第48話 安保闘争は楽しそう
戦後のベビーブーム時期に生まれた団塊の世代、うちの両親の世代なんだが、非常にうらやましいと若いころから思っていた。
うらやましい点はいろいろあるのだが、特にうらやましいのは70年安保闘争に参加したことのある者たちだ。
街頭闘争とかいって機動隊と衝突したりしてスリリングじゃないか。
見るからに楽しそう、私もやってみたかった。
仲間も大勢いるから怖くない。
大義名分もあるから勇敢になれる。
街中を舞台に、待ち受ける機動隊との血沸き肉躍る合戦ごっこ。
アドレナリンを発散させて、血気盛んな若者冥利に尽きるじゃないか。
安保闘争に限らず学生運動に参加したことのあるおっさんたちの自慢話を私たちは妬ましく拝聴するしかなかった。
大学生の時にこれをやったら一生の思い出になったことだろう。
それができなかった我々の世代は不幸だ。
妬ましいのはちゃんと大学在学中に足を洗って、卒業後はまっとうな人生を歩んだ人たちだ。
ちょうど暴走族を未成年のうちに引退して、ヤクザとかにならずに正業について生きてきたみたいな。
二十歳越えても足を洗わずにヤクザになったり半グレになったりするのは、学生運動にのめり込み過ぎて三十とか四十超えてもやってた過激派と呼ばれる活動家に相当するだろうか。
それとは違うって?
同じだろう。
若気の至りによる過ちである点でどう変わるってんだ?
どっちも一般人に迷惑かけてるのは同じじゃないか。
お前はあの時の状況を知らないとか言うかもしれないが、知りたくもない。
お前らだってよく知らず、楽しそうだから参加してたんだろう、実は?
そんなに甘いもんじゃないって?
権力に立ち向かっただって?
社会を変えようとしたって?
戦争行ったみたいなツラするな。
あんなもの反権力ごっこだよ。
天安門の学生や香港民主化デモ、ミャンマーでクーデターを起こした軍への蜂起に参加した若者たちのハートや覚悟なんてなかったくせに。
彼らは本当に自分たちの命をかけて人の命を屁とも思わない権力に立ち向かい、殺されたり収容所に入れられて人生棒に振った者も多いんだ。
彼らこそ本物の反権力だ。
まともな弾圧もできない大甘の日本政府にちょっかいをかけていただけのお前らといっしょにするな!
断言してやる。
70年安保闘争なんて、ほとんどの者にとってみんなといっしょにやった青春時代のスリリングな火遊び、「権力に立ち向かってみた」迷惑な反権力闘争ごっこに過ぎない。
それ以上でもそれ以下でもないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます