母はあまり、いい母親ではないみたいでさ、暮らしも貧しいんだってさ。

まあ、他人の家族の事情なんて、あたしにゃ~関係ない事だねぇ・・・


なんで迷子になっていたかって聞くと、継母の知り合いの木こりに連れてこられて森の奥で置き去りにされたみたいなのよ。

なんだろねぇ・・・

まさか、捨てられたんじゃないだろうかねぇ・・・


あたしの心配はよそに、ヘンゼルとグレーテルは家の掃除をしていたんだけど、なんか気が付けばほうきにまたがってぴょんぴょん跳ねてるのよ・・・


「魔女さん。ほうきにまたがったんだけど、飛べないよ・・・」


「うっうっ、なんで飛べないのぉ・・・不良品だよぉ・・・」


「あのさ、普通のほうきにまたがった所で、しかも魔法も使えないあんたらが空を飛べるわけがないのよさ・・・」


「じゃあ、魔法教えてよ。ボク、魔法使いたい」


「ヘンゼルだけずるい!私も私もー!」


「あのね、そう簡単に魔法が使えたら、だーれも苦労しないのよさ・・・」


「そんなぁ。けち・・・」


「そんなんだから魔女狩りされるんだぞ!」


「わかったわかった!いい子にしていれば少しは教えるから・・・」


「魔女のいい子の基準ってなんですか?」


「人としての常識の範囲内だわさ・・・」


「汝のはかるはかりで汝もはかられるであろう!」


「偉そうに聖書の言葉を使うなぁー」


その後、家の裏庭にあるハーブの手入れを教えたのよさ。

まあ、どれがどのハーブなのか、まだまだ見分けがつかないようだったんだわさ。

今晩、夕飯に使うハーブも収穫したのよさ。


ヘンゼルには薪を用意させ、グレーテルには料理を教えて、今日の夕飯が出来たのよさ。

夕飯はウサギ肉の酢漬けと野菜を煮込んだ料理と、大麦ライ麦スペルト小麦をあわせたお粥と、ザワークラウトなのよさ。


「お粥・・・ボク嫌い・・・」


「食べなさいよ。ライ麦とスペルト小麦は体にいいのだわさ」


「ウサギ・・・うっうっ、可哀想・・・美味しく食べてごめんねぇ~」


「泣きながら食べるなぁ~・・・」


「ザワークラウト・・・ボク嫌い・・・」


「それが嫌いなのは致命的だわさ・・・国を出るしかないねぇ・・・」


「うっうっ、我が家の飯より美味しい・・・」


「よかったじゃんか・・・喜んでよ・・・」


「ウサギの骨・・・これ、魔法に使えますか?」


「あたしは使わないね」


「ねえ魔女さん。私達に美味しい料理食べさせて、私達を太らせて食べるつもりなの?」


「もし、食べるとしてもそんな面倒な事しないのよさ・・・そもそも森の奥で太らされて食べられるって、冬に入る前の肥育豚みたいだねぇ」


「魔女さんに食べられるくらいなら、私は魔女さんを食べる・・・私は捕食者としてのプライドがあります」


「そんな変なプライド持つなっ!」


っと、なんだかんだ、久しぶりに賑やかな夕食ではあったのよさ。


ヘンゼルとグレーテルは急遽用意した木の板の上に藁と亜麻布あまぬのを敷いた簡単なベッドで寝たのよさ。

大人しく寝てくれたのはよかったのよ。


まあ、これからどうするかねぇ。

あたしはシュナップスを飲みつつ考えたのよさ。

この子達を親元へ帰すのか、だとしたらどこにいるのかねぇ・・・

それに、本当に捨てられた子達である可能性は妙に高いのよねぇ・・・

すると、親元へ帰すのはどうなのだろうかねぇ・・・

または孤児を向かい入れてくれる所に受け渡すかねぇ・・・

何かの職人ギルド?

それとも騎士修道会?

あまり気が進まないねぇ・・・


考えたけどさ、いい案は思い浮かばないものなのよさ。

すぐに答えを出さないで、自分が後悔しない選択を探る事にしたのさ。



☆☆



「魔女さん!ボク、木を伐採ばっさいして、環境破壊しつつも、自分達のベッド作ります!」


よっぽど寝床の寝心地が悪かったんだろうね・・・


「だから、斧を貸してください!」


「まあ、あるけどさぁ・・・できるの?伐採ばっさい・・・」


「出来ます。ボクは木こりの子です。プロの環境破壊の職人です」


「木こりなら伐採ばっさいばっかりしてないで、植林しょくりんもしようよ・・・」


植林しょくりん・・・新しい概念がいねん・・・流石魔女・・・」


まあ、ヘンゼルは斧を持って、木を伐採ばっさいしに行ったのだわさ。

あたしとグレーテルは心配だからついて行ったのよ。


「魔女さん。木を切る前に、ちゃんと材木で使えるか、中が空洞化していないか確かめてから伐採ばっさいするんですよ」


ゲシッ! ゲシッ!


知識自慢をしつつ、木を殴るヘンゼル・・・


「それ、木に暴力振ってるだけじゃないの?伐採ばっさいDV?」


「この木は使えそうです!」


ヘンゼルは斧を振った。

しかし、斧はすべって飛んで行ってしまったのよさ。


「っち、斧が逃げやがった・・・」


「いやいや、ヘンゼルの持ち方が悪かっただけじゃ・・・」


「あの斧、生意気にもサボタージュしやがって!出てこい!」


斧を探して、茂みを練り歩くヘンゼル。

すると、足を滑らせて転がって行ってしまったのよ・・・


「うがあああああああっ!」


ドッポン!


ヘンゼルは池に落っこちたのよさ・・・


「ヘンゼルー!大変な事になったのよさ・・・」


「うっうっ、ヘンゼルが水漬みづかばねっ!」


すると、池から綺麗な女の人が出てきたのよさ。


「あなたが落としたのは金のヘンゼル?銀のヘンゼル?」


「・・・あんた誰?」


「質問を質問で返さないで下さい。私は池の女神です。あなたが落としたのは金のヘンゼル?銀のヘンゼル?って聞いているから答えなさい」


自ら女神を名乗る女・・・魔女もびっくりだわさ・・・


「えっと、もっと汚いヘンゼルだわさ・・・」


「えーっ!私、金のヘンゼルがいいー!」


「グレーテル、それは本当にあんたのお兄さんなのかね?」


「うっうっ、厳しい現実を突き付けてくるよぉ~」


「あの、このメスガキの事は気にしないでくださいねぇ・・・もっと汚いヘンゼルで・・・」


「金か銀か問うているというのにもっと汚いのっていう答えを出すとか、2択じゃ満足できない卑しん坊めっ!まあ、いいでしょう。正直に答えたので、おまけに金と銀のヘンゼルも渡します」


「あの、1人で十分だわさ・・・」


ヘンゼルが帰って来て、おまけに金と銀のヘンゼルも付いてきたのよさ・・・


「ウィーン、ワタシ ハ 銀 ノ ヘンゼル ダ・・・ウィーン、ウィーン」


「ガガギゴガガッ、ワタシ ハ 金 ノ ヘンゼル ダ 。銀 ノ ヘンゼル 5人分 ノ 価値ガ アル ンダゾ 。 大事 ニ シロヨナ・・・ガガギゴガガッ、」


ガキ2人でも大変なのに、妙なのが2体、付いて来ちゃうなんて、困ったもんなのだわさ・・・


「ヘンゼルが増えた!」


「ボクが・・・複数人いるっ!」


「ウィーン、伐採ばっさい・・・ウィーン、伐採ばっさい・・・」


ピカッ! ズビィィーーーーーー!


