おばーちゃんが死んで。/水木レナ への簡単な感想

 応募作品について、主催者フィンディルによる簡単な感想です。

 指摘については基本的に「作者の宣言方角と、フィンディルの解釈方角の違い」を軸に書くつもりです。ただフィンディルの解釈する方角が正解というわけではありませんので、各々の解釈を大切にしてくださればと思います。

 そんなに深い内容ではないので、軽い気持ちで受け止めてくださればと思います。


 ネタバレへの配慮はしていませんのでご了承ください。





おばーちゃんが死んで。/水木レナ

https://kakuyomu.jp/works/16818093074959733837


フィンディルの解釈では、本作の方角は北西です。


その人が自分にとってどういう存在なのかって、死別に限らず実際にいなくなってみないと本当の意味ではわからないんですよね。

いなくなってしばらく経ってから「この人は私にとってこんなに大切な存在だったんだ」と気づくこともあれば、逆に、この人はとても大切な人だと思っていたのにいざいなくなれば意外と平気だったり。

その人が自分にとってどういう存在なのかを、いなくなるまえに正確に把握するのはおよそ不可能だろうと思います。


なのでそこに後悔も生まれたりして。

いなくなってこんなに大切な存在だったと気づけたのに、とても大切な人だとわかったのに、どうしてそばにいるときにそれに気づけなかったのか。どうしてあのときもっと悲しまなかったのか。

逆なら、あんなに大切な存在だと思っていたはずなのに、大切な人のはずなのに、どうして今の自分は平気なのか。もっとダメージを負っているべきではないのか。

「その人がいなくなるまえの自分」と「その人がいなくなったあとの自分」とのギャップに後悔したり、自分を責めてしまうことは往々にしてあるだろうと思います。


ただ、無理をする必要はない。

いなくなって「この人は私にとってこんな大切な存在だったんだ」と気づく可能性があるから、いなくなるまえ・いなくなったときに無理やりにでも大切にしよう悲しもう。と頑張る必要はない。

いなくなったのにダメージを負っていない自分は良くないから、無理やりにでもダメージを負おう悲しもう。と頑張る必要もない。

そこに正しい正しくないはないので、そのときそのときの自然な自分の気持ちに従って肯定してあげていいと思います。


人と関係を持つ人であるかぎり、喪失は皆が等しく感じるものですので、優しく受け止める共感の数も多いだろうと思います。

そして別れに慣れれば慣れるほど、人はこのギャップや喪失を正面から見なくなります。しんどいので。なのでこの喪失を正面から捉えて文章に残されようとする水木さんの行為は尊いものと思いますし、それは読者の皆さんにも伝わっているものと思います。


方角の話をします。フィンディルは北西という判断です。

西とした理由は、「この心情を文章というかたちにして発表して読んでもらうことで、この心情を乗り越えよう」という作者意図をしっかり感じるからです。これは昇華に近しいものなのですが、読む人を楽しませる読者のための文章ではなく、文章にして読んでもらうことで乗り越えようとする作者のための文章、であるように思います。この気持ちを文章に預けたい。文章に預ければ自分のなかの何かがほんの少し変わるかもしれない。

創作には「他者(読者)に良い時間を過ごしてもらう」役割もありますが、「自分(作者)の心を文章に預ける」役割もあります。そして後者の役割は西の土台みたいなものなので、それを感じる本作にはしっかり西があるものと思います。


一方本作には「ちゃんと読んでもらおう」という読者を意識した仕草も見られるんですよね。むしろ水木作品のなかでは本作はそれが強いまである。文章構成や情報配置について、本作はかなりバランスが良い。

どうしてそうなっているのかはわかりません。水木さんの体力気力が奪われているから普段と書き味が違っているのか、あるいはこの気持ちを大事に扱いたいと水木さんが思っているからなのか。おばーちゃんとの別れからある程度期間が経っているのもあるでしょうか。

そして先述したとおり別れの喪失は誰もが等しく経験する心情ですので、その点で共感に溢れているのも北が強くなる理由だろうと思います。本作に表れている心情を理解できない人は、おそらくいないでしょう。

喪失は、それまでの自分に「悲しい」が飛来して上乗せされる足し算の心情ではなく、それまでの自分の一部が欠けてできた穴から滲んでくる引き算の心情であると。多くの人が理解し、共感する心情です。


ということでフィンディルは北西と判断しました。

この北西という判断が、水木さんの安心感につながれば幸いです。みんなが受け止めてくれる喪失です。

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