【黒歴史放出祭】巨大な鈍器を生成した話

神崎あきら

巨大な鈍器を生成した話

 私は食べることが好きだ。普段どんなに時間が無くても三食は必ず摂取するし、旅先では限られた三食で何を食べるのか、真剣に悩む。小説を書いているが、必ず飯のシーンを挿入する。メインキャラクターは飯を食べるのが好きだ。


 食べることと、料理をすることは近しいようで全く異なる。

 私は食べることが好きだが、料理は苦手だ。食べることが好きなのであって、料理をするのは面倒なので好きではない。

 料理ができないわけではない。今ならネットのお料理サイトを見れば材料から作り方まで写真や動画で懇切丁寧な情報が簡単に入手できる。


 私はド文系であり、何かを計量するのが苦手だ。料理に慣れた人なら目分量で美味しい味つけができるだろう。私は慣れていないわりに計測しない。いつも一か八か、そして最後まで味見もしない。まあ、なんとなく出来ていることが多いが、これを食べる人には迷惑な話だ。

 前置きが長くなってしまったが、私はこのように怠惰でズボラな人間なのである。


 一時期、期間限定で一人暮らしをする機会があった。社会人になって初めての一人暮らしだ。それなり生きてきたのでご飯を炊く、野菜を剥いて肉を切る、それを炒めたり茹でたり、くらいの基本的な料理くらいは体得していた。


 ここで意外な盲点があった。炊飯器でご飯を炊く際に結構な量が出来てしまうことだ。今まで家族と暮らしていたため、炊飯器で炊いたご飯は保温のままにして食べていけばガビガビになる前に消費できていた。

 しかし、一人暮らしでは一度炊いたご飯がなかなか減らずだんだん風味が落ちていく、保温にしておくのも電気代が勿体ない。


 そこで、知恵を貰ったのが炊いたご飯を冷凍すればいい、ということだった。我が家では炊飯器の保温でやってきたので、ご飯を冷凍する文化は無かった。ものは試しとご飯を冷凍し、保存することにした。


 冷凍保存なので、ちまちま炊飯するよりも一気にやってしまおうと4合の米を炊いた。そして私はそれをラップに包み、冷凍庫へ入れた。昨今の冷凍技術を考えると、この方法なら美味しい状態のご飯を冷凍保存できる。確かにこれは良い知恵だとほくそ笑んだ。

 実際、生のうどんよりも冷凍うどんの方がコシがあって美味い。そういうことだ。


 しかし、私は重大な間違いを犯していた。

 4合のご飯をそのまままるごどラップに包んで冷凍してしまったのだ。いざ使おうとしたとき、ご飯はガチガチに凍っており、全く分解できない。

 私は驚愕した。冷凍したご飯がこれほどまでに硬質化するということに。


 私のイメージではお菓子の雷おこしのような感じで、端からぽろっと良い塩梅に使いたい大きさに手で割れると考えていたのだ。

 それがどうだ、炊飯器の形そのままの直径二十センチあまり、厚み十二センチ、お米と水、合わせて1.4キロの鈍器を生成してしまった。


 空手チョップをしようが、すりこぎ棒で叩こうが、強固な鈍器はびくともしない。割ろうに割れないことにほとほと困り、電子レンジで少し加熱してみることにした。だが、加熱しすぎると元の木阿弥、せっかく風味を保つために冷凍保存した意味がない。


 少しだけやわらかくなったところで全力をかけて氷属性の鈍器をカチ割った。なんとか茶碗一杯分を確保し、食べることにしたがここで新たな問題が発生した。

 炊飯器から炊きたてのご飯をすぐにラップに包んだために、米つぶの間にラップが挟み込まれてしまい、剥がしたときに残ってしまうのだ。


 農家の人が丹精込めて作ったお米、一粒たりとも無駄にはできない。

 私は解凍を繰り返して、4合分のラップ入りご飯を小分けにして数日かけて完食した。食い込んだラップはできるだけ剥がしたが、多少食ってしまったかもしれん。


 この失敗から、冷凍ご飯を作るのはやめよう、と諦めかけた。しかし、賢者(職場の人)に相談したところ大爆笑され、小分けにしたご飯をラップに包んで少し冷やしてから冷凍しろ、と啓示を受けた。

 なるほどこれなら一杯分のご飯を食べるときに解凍して食べられる。いや、美味しいやん、冷凍ご飯。炊きたての風味がちゃんとあるし、つやも失われていない。


 かくして私は、一人暮らしを美味しいご飯で乗り切ることができた。

 ご飯四合ぶんの氷属性の鈍器を生成したことは忘れられない苦い思い出だ。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【黒歴史放出祭】巨大な鈍器を生成した話 神崎あきら @akatuki_kz

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画