銀のヘンゼルが目からビームを放って、大木を焼き切って倒したのよ・・・


「こうして原生林がこの世から姿を消してゆくのか・・・人類は恐ろしい・・・」


「うっうっ、未来の子供達に残すべき恵まれた大自然の環境が破壊されて行く・・・」


「さっきまで意気揚々と環境破壊するって言っていたやつらとは思えんな・・・」


金と銀のヘンゼルは伐採した木を丸太に加工して、えっさほいさとあたしの家まで運んで、ベッドを2つ作り上げちゃったのさ。


「金と銀のヘンゼルのベッドは作らないのかねぇ?」


「ウィーン、ワレワレハ ベッド デ 眠ラナイ・・・ウィーン、」


「ガガギゴガガッ、日光 ヲ 浴ビテ、充電スレバ 動キ 続ケル事ガ デキル、ガガギゴガガッ、」


「あんたら、すげぇアーティファクトだわさ・・・」


「太陽の光だけで動けるなんて・・・すごい環境にやさしいクリーンなアーティファクト・・・」


「環境破壊したり、環境に優しかったり、忙しいやつらだわさ・・・」


その夜、お風呂を沸かしたのよさ。


「ヘンゼル、グレーテル、お風呂に入るのよさ~」


「お風呂!?ボク達の文化にその様な概念はない・・・」


「うっうっ、毛穴が広がって病に陥るぅー!」


「あんたらはいつまで暗黒時代やってるのよさ・・・」


「ガガギゴガガッ、、風呂ニ 入ッタ事ガ原因デ ペスト ニ ナル 確率 ハ 0.000000001%・・・ガガギゴガガッ、」


「ほら、金のヘンゼルもそう言ってるのよさ」


「魔女さん・・・もしかして、お風呂じゃなくて大きな鍋でボク達を煮て食べるつもりでは?」


「食べないのよ・・・もしかして、自分の事、美味しいって思ってるの?自分の味に自身あるの?」


「魔女さん。私は美味しくないよ。食べるならヘンゼルだけがいいよ。ヘンゼルは全身シャトーブリアンだよ」


「兄を売るなよねぇ・・・」


「わかった。ボク達の入ったお風呂のだし汁を飲むんだね?」


「それはただの変態なのよ・・・いいから、風呂に入れるよ!」


あたしはヘンゼルの手をとったのよ。

でも、妙にガリガリの感触なのよ。

見て見ると、いつかのウサギの骨を握らされていたのだわさ・・・


「ヘンゼル・・あんた、悪い子だねぇ・・・」


兎に角2人捕まえて、服を脱がして、風呂に入れたのよさ。


「うっうっ、美しい私の美徳が風呂によって泡と消えて行く・・・」


「風呂に入ったほうが綺麗になれるってさ・・・」


「イースターとクリスマスの前に入るのがいいって、偉い人言ってた」


「男の子は騎士に憧れた事ないのかねぇ?騎士は水泳も習得しないといけないから、入浴で水になれるんだって聞いた事があるのよさ」


「え、そうなんだ・・・ボクには金の拍車は遠すぎる存在なんだ・・・」


「諦めが早すぎるガキだわさ・・・」


ヘンゼルとグレーテルは綺麗になったのさ。


「よし、ヘンゼルもグレーテルも、綺麗になって偉いねぇ」


「今のボクは、金のヘンゼルよりも輝いている・・・今のボクは鉄のヘンゼルだ!」


「どうしよう・・・私、美しすぎて怖い・・・魔女さんに嫉妬されて、毒林檎食べされられちゃうかも・・・」


「あんなに嫌がっていたのにさ・・・」


「金のヘンゼルと銀のヘンゼルはお風呂に入らないの?」


「ウィーン、ワレワレハ オートクレーブ機能ガ アルノデ、風呂ニハ 入リマセン、ウィーン、」


「ガガギゴガガッ、ワレワレハ 強ク ソシテ 美シイ、ガガギゴガガッ、」


「なんかムカつくなぁ・・・」


「ヘンゼル同士で喧嘩しないのよ・・・」


今日も夕飯を済ませ、ヘンゼルとグレーテルは、新しいベッドで寝たのよさ。

まあ、あたしのベッドよりもいい感じのベッドなのがねぇ・・・


金のヘンゼルと銀のヘンゼルもスリープモードとか言いながら、動かなくなったし、多分、こいつらも寝ているんだろうねぇ・・・


あたしは1人、ビールとシュナップスを飲んで考えていたのよさ。

あ、ビールのチェイサーでシュナップスをちびちび飲むのよねこれ。

あたしのおすすめの飲み方・・・

まあ、それはさておきさ、あの2人、今後どうするかねぇ。

なんか、余計なのが2体増えたしねぇ・・・


まあ、そのうちなんとかなるでしょうねぇ~・・・

もし、あの子達の親が来たとしたら、あの2体も引き取ってもらおうかねぇ・・・



☆☆



今日は朝からヘンゼルがいないのよさ。


「ヘンゼルは何か探しに森の中に行っちゃったよ」


「あんたら・・・迷子になってここに来たの、忘れたんじゃあるまいかね?」


「・・・っは!?」


「ったく・・・どこに行ったんだか・・・」


っと、心配をよそに、ヘンゼルはすぐに走って帰ってきたのよさ。


「やばいやばい!早く家の中に入って!」


「やばいって、どうしたのさヘンゼル・・・」


「グレーテルも、魔女のおばさんも早く家の中に隠れて!」


「おばさんじゃねえ!おねえさんだ!」


あたしらは家の中に押し込まれたのよさ。

そんでもんで、ヘンゼルは慌ててドアを閉めたのよ。


ドンドンドン!


すると、何者かがドアを激しくノックするのよ・・・


「くそ・・・ここまで追って来たか・・・」


「どうしたのさヘンゼル・・・何が来たのよさ・・・」


ドンドンドン!


激しくノックされて、流石にあたしもびびったね・・・


「うっうっ、きっと狼だ・・・可愛い私を食べに来たんだ・・・」


「いやいや、ヘンゼルを追って来たんだよねぇ?」


ドンドンドン!


激しいノックの後にドデカイ声が響き渡った。


「てめぇの落としたのは金のう○こか、銀のう○こかって聞いてんだよクソガキがぁ!!」


「え?池の女神?」


ヘンゼルは静かにうなずいたのよ・・・


「質問に答えろやぁ!金のう○こ、銀のう○こ、てめぇのクソは何色だーっ!?」


「え?ど、どういう事?」


「・・・したんだよ」


「え?ヘンゼル?どうしたってのさ?」


「ボクはあの池の近くでう○こしたんだよ!」


「な、なんでよりによってあの池でするかねぇ!!」


「我慢できなかったんだ・・・魔女さんから借りた斧、見つからないままだったから・・・探していたらう○こしたくなって、ちょうどよくう○こしやすい池だなって思って・・・」


「女神がいる池にう○こするなぁ!」


ドンドンドン!


「黙ってんじゃねえぞ!いるのはわかってんだよ!出てこねえと全部のう○こ、この家に投げつけてやんぞオラぁっ!」


「ひいっ、やる事が農村の悪ガキ・・・」


「うっうっ、お菓子の家がう○この家になっちゃうよぉ~」


「ヘンゼル!ちゃんとあやまりなさい!自称とはいえ、池の女神だわさ」


「神は1つ、なのに神を名乗る不届き者に対して謝罪は魂が穢れます」


「悪い事をしたなら謝る!それが邪教徒だとしても、人としての礼儀だわさ!」


「魔女なのに正論・・・」


ドンドンドン!


「てめぇの答えを聞くまでここから動かないからなっ!」


「借金取りより厄介じゃん・・・ほら、ヘンゼル!」


「やだっ!謝る事は負けを認める事!」


「謝罪に勝ち負けはありません!あやまりなさい!」


「ヘンゼル・・・早く負けを認めて・・・籠城戦ろうじょうせんは負ける確率が高いのよ」


ヘンゼルはやっとあきらめて、ドアを開けて、女神に謝罪したのよ。


「ごめんなさい。ボクが落としたのは普通のう○こです・・・」


「金銀パールう○こプレゼントっ!!!」


ぐしゃしゃしゃーっ!


ヘンゼルの頭の上に、金色銀色パール色のう○こが重ねて乗せられたのよさ・・・

女神はがに股でオラつきながら池に向かって去って行ったのよ・・・


「ああ、ヘンゼルの頭が綺麗な汚物に染まってるのよさ・・・」


「綺麗・・・う○こじゃなければ・・・」


ヘンゼルは歯を食いしばって震えていたのよ。

屈辱的ではあるけどさぁ・・・

自分で招いた災いよねぇ・・・


「っく、殺せ・・・!」


「そこまで恥に思うなら、これからは気を付ける事だねぇ」


その後、裏庭の片隅に穴を掘って、金銀パールう○こは埋めたのよ。

ヘンゼルは井戸水ぶっかけて、洗ったのよさ。


「グレーテル・・・何かいいものはないか?」


「・・・ナイフがあるよ」


ヘンゼルはグレーテルからナイフを受け取って、袖に差し込んだのよ。


「こいつがあれば・・・次は勝てる・・・」


「暗殺者みたいな事は止めなよ・・・物騒だわさ・・・」


あたしはその後、池の女神に謝りにいったのよさ。

かなり怒っていたんだけどさ、家に招いて御馳走するって、美味しいお酒も用意するって話したら機嫌よくなったのよさ。

家に戻って、その事をヘンゼルとグレーテルに伝えたのよさ。


「では、美味しい料理を作らないといけないわね」


グレーテルはやる気満々。

助かるわぁ~・・・


裏庭で飼育しているニワトリを2羽、シメて料理する事にしたのよさ。


「私、美味しいニワトリの調理方法しってるから任せて!」


っと、グレーテルは自慢げにニワトリにハーブや塩を使って味付けして、丸焼きにしたのよさ。

とってもいい臭いがするのよさ。


「魔女さん。グレーテルの作るニワトリの丸焼きは本当に美味しいよ。こればかりは確かな事なんだ」


ヘンゼルも認めるグレーテルのニワトリの丸焼き、それは気になるものさ。

多分、赤ワインがあうよねぇ。

南の国から仕入れたいいワインがあるのよさ。

今日の夕飯は最高の夕飯になりそうだわさ・・・


「魔女さん。ニワトリの丸焼きが出来たのですが、女神さんはまだ来ないのですか?」


「もう出来たのかい?そうね、もう少し後になりそうだわさ」


「出来立てほやほやが一番美味しいのですよ。冷めてしまってはもったいない・・・」


「じゃあ、あたしが急いで女神さんを連れて来るのよさ」


あたしは池の女神の所に行って、急いで女神さんを連れて帰ってきたのよ。

すると、妙に満足そうなヘンゼルとグレーテルがいたのよさ。


「あれ?ニワトリの丸焼きは?」


「ごめんなさい。味見していたら無くなっちゃった」


えー!

2人で食べちゃったのー!?

女神さん連れてきたのに、どうしようかねぇ・・・


あたしは急いでもてなす料理を作ろうと、裏庭のニワトリをもう1匹、シメようと思ったんだわさ。

でも、包丁の扱いが雑だったのか、妙に刃こぼれしているのよさ。

慌てて研いだのよね。


そんな急ぐあたしを他所に、ヘンゼルとグレーテルは女神さんと何か話しているのよさ。

聞き耳たてて聞いてみたのよ。


「女神さん。御馳走をするのは嘘です。あなたが御馳走になるのですよ」


「魔女さんはあなたを三枚におろして食べるつもりです」


何を言っているのだあのガキ共は!!

