第10話
シャルク君はゆっくりと、いきさつの話を始めた。
「…陛下の無茶な要求の前に、財政は破綻寸前でした…。ミリアさんがいなくなっちゃってからは、それにさらに拍車がかかってしまって…。それで、臨時歳出金という架空の歳入予算を計上することで、負債をすべて隠ぺいしたんです…おかげで見かけ上、王国は黒字財政になり、周辺国や民営組織からの資金借り入れも容易になりました…」
私は確認の意味を込めて、改めて彼に質問する。
「…けれど、それで本当に王国が黒字になったりするはずがない…。その実態は、借金に借金を重ねる悪循環…もはや、だれにも止められない負のスパイラル…」
「…」
心の底から悔しそうな表情を浮かべるシャルク君に、一つ質問をするジャック。
「…からくりはよくわかったよ。だけど、一つだけわからない。君のような誠実で真面目な人間が、どうしてこんなことをしたんだ?前は陛下に直訴に行ってたほどじゃないか。それなのにどうして…」
ジャックのその質問には、私が答える。
「あなたの言う通りよ、ジャック。だって彼は、何も悪くないんだから」
「?」
「!?」
二人が同時に驚愕の表情を浮かべる。私はシャルク君に一歩近づき、語り掛ける。
「…あなたは王国を心から愛してる。だから、王国の事をかばってるのでしょう?自分がこの一件の犯人役となることで、批判の目は王国よりもあなたに向けられる。王国を救うにはそれしかないって、誰かに言われたんじゃないの?」
これは帳簿を見ようが裏帳簿を見ようが分からない事ではある。けれども私は確信していた。彼がその場しのぎのためだけにこんな事、するはずがない。彼は本当にまじめで、誠実な人なのだから。
「…う、ううう、、ミリアさん、、」
彼の目から、涙がこぼれ落ちる。彼の性格を考えれば、相当悔しかったに違いない。そして彼にこんな残酷なことを強いた人間を、絶対に許すわけにはいかない。
「…一人で、よく頑張ったわね、シャルク君」
彼の手を取り、そう言葉をかける。ジャックもまた、彼の背中をさすってくれていた。
その後落ち着きを取り戻したシャルク君が、事の真実をすべて打ち明けてくれた。
まずこの一件の真犯人はリルアだった。彼女は陛下の無茶な要求を無理やり通すため、シャルク君が言った手口で不正処理をした。そして彼女はシャルク君の愛国心と誠実な性格を利用し、王国を救うために責任をかぶれ、できなければ君の愛する王国は崩壊するというという、彼にとって死の宣告にも等しい選択を突き付けた。そしてシャルク君はリルアの要求をのみ、すべての責任をかぶる覚悟をした…というのが真相だった。
「…全く、救えない連中だな…」
「…陛下の無茶な要求に泣きたくなる気持ちは分かるけど、それでもめげずに陛下の説得をするのが財政部の仕事でしょうに…それを一度もせずに、挙句シャルク君の気持ちを利用するだなんて…」
もはや王国に救いはない。滅ぶべくして、滅ぶべきだ。
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