第43話 負け犬体型

私は自分ほどみっともない体型の男は珍しいことを認める。

今に始まったことじゃなく、中学生のころからだ。


まず骨格が小さく細く、筋肉量が少ない。

いわゆる貧弱な体である。

しかし問題は貧弱なだけではない。

皮下脂肪がその分多いのだ。


腕とか触ると、細いくせにぷにぷにする。

体全体がそんな感じで、皮下脂肪が多いために筋肉の存在が目立たず男性的な印象を持たれない。


特に自分でもみっともないと思うのは胸だ。

なんか突起している。

つまり思春期が始まるころの女の子の胸みたいなのだ。

表現の仕方が悪いけど。


中学生の時からそんな感じで、みんなの前で上半身を脱いだ時にクラス中から嘲笑された。

「貧弱だ」だの「幼児体型」だの、極めつけは「小学六年生の女の子みたい」だと!

しかも女子にまで!


以来、人前で上半身裸になるのが嫌だ。

中学を卒業して以降も私の体は男らしくなることがなく、高校時代の水泳の時間は本当に苦痛だった。


ならば鍛えればいいのだが、トレーニングのやり方が悪かったのか、なかなか効果が実感できたことがない。

私も運動が嫌いなので途中でやめてしまったのもあるが。


二十代中盤、漫画家のアシスタントをやっていた私は貧弱な体のまま肥満してしまった。

そこを追い出された後、私が職業としてもっぱら選んだのは肉体労働だったのは、瘦せなければならないのもあるが、やはりこの女みたいな体型を男性化しようとしたのが大きい。

毎日嫌々運動するんじゃなくて、仕事として肉体を使うんだから金ももらえて運動もばっちりできて一石二鳥ではないかとも思ったのだ。


私は建設現場の日雇い労働者を経て、ヤマト運輸で働き始めた。

倉庫内作業で重い荷物を積んだり、ボックスと呼ばれる仕分けられた荷物の入ったラックを運んだりの肉体を酷使する仕事だ。

夏は汗びっしょりになるし、真冬でも体が温まった。

こりゃ問答無用で筋肉質になるだろう。


だが、結局私の体は変わらなかった。

社員にもなって十年近く働いたのに、相変わらず貧弱で体脂肪率は多いままだった。

毎日酒を飲んでいたのも悪かったのだろうか?


49歳になった今、私の体はよりみっともなくなった。

自信の源泉となるのは肉体の壮健さであると思うが、スポーツを何一つ打ち込んでこなかったことが見え見えの貧相な体を見る限り、何の自信も湧いてきそうにない。

胸を張って歩けない人生であるために曲がってしまった腰。

日頃の不摂生が見え見えの体脂肪率が高そうなたるんだ体。


私の体は自身の負け犬人生を具現化している。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る