あたしは慌てて説明しようと調理場を飛び出たのよさ。


「まって!女神さん!ガキ共のいう事は嘘だわさ!」


「ひっ!包丁持ってるぅ!」


逃げようとする女神さん。


「女神さん!待って!少しだけ、少しだけでも!」


「ぎゃあああ!私を食べる気なんでしょ!このカニバリズム魔女!」


「誤解だわさー!」


追いかけるも女神さんは走って逃げて行ったのよさ・・・

あたしはあきらめて、家に帰ったよ・・・


「ヘンゼル、グレーテル・・・あんた達・・・」


「魔女さん。ニワトリの丸焼きは女神さんが持って行ったのです」


「グレーテル!見え見えの嘘をつかない!さっきつまみ食いしたって言ってた癖にさ!」


こっぴどく叱っちゃったのよ。

あたしゃ子供を叱るなんて無縁だと思って生きて来たけどさ、今日ばかりは叱ったねぇ・・・

二人共、反省したかよくわからないけどさ、夜になったらベッドでぐっすり寝ていたよ。


あたしゃ今日も晩酌したよ。

愛用の革袋に入れてあった赤ワインを飲んだのよさ。

ヘンゼルとグレーテルの2人はいつまでここにいるかはわからないけどさ、ちゃんとしつけしないといけないのかねぇってさ・・・

子供の面倒を見るのって大変だわさ・・・

本当は放っておきたいけどさ、2人の将来を考えるとしつけたほうがいいのかねぇ・・・

って、なんで押し入ってきたガキ共の将来を気にせにゃならんのよさ・・・

あたしゃ、チビガキが苦手なんだわさ・・・



☆☆



ヘンゼルとグレーテルに色々、薬草の事を教えたのよさ。


「魔女さん。ボクはハーブの事よりも魔法が使いたいよ」


「ハーブの薬学も魔法の一種だわさ。ハーブの知識から魔法ははじまるようなものなのだわさ」


これはあたしのお師匠さんから教わった事なのよさ。

お師匠さんは凄腕の魔法使いでさ、弟子になりに来る子達はいっぱいいたのよ。

でも、誰しもが魔法を使えるわけじゃないのよさ。

だから、お師匠さんは薬用ハーブの事をはじめに教えるのよ。

それは、魔法使いになる道を挫折した後も役に立つからねぇ。

挫折して故郷へ帰る子達にも、何か人生の役に立つ事を教えてあげたいっていうお師匠さんの優しさってのをあたしは受け継ぎたいって思っていたのさ。


ぶぇーーーーー


そんなあたしの気持ちを他所に、ヘンゼルはバグパイプを吹いて遊んでいるのよさ・・・


「ヘンゼル・・・ちゃんとあたしの話を聞きなさい!」


「やだ!本当の魔法を教えてくれないならボクはバグパイプを吹いて、男でもスカートをはく国の人になる!」


ヘンゼルは反抗期なのかねぇ・・・

ハリネズミのようにとげとげしているのよさ。


「魔女さん。ヘンゼルは放っておいて、もっと私に魔法を教えて、魔女さんの死後、あたしに遺産を相続してください」


「ああん?調子のいい事を・・・魔法で薪にして暖炉に投げたろうか?」


「わあお、無慈悲なバッドエンド・・・」


まあ、そんな調子で、グレーテルに薬草の事を教えていたのよさ。

気が付けばバグパイプの音もしなくなって、ヘンゼルもあきらめがついたかと思って見てみると、鹿がバグパイプをくわえていたのよさ。


「・・・鹿?」


「ちがうよ!ボクだよ!ヘンゼルだよ!」


っと、鹿は自分がヘンゼルであると言うのよさ・・・


「ヘンゼルが鹿になっちゃった!どうしよう・・・私、お兄ちゃんは鹿ですって、将来の結婚相手に報告するの恥ずかしいよ~」


「気にするところはそこかねぇ・・・」


「くそっ!魔女のばあさんの呪いか!?」


「その愚痴、よく魔女の前で言えるねぇ・・・」


ハリネズミみたいになったり、鹿になったり忙しいヘンゼルだわさ・・・

いやいや、でも突然姿が鹿になるのは流石におかしいのよさ。


あたしは魔法陣を地面に描き、その真ん中に鹿になったヘンゼルを立たせ、魔法の呪文を唱えたのよさ。


「わかったわ・・・ヘンゼルに鹿になる呪いをかけた犯人・・・」


「え!?誰!?ボクは万人を愛し、万人から愛されているのに、呪うなんて・・・」


「池の女神だわさ・・・」


「あのアバズレめっ!」


「魔女さん。ヘンゼルは鹿の姿から元に戻らないの?」


「戻る方法はあるのよさ・・・」


「その方法は!?教えて魔女さん!ボク、なんでもするよ!!」


「池の女神に謝罪することなのよ」


「ああ・・・無理だ・・・終わった・・・ボクは鹿として生きるしかないんだ・・・」


「どんだけ謝罪が出来ない糞ガキなんだよあんたはさぁ・・・」


兎に角、呪いを解いてもらうために、池の女神に謝罪に行ったのよさ・・・


「うわああああああああああ!」


鹿になったヘンゼルは足を滑らせて、池に転落したのよ・・・


「またかよ・・・」


「またかよ・・・」


あたしとグレーテルは正直、あきれていたわ。


池から女神が出てきたのよ。


「あなたの落としたのは・・・・金の鹿?銀の鹿?」


「あのね、女神さん。本当に色々迷惑かけてごめんなさいねぇ・・・」


「質問に答えろ!」


「ひぃ!」


女神さん、マジギレしてるのよ・・・


「もっと・・汚くて、意地も汚い鹿です・・・」


「・・・っち!」


「ええ?!し、舌打ち!?」


「では、次の問題です」


「だ、第二問!?」


「なぜ、私は怒っているのでしょうか?」


「・・・・糞ガキがまた懲りずに池に落ちたから?」


「違います」


「・・・・ヘンゼルが反省する素振りも無いから?」


「違います」


「・・・・ニワトリの丸焼きが」


「違います!」


「では・・・なぜ?」


「最初にその金銀の鹿を何処で手に入れたか聞いてほしいの。そして、あなたが落とした鹿のヘンゼルを一緒に探しに行ってほしいの」


「めんどくせえ女神だわさ」


その後、なんとかヘンゼルは元の姿で返してもらったのよさ。

もう二度とこの池に近寄らないようにしかと叱ったのだわさ・・・


その日の夜だったのよさ。


ヘンゼルが薪を燃して、あたしとグレーテルで料理を作って、晩御飯を用意したのよさ。

晩御飯を食べようとした時だったのさ。

窓の外におぞましい姿の何かがいたのよ・・・


「魔女さん。あれは何?」


「魔女さん・・・私、怖いよ・・・」


「え?な、なんだろねぇ・・・」


あたし達は恐る恐る窓の外のおぞましい姿の何かをよく見ようとした瞬間だったのよさ。


コケニャワンヒヒーン!!


まるでこの世のものとは思えない声がしたのよさ。


「ぎゃああああああ!!化け物だあああああああああ!!!」


「うわああああああああああ!お終いだあああ!!」


ヘンゼルとグレーテルはそのおぞましい声に驚いて、SAN値が減って発狂して、家から飛び出して逃げて行ってしまったのよさ。

あたしは慌てて2人を追いかけたのよ。


あたしはヘンゼルとグレーテルをなんとか捕まえてさ、家に戻ったのよ。

でも、家の中に何かが入っちゃってさ、恐る恐る窓からのぞいてみたのよ。

すると、年老いたロバと犬と猫とニワトリがあたしらの夕飯を勝手に食べていたのよさ・・・


聞き耳を立てて、動物たちの会話を聞いてみたのよさ。


「ここはいい家だにゃー。音楽隊としての旅路の途中にこんな家があってよかったにゃー」


「ぼくらの美声を聞いて、中にいた人達は逃げて行ったワン。誰だかわからなかったけど、きっと盗賊だワン。そういう事にするだワン。ざまあだワン」


「住みやすい家ロバー。ここで暮らすのも悪く無いロバー」


「ケッコーケッコー」


ああ、あたしの家はチクショウ共に乗っ取られてしまったのよさ・・・

奪い返すしかないねぇ・・・


「あんたたち!あたしの家を勝手に乗っ取らないでくれるかね!」


「奪い返そう立ってそうはいかないニャー!」


「悪しき盗賊は滅ぶべしだワン!」


「ケッコー!ケッコー!」


「みんな!合体だロバー!」


ロバの上に犬が乗り、犬の上に猫が乗り、そして最後にニワトリが乗ったのよ。


『超・合体!シュタトムジカンテン!!』


デーーーーン!


いや、ただ重なっているだけなんだけどさ・・・


『くらえ!魂のビーストカルテット!!』


合体(?)した動物達が一斉に大声を張り上げるのよ。

物凄い音圧に、あたしは吹き飛ばされて、家の外に追い出されてしまったのよさ・・・


「魔女さん・・・弱いの?」


「うぐぐ・・・攻撃魔法使ったら、家が無くなっちゃうからさ・・・」


「負けて言い訳は見苦しいよ?」


「うっうっ、私のお菓子の家が・・・」


「いやいや、あたしの家だわさ・・・」


「私の将来相続する家が・・・」


でも、なんとか追い払う方法はないものかねぇ・・・

そうだ、さっき、会話で何か言っていたねぇ・・・


あたしはもう一度、ドアを開けたのよ。


「あんたたち!音楽隊組んで何処か行く途中だったんじゃないのかね!?」


チクショウ共はあたしをじっと見ているのよさ。


「こんな所で家を乗っ取って満足してていいのかね!?あんたらの夢はなんなのかね!?ここであきらめるのかね!?」


「にゃー達の・・・夢・・・・」


「ボク達は・・・何を目的に旅をだワン・・・」


「歌を・・・歌を歌う為にロバ・・・・」


「ケッコ・・・」


「こんな所で腐ってるようなタマなのかねぇ!?1歩でも先に進まないでいいのかねぇ!?」


「そうだ。にゃー達は音楽隊にゃ!」


「ぼくらの歌は復讐劇・・・今まで生きて来て何もいい事が無かったぼくらの世の中に対しての復讐なんだワン!」


「そして、未来永劫語り継がれる伝説になるんだロバ―!」


「ケッコー!ケッコー!」


こうしてチクショウ共は何か大切な事を思い出したようで、家を出て行ったのよさ・・・

なんとか家を取り戻すことが出来たのよさ。


「うっうっ、私達の晩御飯が・・・」


ニワトリだけでも捕まえて、シメておくべきだったかねぇ・・・



☆☆



グレーテルが姿見の前で何か話しているのよさ・・・


「鏡よ鏡よ・・・世界で一番美しいのは私?」


「ピピッ。あなたではありません」


「このクソ鏡がぁ!!」


姿見を殴るグレーテル・・・


「止めなよ・・・アーティファクトと喧嘩しないでよぉ~・・・」


「魔女さん!この鏡、不良品だよ!だって、変な事しか言わないもん!」


「ピピッ。ききとれませんでした」


「しかも、なんかムカつく・・・」


「この鏡はそういうものだからさ、むきにならないのよさ・・・」


「へい鏡!世界で一番美しい人を映して!」


「ピピッ。いまげんざい、せかいでいちばんうつくしいのは、かのじょです」


鏡に知らない美女の姿が映ったのよ。


「何よこいつ・・・鏡の中でいかにも承認されたい欲望丸出しな踊りしやがって・・・この鏡の美人のセンスないわぁ~・・・」


「ピピッ。ごじゅうにんのおうじと、ごせんにんのいっぱんじんだんせいに、アンケートをとったけっかです」


「っち!どうせ美人の基準は知名度なのね!くだらない!」


「オッケー鏡。その映像止めてなのだわさ」


鏡は普通の鏡に戻ったのよ。


「グレーテル。何、怒ってるんだ?」


「あ、ヘンゼル!この鏡が私の美貌を認めないのよ!」


「へぇ・・・」


「あ!興味ねえなこいつ!!」


「所で魔女さん。なんか色々変な道具があるんだね」


「まあ、ほとんど使わないけどねぇ」


「魔女さん。宝石もあるのね?素敵なアクセサリーもいっぱいある!」


「それらは魔力のある宝石で作ってあるやつだからさ、魔法を扱えない人が身に着けると危ないんだわさ」


「ボク、この指輪がいいな!」


「あ!ヘンゼル!勝手に身につけたらダメなのよさ!」


「おや、風が吹き始めたぞ」


「それは空気の聖霊が宿った指輪だわさ!早く外しなさい!」


すると、ヘンゼルはふわふわと宙に浮きだしたのよ。


「おお・・・飛んでいる!」


「あ~!ヘンゼルだけずるーい!」


「よし、大空を飛ぶぞ!」


ヘンゼルは勢いよく上に飛ぶんだけどさ、まあ、天井に激突して、そのまま床に落下したのよさ・・・


「・・・ヘンゼル?大丈夫かねぇ?」


「・・・っふ、空はボクには狭すぎた」


「変な所でもぶつけたんかねぇ?」


ヘンゼルから指輪を取って、しまっておいたのよさ。

そして、下手に触ると危険だと、2人にしっかり言いつけておいたのよさ。


その後、あたしはヘンゼルとグレーテルに文字の読み書きの勉強をさせたのよさ。

放っておいてもさ、どうせ遊んでるだけだからねぇ。

気が付けば、もうお昼なのよさ。

お昼ごはんの用意をすっかり忘れていたのよさ。

でも大丈夫なのよ。

アーティファクトの壺があるのよさ。


「魔女さん。この壺は何?」


「まあ、見てなよ。『壺よ壺、美味しいお粥を炊いておくれ』」


すると、何も無かった壺の中に、暖かいお粥が湧き出て来たのよさ。


「これくらいでいいかねぇ。『壺よ壺、止まっておくれ』」


そう、止める呪文も言わないと、永遠に湧き出てきてしまうからねぇ。


「すごいや魔女さん。しかも、このお粥、美味しいよ!」


「ヘンゼル、つまみ食いが早いねぇ・・・でも、このお粥は栄養素が低いからねぇ。こればっかり食べていると体調不良になっちゃうから気を付けないと行けないのだわさ」


こうして、お昼ごはんを食べて、午後、あたしはキノコを採りに出かけたのよさ。

まあ、キノコはねぇ、毒になるのが多いからさ、あの2人はまだ、連れていけないのさ。

まあ、少し心配ではあるけどさ、2人に留守番を頼んだのよさ。


ある程度キノコを採って、家に戻ったのよさ。


そしたらさ、家のドアが開いていて、外にヘンゼルとグレーテルが立っているのよ。


「ヘンゼル、グレーテル、どうしたのよさ?」


「あ!魔女さん!大変!魔法の壺が壊れちゃった!止まれって呪文を唱えても止まらないんだよ!」


何を言っているのかと思ったんだけどさ、家を見たらすぐにわかったのよさ。

開いたドアからお粥が溢れ出ていたのよさ・・・


「壺よ壺、止まっておくれ」


っと、あたしが呪文を唱えると、お粥が増える事は無くなったんだけどさ・・・


「あんた達・・・勝手にお粥、食べようとしたのでしょ!」


「その、止まる呪文を何度言っても止まらなかったんだよ。なんだろ・・・認識してくれなかったのかな・・・」


「ヘンゼル・・それはきっと、あんたが呪文を間違えていたからだわさ・・・」


「うっうっ、お菓子の家がお粥の家になっちゃった・・・」


その後さ、掃除が大変だったのよさ・・・

床に落ちていない分はまだ食べれるから、捨てずに夕飯で食べる事にしたのよさ。


「え~、もうお粥あきたー!」


「うっうっ、お粥は飽きるけど、パンとソーセージなら毎日食べられるのにぃ~」


わがままなガキ共だわさ・・・

この国では毎日同じ食事じゃなければ安心できないって人が多いのにねぇ・・・

まあ、あたしもどちらかと言えばグルメ派ではあるからさ、気持ちはわかるのよさ。

採って来たキノコの中でも食用で使えるキノコを使って、お粥と一緒に煮込んでリゾットにしたのよさ。

味変なのよさ。


「キノコのリゾット、美味しい!」


「魔女さん!流石!」


なんだかんだ、2人は喜んで味変したお粥を食べたのよさ。

でも、まだお粥は沢山あるからねぇ・・・

さて、明日はどんな味変をするべきかねぇ・・・



☆☆



ドンドンドン・・・


ドアをノックする音がしたのよさ。


あたしはドアを開けると、赤い頭巾を被った女の子がいたのよさ。


「まあ、おばあちゃん、どうして若返ってるの?」


「それはお前が来るべき家を間違えているからなのさ・・・」


「間違えてる・・・?おばあちゃん、どうして家の外壁をお菓子にする変なリフォーム工事しちゃったの?」


「だからあたしゃお前さんのおばあちゃんじゃないし、おしゃれだと思ってお菓子の家やってんのよさ・・・」


「えー!ださぁーい!おばあちゃんのセンス無さすぎのざぁ~こ!」


この赤メスガキめっ・・・


「ところで、あんた、地図とかもって無いの?ここはあんたが来るべき所じゃないのよさ・・・」


「え~?地図~?おばあちゃん、老眼で視力よわよわなのに見えるのぉ?」


「あたしゃ~まだ、おねえさんを名乗って言い年齢なのよさ!」


っと、赤メスガキから地図を借りて見たのよ。


「やっぱり・・・ここよりも北にある家だねぇ・・・」


すると、ヘンゼルとグレーテルが来てさ・・・


「魔女さん。この赤メスガキをボク達が連れて行くよ」


「大丈夫かい?あんたら、迷子になってここにいるの、忘れてないかい?」


「地図があれば余裕だしー。地図があれば迷子なんかならねぇし」


「はぁ?私は迷子じゃねぇーし!家間違えただけだし!」


「間違えたの認めてるじゃん。雑魚赤メスガキ!」


「はあ?ザコはあんただし!生意気ショタの癖に!」


こうして赤メスガキにヘンゼルとグレーテルが付いて行ったのよさ・・・


しばらくたったんだけどさ、ヘンゼルとグレーテルが帰って来ないのよ。

その時、ふと思ったのだわさ・・・


「帰りの地図、ないじゃんねぇ・・・」


あたしはさっきの地図を思い出して、3人が向かったおばあちゃんの家に向かったのよさ。


「めぇめぇ。魔法使いさん。ちょっといいですかめぇ?」


「え?ヤギさん?」


あたしは途中で母ヤギと子ヤギの2匹に出会ったのよ。


「めぇめぇ。ここら辺でオオカミを見ませんでしたかめぇ?」


「いやぁ・・・見て無いのよさ・・・オオカミ、でたの?」


「めぇめぇ。うちの子6匹がオオカミに食べられたみたいでめぇ。消化される前に救出しようと思ってめぇ」


「ああ・・・それはお気の毒に・・・でも、オオカミ見て無いのよさ・・・」


兎に角、あたしは赤メスガキのおばあちゃんの家に向かったんだけどさ、ヤギの親子もついてきたのよ。


赤メスガキのおばあちゃんの家に付いたはいいけど、ドアを開けると大きなおなかのオオカミが寝ていたのよさ。


「めぇめぇ。あのお腹の中に子供達がいるはずだめぇ。」


あたしはハサミでオオカミのお腹を切ってみると、中から6匹の子ヤギと、赤メスガキと、赤メスガキのおばあちゃんと、猟師さんと、ヘンゼルとグレーテルが出てきたのよさ・・・

ってか、この胃袋、異次元かねぇ?


