第56話 胸を張って歩けない

街を歩くと私の劣等感を刺激する人々や物だらけである。


みんな私が決してできないことができる。

みんな私が持っていないものを持っている。


電車の中で街中で出くわす人々の多くはまっとうな仕事について、まっとうなキャリアを積み、まっとうな給料をもらってまっとうな暮らしをしている。

私と違って。


十代や二十代のカップルは私が経験できなかった、もう今さら求めても永遠に味わえない甘美な青春を味わっている。

親子連れや家族連れ、孫を連れた老人はもちろん、私ができなかったことを成し遂げた人々だから目の当たりにするのは苦痛である。


道路をバイクで走れば高級車はもちろん普通の自家用車も私の及ばぬ領域の代物だ。

タワーマンション、都内だけでなく郊外の一戸建て。

これらに住まう人々には一生頭が上がらない。


私も胸を張って歩こうとしたこともかつてはあった。

道行く人々と同じになろうとした。

目に映る物を手に入れようとした。


しかしどれだけ努力しても、どれだけ自分を変えようとしても、何かが決定的に間違っており、結局は無駄だと悟った。

何もかもが遠く、手の届かない存在になった。


何も成し遂げられず、何も誇れるものがない。

私の人生は、他人の成功や幸福と比べることでしか測れない、虚しいものである。


他人だけではない。

友人や身内の者たちはとっくに結婚し、家庭を築き、仕事で成功していた。

彼らの幸せそうな笑顔を見るたびに、自分の孤独に打ちのめされる。

結婚式や家族の集まりに招かれるたびに、私は自分の無力さを痛感する。私は彼らのようにはなれない。


彼らのような幸せは、私には訪れることがないのだ。

何もかもが遠く、手の届かない存在に感じる。


私は胸を張って生きる気はとっくに失せ、腰をずっと曲げて生き続けている。

そして今後はより曲がり続けるのだろう。


未来に何の期待も持てず、ただ過ぎ去る日々を耐えるだけの人生。

それが今の私の現実なのだ。





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