第3話

 王宮から少し離れた休息所で、疲れた体を癒す私。豊穣の加護のおかげでお金には困らないため、この身分に落ちてもある程度は自由に過ごせる。飲み物で喉の渇きをいやしている時、突然ある人物に話しかけられる。


「やっぱり、ここにいたか」


 …絶対に聞き間違えることのないその声。苦しい王宮での生活の中で、私がやってこられた一番の理由の人…顔を向けたその視線の先には…私が秘かに思いを寄せる人物がいた。私は決してそれを悟られぬよう、努めて冷静に言葉を投げる。


「あら、ジャックじゃない。あなたも王宮をクビになったのかしら?」


 私の軽口に、軽口で返す彼。


「俺は絶対クビにはならないぜ。なぜなら俺がクビになるより先に、王国が破滅するだろうからな」


 彼はそう言いながら、私の隣に腰掛ける。私は少し、心臓の鼓動が早まるのを感じる。


「のみかけだけど、いる?」


 私が差し出したコップを、優しく手に取る彼。


「…ふぅ、なかなか美味いね」


 一気に飲み干し、そうつぶやく彼。私はさっそく、本題に入ることにする。


「それで、国王最側近のあなたが、私に一体何の用?」


 …本当は彼が来てくれたことが嬉しくてたまらないのだけれど、正直になれない私…


「王宮の事だよ。とりあえず君の後任にはリルアを指名しておいた」


「リルアを?それはまたどうして?」


 私が知る限り、リルアに財政管理の能力なんてないように思えるのだけど…そんな私の疑問に、彼は意外な答えを示す。


「彼女君の事を、いつも攻撃してたろ?無能だのなんだのと…」


「ああ、そんなこともあったかしら…」


 国王のインパクトが強烈すぎて、正直記憶から薄れてしまっていた。


「適任だろう?あれだけ君に大口を叩いてたんだから、自身は国王の満足のいく仕事ができるんだろうさ」


 …きっと、私の事を思ってくれての行動なのだろう。彼の気遣いに、胸が熱くなる。


「ああそれと国王の奴、君を拘束するとか言い出してな。一応止めてはおいたけど、念のため注意だけはしておいた方がいいかも」


「うん。ありがとう」


 素直に、感謝の言葉を彼に告げる。


「お、おう…」


 …どこか、彼の顔が赤くなっているような…気のせいだろうか?


「ま、まあ俺はとりあえず戻るな。何かあったら、また知らせるよ」


「え、ええ…」


 …彼との別れが、少しばかり悲しい。


「王国の寿命ももう短いだろうから、お互いしっかり堪能しようぜ」


 そう告げ、この場を後にする彼。…王国亡き後、彼は私と一緒にいてくれるかな…?

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