「っつーか、生意気ショタのあんた!狭い胃袋の中でおしり触って来たでしょ?!本当ありえない!」


「はあ?赤メスガキのお尻なんかさわんねぇーしっ!」


グレーテルと赤メスガキはこんな状況でも喧嘩してるから、まあ、無事で何よりさ・・・


とりあえず、オオカミのお腹には石をつめて、糸で腹を縫っておいたのよ。

あたしらは隠れてオオカミの様子を見ていたのさ。


目が覚めたオオカミはふらふらと歩いて、家を出て、森の中をうろうろしはじめたのよ。


「うわああああああああああ!」


ふらふらしたオオカミは足を滑らせ、池に転落したのさ・・・


「やったか!?」


「それはやってない時のセリフなのよ・・・」


「池に落ちるとか、オオカミのざぁ~こ」


「さっきまで食われていたやつの言うセリフかねぇ?」


すると、池から女神が出てきたのよさ・・・


「あなた達が落としたのは金のオオカミ?銀のオオカミ?」


ああ、この池だったか・・・

みんな、どう答えていいかわからず、黙ってたのよ・・・


「しかと?ねえ、しかとなの?こっちは質問してんだけどさ・・・っつーか、池はゴミ捨て場じゃねぇーんだから、変なもん落とすの止めてくれねぇか?迷惑してんだよ!!!」


「あ、じゃあ、金のオオカミで・・・」


「はあ?嘘つけばこのまま引っ込むって思ってんじゃねえよ!正解言うまで帰さねぇし!」


「・・・お腹に石がつまったオオカミです」


「ほらよ!金のオオカミと銀のオオカミと腹に石つまったオオカミだよ!二度と来るなっ!」


池の女神は中指を立てながら、池に潜って行ったのよ・・・


「おええ~・・・」


池から戻って来たオオカミはお腹に詰めた石を吐き出しちゃったのよ。


「え?何がどうなって・・・食べたはずの連中がいるし・・・金色銀色のオレがいる・・・こ、ここは地獄?!」


「めぇめぇ。食われる前にやるしかめぇ!」


「そうじゃ。わしらは食われたのじゃ。食われる前にやるしかないのじゃ」


「うっうっ、私は捕食者側に返り咲くっ!」


全員でオオカミをフルボッコにしたのよ・・・

数の暴力・・・恐ろしや・・・・


「ごめんなさい。ごめんなさい。もう二度としません。これからは肉を食べないヴィーガンとして生きます!だから許してください!」


こうしてオオカミは森の中に姿を消したのさ・・・

金のオオカミ、銀のオオカミは、どこかの貴族の家の家紋として就職したそうな。


その後、ヤギ達は帰って行って、あたしは一応、赤メスガキのおばあちゃんの健康状態をみていたのよさ。

ご高齢の身で、オオカミの胃袋にいたのだからさ、体力的に無理しちゃっていたようで、お疲れの様子だったのよさ。


そんなあたしの事は他所に、ヘンゼルは赤メスガキとサイコロゲームをして遊んでいたのよ・・・


「やーい。またボクの勝ちだ~!」


「流石ヘンゼル!赤メスガキなんか、私達兄妹の足元にも及ばない!」


「っく・・・サイコロふってもいないただ見てるだけの妹メスガキに文句言われる筋はないのにぃ・・・」


なんか、賭けしているみたいで、赤メスガキの持ち物を取り上げているのよさ・・・


「まだ勝負するんだから!」


「へぇ、次は何を賭けるんだい?」


「・・・服を賭ける!一枚ずつ賭ける!」


「止めなさいヘンゼル・・・賭けなんてしていたら、ろくなことにはならんのよさ・・・」


「魔女さん。ボクは世界最強のギャンブラーになるんだ!そして、世界の半分を手に入れて、地獄を支配し、天国を破壊する!」


「止めなよぉ・・・ほら、取ったもの、ちゃんと赤メスガキちゃんに返してあげなさい」


本当、ガキの面倒を見るのは大変だわさ・・・



☆☆



ヘンゼルとグレーテルが家に来てから随分と日がたったのよさ。


グレーテルは料理の腕を上げたし、ハーブの知識も身に着けたのよ。

それに少しだけ、魔法も使えるようになったのよさ。

思ったよりセンスのある子だわさ・・・


それに比べてヘンゼルは、ハーブの事も学ばないけどさ、妙にお金の計算は出来るようになってね、それと、森の中で罠を仕掛けて、ウサギなどを狩る事が出来るようになったのよさ。


