第30話 なぜ私にお茶出しをさせるのか?

ついこないだ試用期間に解雇された会社の話なんだが、どうにも解せないことがある。


その会社は従業員数が少なく、事務所には私を含めていつも五、六人しかいない。

会社の規模の割には意外と来客が多く、当然ながらお客様にはお茶をお出しする必要がある。

それくらい必須のマナーなんだが、ここでこの会社はマナーに反し、お客様の機嫌をやや損ねていたであろうことをしていた。


何と会社の上司は新人である私にお茶を出させていたのだ。

新人だからそんなの当たり前だって?

でも、考えてもみろ、49歳のおっさんがお茶を出すんだぞ。

おっさんの私にこんなことさせるな、と言いたいわけじゃない。


客の身にもなれって言いたいんだ。


むさっ苦しいけったいなおっさんが運んできた茶を、あなたはおいしく飲めますか?


事務所にはその上司も含めて先輩社員三人が女性だったんだから、そのうち誰かが持っていくべきだろう。

女性蔑視してるわけでもない、その逆だ。


同じ茶でも女が運んできたのと、おっさんが運んできたのとでは味が変わるはずである。

私みたいなのが運んできた茶を安心して飲めるだろうか?

私なら飲みたくない。


「これ飲まなきゃならないの?」って気分になって、「どうぞ」と勧められようものなら罰ゲームをさせられてる気になる。

事実、私が運んできた茶を飲みほした客は皆無で、いつもたっぷり残っていた。


客のうち誰かがクレームでも入れたんだろうか?

最終的にはくだんの上司の女性もさすがに気づいたらしく、私がお茶くみに行くと「私が」と遮るようになったが。


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