第50話 母の女の友情を終わらせた私

1960年代後半、岐阜県の国立岐阜大学のキャンパスに三人組の仲良し女子大生がいた。

三人は大学の中でも外へ遊びに行くのも一緒。


しかも卒業後の進路は揃いも揃って同じで、小学校の教師。

よって三人は大学生だった頃と同じく卒業後も休日はつるんでいた。


やがて三人はそれぞれの伴侶を見つけ、相前後して結婚。

結婚した時期がほぼかぶっていたためだろうか、子供が生まれる時期も同じくらいで、三人の第一子はそれぞれ母親たち同様同い年だった。

第二子が生まれたタイミングもほぼ一緒で、しかも奇しくも全員男の子。

三人ともほぼ同じ年代の二人兄弟の母親となっていた。


子供たちが小さかった頃はさすがに三人ともそれにかかりきりで、お互い会うことはなかったが、同じタイミングで第一子が小学校に上がり、第二子が幼稚園か保育園になってある程度手がかからなくなった後、三人は再び集まるようになる。


最初は三人の中のノッポとぽっちゃりが二人だけで。

ほどなくメガネをかけたチンチクリンも合流し、岐阜大学のトリオが復活した。


そしてもう三人だけではない。


みな同業者だったので、ヒマになるタイミングもいっしょ。

その際には子供たち同伴で一泊二日の旅行に行った。

輝かしい時間を共有した三人で集まると女子大生に戻った気分になる。

そんな素敵な時間はとてもじゃないが一時間や二時間だけじゃ物足りないのだ。


三人の母親が大学時代にタイムスリップしている間、それぞれの子供たちを子供たち同士で遊ばせていた。

ノッポとぽっちゃりの息子たちはお互い以前に母親に連れられて何度か会っており、すでに仲良し。

後からやって来たチンチクリンの息子もすんなり受け入れられるだろう。

なにせおあつらえ向きなように三組の兄弟は兄の方も弟の方もそれぞれ年齢が近いのだ。

仲良くなるのは早いはずだ。


母親たち同様、三組の兄弟同士も大の仲良しになるだろう。

子持ちになっても、いくつになっても私たちの友情は変わらないし、その関係は子供たちにも受け継がれてゆくのだ。

そう思っていた。


だが二回目の、冬に岐阜県北部の下呂温泉へ旅行した時だ。

ノッポとぽっちゃりとのおしゃべりの合間に、チンチクリンがふと入り乱れて遊ぶ子供たちを見た際に気づいたことがあった。

自分の息子、長男だけが明らかにひとりで遊んでいる。

次男は他の四人と一緒になって遊んでいるのに。


そういえば前回もそうだったような気が…。


長男は母親から見ても何を考えているか分からない子だが、人見知りであることは確かだ。

「みんなと遊んでき」と長男を促して子供たちの輪に加え、また他の二人との大学時代の昔話に花を咲かせる。


だが二日目、今日は皆と一緒に電車で帰る日なのだが昨日と同じだった。

次男は四人と一緒になのに、長男はまた独りぼっちでわざわざ離れた別の席に座っている。


さすがにノッポとぽっちゃりもそれに気づき、チンチクリンの長男を仲間に加えるようそれぞれの息子たちに言いつけてくれた。

一応帰りの列車では六人の子供たちは一緒の席に座り、長男も溶け込んだように見える。


なんであの子はいつもああなんやろ?

そういや、いっつも家でも一人で遊んどるし、同い年の子と遊んどるの見たことないわ。


チンチクリンは普段から普通の子と違う長男のことを心配していたが、変なことをする子だからみんなに受け入れられないんだと思っていた。

だから「普通にしろ」と、今後も言い続けるしかないと信じていたようだ。


しかし今回の集まりも本当に楽しかった。

また息子たちをそれぞれ連れて集まろう。


次回は今年の夏休みに行こまいか、海とかええね。

などとノッポとぽっちゃりと電車の中で夏に再会することを約束し合い、三組の母子は岐阜駅で分かれた。


それぞれの子供たちもお互いに「またな」とか「じゃあな」とか手を振っている。

チンチクリンの長男をのぞいて。


「また行こうね」とチンチクリンが言うと「またいきたい」とその次男は応えていたが、長男は「楽しかったね」と母親に言われても上の空で「うん」と答えていた。


そしてその年の夏、冬に約束したとおりチンチクリン母子は他の二組の母子の待つ三重県の海沿いの民宿へ三回目の旅行に出発した。

今回も楽しいものになるだろうと疑うことなく。


だが、チンチクリンこと、私の母親は予想していなかったであろう。

この旅行が同窓生たちとの親子合同旅行の最後となり、大学以来の友情にもヒビが入るであろうことを。

そしてその原因を作るのが長男、すなわち私であることを。







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