そんなある日の事なのだわさ。

何か森の奥で人の声がするもんで、あたしは気になって見に行ったのよさ。

そこには、大きいアヒルともカモとも白鳥とも言えぬよくわからないけどとりあえず白い水鳥が1羽、てくてくと森の中を歩いていたのよさ。

そして、その白い水鳥の後ろに斧を持ったおじさんが付いていたのよ・・・


あたしは関わらない方がいいって思って、家に戻ったのよ。


しばらくヘンゼルとグレーテルに文字書きの勉強をさせていたんだけどさ、外から変な音がするのよ・・・

なんだと思ってね、こっそりドアを開けて外を見てみたのさ・・・


「えぇ~っ!!見知らぬおじさんが、あたしの家を食べてるぅー!」


先程、森の中で見かけたおじさんがあたしの家の装飾品をはぎ取って、食べていたのよ・・・。


「ぐわっぐわっ」


アヒルなのかカモなのか白鳥なのかよくわからん白い水鳥もいっしょになって家を食べてるのよ・・・


「ちょっと!あたしの家を食べないでほしいのよさ!」


「ご、ごめんなさい。お腹がすいていたもので・・・」


なんの騒ぎだと、気になってかヘンゼルとグレーテルも出てきたのよ。


「ちょっと!ヘンゼルとグレーテル!家にいなさい!不審者だわさ!」


「あ、お父さん!」


「お父さんだ!」


「え?!あんたらのお父さんなのかい!?」


親子して、人の家を食べるとは・・・流石親子だよ・・・


「ヘンゼル!グレーテル!無事だったか!!」


お父さんは涙を浮かべてさ、ヘンゼルとグレーテルを抱き寄せたのよ。


「あのね、お父さん。ボク達、魔女のおばさんに助けてもらったんだよ」


「おねえさんだからな!」


「そうだったのかい?魔女さま、なんとお礼を申せばいいのやら・・・」


ちょっと大人同士、真面目な話をしないとならないようだねぇ・・・

ヘンゼルとグレーテルは外で、白い水鳥と遊ばせて、あたしは2人のお父さんと家の中で話すことにしたのよ。


「魔女さま・・・色々御面倒をおかけしまして、申し訳ございません・・・」


「あたしゃお礼なんていいのよさ。ただ、正直に話してほしいのよ。あの子達は迷子って言っていたけれど、本当は捨てたんじゃないのかねぇ?」


しばらくお父さんは何を言うのか、言葉に詰まっていたけれど、深呼吸して、そして話してくれたのよさ。


「私は2人を捨てました・・・貧しくて、それを言い訳に、大事だった2人を捨てたのです・・・」


「そう・・でも、今になって探しに来たって・・・ここにたどり着けなかったら2人はとっくに飢えて死んでいたのよさ・・・なんで今になって探したのよさ?」


「気になって、もしかしたらまだ2人は生きているかもしれないと思って、それで探しました」


「そんな気分で捨てたり迎えたりしないでよねぇ・・・あの子達はあんたのペットじゃないのよさ」


「反省しています・・・」


「それで、あの2人をどうしようと思ってるの?連れて帰った所で2人をちゃんと育てられる?」


お父さんは黙ってしまったのよ・・・

多分、何か理由があるのかもしれないねぇ・・・


「ねえ、あんたさ、2人のお父さんでしょ?もっとしっかりしなよ・・・」


その日、答えが出る事は無かったのよ。

日が暮れる前に2人のお父さんは帰る事になったのさ。


「ヘンゼル、グレーテル、また来るからな・・・ちゃんと魔女さんの言う事聞いて、大人しくしているんだぞ・・・」


そう言って、お父さんは帰ってしまったのよさ・・・


その日の夕飯、ヘンゼルとグレーテルはあまり元気が無いのよ。


「どうしたのさ?どこか具合悪いの?」


「魔女さん。ボク達、やっぱり帰らないといけないのかな・・・」


「私、帰りたくない・・・ずっとここにいたい・・・」


まったく、可愛らしい事、言うじゃないかねぇ・・・


「私、帰らない・・・魔女さんが死んだら遺産を相続するんだもん・・・」


あ、可愛くねえ・・・


「2人は帰りたくないのかい?お父さんとお母さんと一緒に暮らしたくないのかい?」


「・・・ボクは、お父さんがここに来ればいいのにって思ってる」


「私も、お父さんとは一緒にいたいけど、お母さんは嫌だ・・・」


そうだったねぇ。

すっかり忘れてたよ。

2人のお母さんはお父さんの再婚相手で、あまりいい人じゃないってねぇ・・・


「そうかい。じゃあ、今度お父さんが来た時、どうするかしっかり話し合ってみるのよさ」


「ねえ魔女さん・・・ボク達、ここにいたらやっぱり迷惑?」


「魔女さん・・・私、魔女さん大好き・・・一緒にいたいよ・・・」


「はいはい、あたしもあんた達・・・ヘンゼルの事も、グレーテルの事も大好きだわさ。ヘンゼルはもうちょっと真面目に勉強して、グレーテルはお風呂に入る時に暴れたりしなければもっと大好きだわさ」


この日の夜、2人が寝静まった後で、シードルを飲みながら1人で考えたのよさ。

2人にとって、何が幸せで、将来的にいいのかとかさ・・・

それと、もしかしたら2人と一緒にいる生活も残りわずかかもしれないって思ったりしてさ・・・

はじめはあんなに迷惑に思った2人だけどさ、一緒にいる時間が長くなると妙に愛着がわくもんでさ・・・

これまでの暮らしを思い返して、なんか、家族やってるな~って感じたのよさ・・・

1人で暮らすのが快適だと思っていたけど、こうも賑やかな毎日を過ごしていると、いなくなったらさみしいな~ってさ・・・

もう、ヘンゼルもグレーテルも他人じゃないのよさ・・・



☆☆



「ごめんくださーい」


今日は朝から来客だわさ・・・


ヘンゼルとグレーテルのお父さんとお母さんが来たのよ。


「うちの子達が大変ご迷惑をおかけして、申し訳ございません・・・」


お父さんの地味な服装と比べて、お母さんは妙に着飾ってさ、ちゃんと御挨拶に来たって感じなのよさ。

あたしは2人を家にあげたのよさ。


「あ・・・お母さん・・・」


「・・・・うぅ」


ヘンゼルとグレーテルはお母さんを見ると、あたしの後ろに隠れちゃったのよ・・・

よっぽど苦手なんだね・・・


「ヘンゼル、グレーテル、心配したのよ・・・でも、無事でよかったわ・・・」


「ヘンゼル、グレーテル、あたし達はちょっとお話ししているから、外で遊んできなさい・・・」


「じゃあ、お父さんも一緒がいい!」


「お父さんも来て!」


ヘンゼルとグレーテルはお父さんを引っ張って、外へ出て行ってしまったのよさ。


「ヘンゼルとグレーテルのお母さん・・・あんた、あの子達を捨てたんじゃなかったのかい?」


すると、お母さんは涙をこぼしはじめたのよさ・・・


「全部、間違いでした・・・私とあの子達は血がつながっていません・・・あの子達をどう愛せばいいのか、どう愛されるべきなのか、わかっていませんでした。それに、家計は貧しくて、あの子達がいなければ、私は私の家族をつくれるって思って捨てました・・・でも、それが間違いだと気づいたのです」


「お母さん、あの2人はあなたを恐れているのよさ・・・」


「そうでしょう。私はまだ、子供を産んだ事がありません。それでいきなり2人の母親にならなくてはいけなくて、どうすればいいかわからないなりに頑張ってきたのですが、それが裏目に出たのでしょう・・・そして、私も心身共にすり減ってしまいました・・・」


「そうねぇ・・・あんた、再婚してあの家に嫁いだんだものねぇ・・・」


「私は、やり直したいんです・・・」


お母さんは泣き崩れてしまったのよさ・・・


「そうも気を落とさないでさ、2人は悪ガキな面もあるけどさ、根はいい子だから、きっと仲良くできるのよさ・・・」


「本当にできるでしょうか?」


「そうだねぇ。出来ると思うのよ。それだけ気持ちがあるなら、後はいい方法を見つけ、ゆっくりと仲良くなればいいのよさ」


そうねぇ、もうそろそろお昼ごはんの時間だし・・・


「お母さん。あたしと一緒にお昼ごはん、用意しませんかねぇ?家族団らんの時間をここで過ごして、仲直りの第一歩としましょうねぇ」


「魔女さん、そんなご迷惑をお掛けして・・・よろしいのでしょうか?」


「いいって、ずっと迷惑かけられ続けてんだわさ。今更、そんな些細な事、気にはしないんだわさ」


「ありがとうございます!魔女さんにはどうお礼をすればいいのか・・・本当にありがとうございます!」


そして、外でヘンゼルとグレーテルとお父さんが遊んでいる間、あたしとお母さんはお昼ごはんの支度をすることになったのよさ。

おおきな鍋でスープを作って、せっかくだからパンも焼こうって思ったのよさ。


かまどに火をつけて、火の加減を見ていた時だったのよ。


ドン!


あたしは後ろから強く突き飛ばされて、かまどの中に入っちゃったのよさ。


ガコン!


