第5話

ーージャック王室長視点ーー


「陛下、実はこちらの者が、どうしても陛下と話をしたいと」


 俺はそう言い、陛下の前にシャルクを紹介する。


「ざ、財政部所属、シャルクであります!」


「ほぅ。まあよかろう、話してみよ」


 俺は静かに王室を去り、扉を閉め、扉に背を持たれる。…腰に掛けた剣に手をやり、いつでも抜けるよう準備をしつつ、中の会話に耳を澄ませる。


「…恐れながら陛下、財政部の人間として、今現在王宮の財政は非常に危険な状態であると言わざるをえません!」


「…はぁ?」


 最初からフルスロットルだな、あいつ…


「どうかお考え直しください!民たちより集めた血税を、無駄なことに使ってはいけません!銅像もモニュメントも神殿も、建設を即刻中止するべきです!」


「…貴様、自分が何を言っているのか分かっているのか?」


 しかし彼の心に秘める勇気は、俺の想像を大きく上回るものであった。彼は高圧的な国王にひるむことなく、言いたいことをすべて言って行っている。


「陛下はご存じですか?陛下が進めておられるそれらのどれも、全く順調に行ってはいないのです。…それどころか赤字に赤字を計上している王宮は、債務までも抱えてしまっています…それはすなわち」


 この時、部屋の中から激しい音が聞こえた。…おそらく、国王がイスか何かを蹴り上げたのだろう。


「馬鹿者!!!!貴様ら私に何の報告もなく借金しているというのか!!勝手に債務を抱えているというのか!!」


「ええそうです!!陛下の無理難題の前に、臣下の者たちは民たちや周辺国家に頭を下げ、必死に金銭を集めているのです!!陛下にその苦労が」


「もうよい!!!貴様のような無礼者、この場で処刑してくれる!!!」


 これ以上はまずいっ!俺は手に構えていた剣を抜き、王室内に突入する。


「陛下!いかがいたしましたか!」


「おお、さすがはジャック、よきところに来た。今すぐこの無礼者を」


「っ!!!!」


 陛下がそう言い終わる前に、俺はシャルクの腹を蹴り上げる。できるだけ痛みの少ないようにかつ、できるだけ派手に見えるように気を付けながら。


「お、おう…しつちょっあごっ!!!」


 何度も何度も、それを繰り返す。そしてタイミングを見て、大声を上げる。


「陛下に意見するとは身の程知らずが!!!恥を知れ!!貴様のような男、殺して楽にしてやる義理もないわっ!!!」


 できるだけ派手に見えるように痛めつけた甲斐あってか、陛下の怒りはかなりおさまったようだった。


「…ふぅ。もうよい、ジャック、その者をこの部屋から連れ出してくれ」


「承知いたしました」


 俺は急ぎ部屋を後にし、救護室へと向かう。


「…しつちょう…すみません…でした…」


 弱弱しく、そう声を上げるシャルク。


「…お前はすごいよ。俺なんかよりも、お前が王室長になるべきだったのかもな。…いやそれどころか、おまえこそが国王をやるべきだったんだ…お前のような、勇気ある男が…」


「…」


 …過度の緊張からか、俺の背で眠ってしまったようだ。


「…王国を救いたいというお前の望み、叶えてやれなくて…すまん…」


 シャルクを救護室の担当者へと託し、俺は彼のもとを去った。

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