第11話

「王室長直々の呼び出しとは、一体なんでしょ…」


 王室長室を訪れたリルアと目が合う。


「な、なんであんたがこんなところに…王宮を出された無様な女はとっとと去ってくれない?くっさい匂いがうつっちゃうわ」


 彼女はそう言いながら、鼻をふさぐ動作をする。そんな彼女に、ジャックは冷静に言葉を返す。


「私が呼んだんだ。彼女は大事な証人だからな」


「証人?」


 彼女は全く納得などできていない様子ではあるものの、ジャックは話を始める。


「さて。君と話したいことは山ほどあるわけだが…」


 少し、リルアが身構える。


「まずは、あれだけ赤字だった王国の財政をいかにして立て直したのか、是非その方法について教えてもらいたい」


 その言葉を聞いたリルアは途端に得意顔になり、自慢気に話を始める。


「そんなの簡単ですよ。前の財政部長がやっていた古臭い運用方法をすべて廃止して、全く新しい斬新な運用方法へと変更したんでんす。陛下にもお褒めの言葉をいただきました」


「その全く新しい斬新な運用方法というのは、これの事ですか?」


 ジャックはそう言うと、例の本を取り出す。もちろん裏の方だ。


「!?!?!?」


 声にならない声を発し、うろたえるリルア。なぜそれがこの場に…と言わんばかりの反応だ。

 ジャックは彼女の前で大げさにページをめくり、内容の確認を図る。


「これは確かに斬新ですなぁ。負債を隠して新たな負債を作り、さらにその負債を隠してさらに新たな負債を作る…呆れを通り越してもはや滑稽とさえ思える」


 言った通り、あきれ顔を浮かべるジャック。


「ど、どうしてそれを…」


 分かりやすいほど動揺している様子のリルア。そんな彼女に構わず、ジャックは続ける。


「よくもまあ、こんなことができたものだ。全く驚かされる」


 しかしここにきて、リルアが強気に反論する。


「ま、待ちなさいよ!それを私がやったっていう証拠があるの?財政の処理には担当がいて、必ずサインがしてあるはずよね?私はそんな事した覚え全くないわ!」


 …やはり、その話を持ち出してきたか。結局は、シャルク君に責任を擦り付ける腹積もりらしい。


「ええ、おっしゃる通りここにはあなたのサインはありませんでした。ここにはね」


「…ど、どういう…こと?」


 さあ、決定的証拠を突き付ける時だ。


「ここに記載されている資金借り入れ先の国、ここに私の知り合いがいましてね、特別に取引記録を見せてもらったんですよ」


「!?!?」


「そしたらそこには、あなたの言う通りサインがはっきりとありました。取引責任者として多額の借り入れに契約をする、あなたのサインがね」


「…そ、そんな…ばかな…」


 もはや、彼女に言い逃れのすべはない。


「そう落ち込まないでください、あなたには感謝しているんです。おかげ彼女と一緒に海外旅行ができましたから♪」


 資料確認のため、隣国にまで行ってきた。確かに私もその点だけは、彼女に感謝している。

 俯く彼女に私は歩み寄り、その肩をつかんで無理やり目線を合わせ、思いのたけをぶつける。


「…あなたは財政処理を不正に行ったばかりか、その責任をシャルク君一人になすりつけて、自分自身は国王陛下に大きく評価される結果となった。…何の痛みも得ず、自分の事だけを考えて、周りを平気で傷つける…あなたは財政部を束ねる人間として腐りきってる…王国の未来をつかさどる者として…いや…」


「もはや人として失格だ!!」


 …彼女は力なくひざまずく。顔からはすっかり生気が消えてしまってるが、まだ彼女にはやってもらうことがある。

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