すぐにかまどの戸がしめられたのよ・・・


「ちょっと!何!?開けて!熱い熱い!」


「魔女さんってちょろいですねぇ・・・すぐに人を信用して・・・」


「え?お母さん、何しているのよさ!?」


「魔女さん、こんな森の奥で優雅に過ごす、それなりに隠し財産があるのはわかるんですよ・・・それに魔女の1人や2人、この世からいなくなった所で、あれは悪い魔女でしたって言えばなーんにも罪に問われる事は無い!」


「変な事言ってないで開けて!あの2人と仲良くなる話しはどうするの!?」


「アヒャッハッハッ!あなたの財産頂いて、あんな貧乏一家とはおさらばに決まってるじゃない!さよなら魔女さん。哀れに焼け死んでね!!アヒャッハッハッハッ!!」


なんってこった・・・

こんなにも性悪女だったとは・・・

兎に角、氷の魔法で温度を下げないと身が持たないのよ・・・


「あ・・・あっ・・・」


熱と煙で喉が、肺がやられて呪文が詠唱できない・・・

こんな事ならあの性悪女に話しかけないで、すぐに詠唱していればっ・・・


体が熱い、痛い、熱で目が明けてられない・・・思考が、もう、だめかもしれないねぇ・・・

こんな、かまどで焼け死ぬなんてね・・・


体に力が入らないのよ・・・


さようなら・・・あたしの人生・・・・


ヘンゼル・・・グレーテル・・・・






「       !!」




何か声が聞こえるのよさ・・・





「 じょ   し   してっ!!」






聞き覚えのある声・・・・・







「魔女さん!目を覚ましてっ!!」





ゲホッ!!ゲホッゲホッゲホッ!!!


空気が、吸えた・・・


でも、息をする度に肺が痛むのよ・・・


目は痛くてまぶたを開けられない・・・




「魔女さん!!魔女さん!!!」


「ぞ・・・っ・・・ぐっ・・・ゲホッゲホッ!!」


喋れない・・・

その声はヘンゼル?グレーテル?

聞こうと思ったんだけどさ・・・

でも、あたしが右手で握っている手の感触、これはヘンゼルの手だねぇ・・・

左手で握っているのは、グレーテルだわさ・・・


どうやら、あたしはかまどから出されたようだねぇ・・・

でも、ごめんよ・・・

ありがとうも言えないのよさ・・・


全身が痛くて、苦しくて・・・

でも、2人の手のぬくもりだけがあたたかい・・・

もしかしたら、本当は天使さんなのかもしれないねぇ・・・


あたたかいのよ・・・・




あたたかい・・・・




・・・・・




・・・







視界がぼやけているのよ・・・


天井がぼんやりと見えたのよさ・・・


あたしはベッドの上にいたのよさ。


どれくらい寝ていたのだろうね・・・


体はまだ、あちこち痛みがあるけど、呼吸はできるようになっていたのよさ。

どうやら体のあちこちに塗り薬と、包帯が巻いてあるみたいだわさ。


「あ!魔女さん!魔女さんが目を覚ました!!」


グレーテルの声だねぇ・・・

でも、目がやられて、よく見えないのよさ・・・


「魔女さん!!魔女さん!!!!」


あれはヘンゼルだねぇ・・・

走ったら危ないってのにあの子は・・・


「ヘンゼル・・・グレーテル・・・助けてくれたのかい?」


体が痛いけどさ、無理してでもあたしは手を動かして、近くにいる2人を抱き寄せたのよさ。


「どうしたのさ・・・ヘンゼル、グレーテル、泣いているのかい?まったく・・・面倒の・・かかる子達だわさ・・・・」


それは死なずに済んだ喜びなのか、2人にまた会えた嬉しさなのか、2人が一生懸命あたしを助けてくれたその優しさがしみたのかわからないけどさ、あたしは涙が止まらなかったんだわさ・・・


その後、2人のお父さんから話を聞いたのよさ。


3人で外で遊んでいたら、継母があたしの魔法の宝石のアクセサリーを持ち出して、走って何処かへ行ってしまったそうなのよ。

変だと思って、家の中を見ると、あたしがいなくて、みんなで探したんだそうで、ヘンゼルとグレーテルがかまどの戸がしまっているのを怪しく思って開けたらあたしがいたもんで、みんなびっくりだったみたいねぇ。


ヘンゼルとグレーテルは慌ててあたしを引きずり出して、ヘンゼルは井戸の水を汲んだり、あたしをベッドまで運んだりしたそうで、グレーテルは薬草を慌てて調合して、あたしの体に塗ってくれていたそうなのよ。


お父さんはパニックになって、どうしていいのかわからなかったけど、2人がすぐに対応していて、感心したそうだわさ。

もうね、親を越えるなんて言うにはまだ早い歳の2人だってのにねぇ・・・


他に聞いた話では、あの後、継母は魔法の宝石のアクセサリーで身を飾って、街に出たそうで、みんな綺麗に着飾った継母に見とれていたそうだわさ。

でも、雲一つないというのに突然雷が継母に落ちて、継母が姿形も残らず消えて、焦げた魔法の宝石のアクセサリーだけが残ったそうだわさ・・・

魔法が使えない人間があのアクセサリーをいっぱい身に着けていたら、魔力が暴走して何が起こるかわかったもんじゃないけどさ・・・

あっけない幕切れだったんだねぇ・・・



☆☆



あの日からしばらくして、あたしは杖を使えば歩けるまで回復したのよさ。

まだ、視力は完全には回復しなくてねぇ、ちょっと離れたところがぼやけて見えるのよねぇ・・・


「魔女さん。今日もハーブが綺麗に育ってるよ」


「そうかい。グレーテルがちゃんと育ててくれているから、見えなくてもハーブ達が喜んでいるのがわかるのよさ・・・」


「魔法はハーブに始まりハーブに終わるって、魔女さんの教えを守って、立派な魔女の跡継ぎになるんだもん!」


「グレーテルはもう、立派な魔女だわさ」


「まだだよ。私、まだまだ未熟だから、もっともーっと、教えてね魔女さん」


まったく、グレーテルは甘えん坊さんなんだわさ。


しばらくして、ヘンゼルが帰って来たのよさ。

ヘンゼルは父親の木こりの手伝いをしているのよ。


「ただいまー!今日はね、モミの木をねじっている変な人を見かけたよ~!」


「おかえり。変な人とか余計な事してないで、ちゃんとお手伝いはしたのかね?」


「したよー。もう、ガリガリになるくらいに働いたもん。ほら、触ってみな!」


差し出されたヘンゼルの手を触ってみたのよ。


「おやおや、これはこれは、ガリガリに痩せて・・・って、これ、骨だよねぇ?いつぞやのウサギの骨だよねぇ?」


「あ、ばれちゃったか・・・」


まったく、ヘンゼルはやんちゃないたずら坊主だわさ。


あたしの家にはヘンゼルとグレーテルが住んでいて、たまに2人のお父さんも顔を出すのよさ。

夕飯はグレーテルが美味しい料理を作ってくれる。

2人のお父さんも一緒に夕飯を食べる日もあるのよさ。

でも、お父さんは律儀だからか、うちでは泊まらないのよね。

真面目に不器用な人なんだわさ。


夜、1人で晩酌をするのよさ。

白ワインを飲みながら、ゆっくりしていたんだわさ。

ヘンゼルとグレーテルはぐっすりと眠っているのよね。

あたしはいつか、3人でお酒を飲む日が来るのを楽しみに過ごしているのだわさ。




~~~ fin ~~~
















あとがき


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物語を旅する読み主様、この物語はいかがでしたでしょうか?


お楽しみ頂けましたら、下の星の力を入れていただけると幸いです。


また、巡り合えた思い出に、ブックマークをしてはいかがでしょうか?


この物語が気に入って頂けた方には、下記の連載中の物語をおすすめしております。

『クソ真面目な勇者パーティーの中で酒好き魔女はどんな手段を使ってでも酒が飲みたい』

https://kakuyomu.jp/works/16818093073745879784


ぜひ、ご覧くださいませ。


では、読み主様が良い物語と出会えることをお祈りいたします。


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森の奥で快適スローライフを過ごす魔女。ヘンゼルとグレーテルとか言う2人のガキに家を食われる たけしば @TKSV

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