第51話 母の女の友情を終わらせた私2
小学校に上がったか上がらないかの頃、母と私、弟は母の大学時代の友人二人とその息子たちとよく温泉やら海に行ったのを覚えている。
母親たちは大学の同級生であり、卒業後もつるんでいて、泊りがけの女子会をそれぞれの子供を連れて開いていたのだ。
母親の友人二人の子供たちは、私のところと同じで全員二人兄弟。
それぞれの長男の年齢も次男の年齢も同い年か一歳くらいしか変わらないという奇跡のような同年代の兄弟三組だった。
初めて彼らに会ったのは小学一年生くらいの時で、岐阜県内のどこかのホテルに泊まりに行った時だったと思う。
今でも記憶に残っているのは、たしか喫茶店のテラス席で母親たちが女子大生に戻っておしゃべりをしていた時、我々子供は子供でテラス席近くの広場で遊んでいたのだが、私は最初からなんとも居心地が悪いことこの上なかったのを覚えている。
私はこのころから知らない人間とは口をききたがらない人であるうえに、遊んでいる二組の兄弟はすでに知り合い同士で我々兄弟をガン無視して四人で遊んでいるのだ。
聞こえてくる会話の内容も我々兄弟の趣味嗜好からはほど遠いもので、共通の話題がない。
それに気づいているのか二組の兄弟は私たち兄弟を混ぜる気がないように思えた。
所在ない私は他の母親二人とおしゃべりに夢中な母親の所へ行ったが、「お友達のとこで遊んできんさい」と追い返されてしまった。
あいつら初対面で、友達じゃねえんだが。
奴らとは合いそうにないから弟と遊ぼうとしたが、私はそこで驚きの光景を目にすることになる。
なんと弟はちょっと目を離したすきに奴らに受け入れられ、すでに一緒に遊んでいるではないか!
オレを差し置いて、裏切りモンが…、いや待てよ、初対面の弟を受け入れたってことはオレも受け入れてくれるはずだ。
そう思って「オレも交ぜてくれ」オーラを出して、ボールで遊んでいる五人に近づいたら、二組の兄弟のうち一番背の高い兄貴と思われる奴がこれまた意外なことを言いやがった。
「おまえあっちいけ」
は?なんでオレだけ?
「お前みたいなヘンなカオの奴と遊びたないんだわ」
その理由は背の低い(私よりは高かったが)、これまた兄貴の方と思われる奴がそう教えてくれた。
「おら、向こういけて」と背の高い方は私に蹴りまで入れて退去勧告しやがるし、その弟らしきチビも面白がって私に蹴りを入れやがった。
私だけ仲間外れである。
怒ってもいいところだったが、あの二組の兄弟の両方の弟の方はともかく、兄貴の方はどちらも明らかに私よりケンカが強そうだったので私は彼らの断固たる受け入れ拒否に従わざるを得なかった。
彼らは弟も含めた五人で遊び、私だけ一人で遊んでいる。
そういえば私は同年代の友達が学校にも近所にもいない。
デパートの屋上とかの遊園地でも、全然知らない他の子と遊ぶどころか、シカトされたりよくいじめられたような。
ここでもやっぱり同じことが起こっている。
だが、彼らは私をずっとシカトしてたわけではなかった。
時々一人で遊んでいる私に、後ろから飛び蹴りをくらわせてきたり、頭をはたいてきたり、ボールをぶつけたりして笑いものにするなど、一応は存在を認識してくれてはいたのだ。
だが、弟もそれに加わっていたのには腹が立つ。
コイツは私が日ごろ自分を生きたおもちゃにしていることをやはり恨んでいたようで、この機に乗じて意趣返しをしてきたようだ。
この一泊二日の旅行においてこれ以外の記憶はほとんどない。
ただ、帰った後、弟に対してきっちりお礼参りをしてケジメをとったことだけは覚えている。
二回目も記憶が断片的だが、たしか時期が冬で、同じ県内だが温泉地だったことは覚えている。
その回もあの二組の兄弟は来ていて、私たち兄弟を見るなり「おーう」と友好的にあいさつしたが、そのあいさつは私の弟に向けられたもので私にではないことを子供心に悟っていた。
それが証拠に子供たちだけになった時、「このヒトはフツーのカオなんだけど」と四人は弟を指さして言うが、次に私を指さして「このヒトはカオ変なんだよな!」と大笑いしやがったからな。
母親たち同伴で温泉に入った時も、母親の目を盗んで私に水をかけたり、ダイレクトに指カンチョーされたり、湯の中に沈められたりした。
これは彼らと遊んでいることになるんだろうか?
どう考えても遊び道具にされているということでは?
こいつらと関わってはいけない。
私は皆と大広間で夕飯後、一緒に遊ぶ五人を尻目に一人で座っていたら、うちの母親が「あの子らと遊んでりゃー」とまたあの危険で嫌な奴らと絡ませようとしやがった。
はよ帰りたい。
翌日、電車に乗って一緒に帰る時も奴らから離れて一人でいたら、うちの母親以外の他の母親二人が余計な気をきかせて「この子もまぜたりゃー」とかそれぞれの息子に言って強引に気の合わん五人と一緒にするんだから迷惑極まりない。
もっとも、電車の中ではずっと彼らは私抜きで盛り上がっていたが。
あのなあ、どうしてそうやって無理やり仲良くさせようとする?
あんたら母親同士が仲いいからって、俺ら子供も仲良くなるべきだってのは違うぞ。
私は車内で子供心にそう反発していたのをよく覚えている。
そして最悪なことに、この母親たちの独りよがりの長い胸糞悪い旅行はもう一回あった。
もっとも、それが最後となるのだが。
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