第6話

 私が王宮を出てもう数週間。特に大きな騒ぎの話も聞かないまま、私は普通に過ごしていた。…まぁたぶん、ジャックがなんとかしているんだろう。彼カッコいいだけじゃなくて、すっごく優秀だし…

 そんな風に私がジャックとの思い出の感傷に浸っていた時、張本人が駆け足で私の元へ走ってきたのだった。


「ミ、ミリア!!」


 静かにたたずむ姿もカッコいいけど、走る姿もカッコいいなぁ…


「あらジャック、そんなに急いで、何かあった?」


 息が上がっている彼に、私は飲みかけのジュースを手渡す、彼は自然な手つきでそれを受け取り、一気に飲み干す。


「っぷはぁ!生き返ったぁ!」


 ありがとうと言って、コップを返す彼。…よし、これでまた間接キスができる…


「それで、なにかあったの?」


 そう聞く私に、少し不満げな顔を浮かべるジャック。


「な、なんだよ…なにかないと会いに来ちゃダメなのかよ…」


「べっべつにそんなことは…」


 …妙に二人とも赤くなり、気まずくなってしまう。そんな雰囲気を変えるように、ジャックは本題に移る。


「まあとりあえず、これを見てほしい」


 そう言って彼がカバンから取り出したのは、王宮帳簿だった。


「うっわ。なっつかしい…」


 王宮にいた頃は、よくこの本と遅くまでにらめっこをしていたものだ。私は彼の手から帳簿を受け取り、ちらっと外観を見る。


「でも、これがどうしたの?」


「いいから、最近の記載を見てみてよ」


 彼にそう言われるがまま、直近部分の記載に目を通す。豊穣の加護の力はここでも働かせることができ、怪しいお金の流れなどを鋭く察知することができる。…そして目を通してすぐに、違和感だらけの帳簿であることに気づく。


「…明らかにおかしいわね、これ」


 ジャックもうなずき、私に同意する。


「…あんなに赤字だったのに、いきなり黒字になってるわ…新しい施設の建設費用も人件費も、うまく捻出されてることになってる…その上に国庫に貯蓄まで…一体どういう…」


「だろう?明らかにおかしいんだ…」


 …そう言いながら、私の隣から帳簿を覗き込む彼。…顔の距離がすっごく近くなって、心臓の鼓動が強くなる。


「っと、とにかくこの帳簿の記載が事実なら、王国は財政問題を解決したって事になるわね。リルアは宣言通り、短い時間で王国の財政を立て直したって事かしら?」


 私はやや苦笑いで彼の方を見る。…彼は真面目な表情で私に言葉を発する。


「君にできなかった事が、リルアにできるはずがない。これには必ず裏がある。それを明らかにするんだ」


 彼の言葉を聞いた私は、再び帳簿の該当箇所に目を移す。


「…うーん…うまく隠してあるけど、どうやらこの『臨時歳出金』って言うのが負債を隠しているようね…この処理の担当者は…!?」


「…!?」


 私たちは二人して、目を疑った。



 臨時歳出金処理担当 ーシャルクー

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