第27話 頭脳労働も肉体労働もできない

私は不器用で理解力が低く、業務の習得に時間がかかる。

新しいことにチャレンジするたびにそれを思い知らされ、それでもめげずに時間をかけて習得して実践力や経験を積む前に不適格の烙印を押されて放逐されてしまう。

それが何度もあった。


私も比較的長く八年務めた職場はあったが、そこは一時的な事業であり、それが終了すればお役御免の派遣社員。

類似の仕事を求めたが、そこでは長く務めた派遣の仕事での経験は「知ったかぶり」であり経験があるとはみなされなかった。

その仕事は私を求めていなかったのだ。


かと言って肉体労働をやってもダメだ。

私はかつて建設現場で働いたこともあるし宅急便の倉庫内作業をやったこともある。

だが、それらの場所では事務職にはない居心地の悪さがあった。

筋肉で業務を処理することを求められるが、私の肉体は頭脳同様無力だ。

何よりそういった職場では仕事ができる人間よりもコワモテが尊重されるところがあり、会社によっては働いている人間がグレているか、かつてグレていたことがデフォの所だってあった。

そんなところでの私は学校同様何をやっても構わない奴隷以下。

いや、そんなところにいてはいけない存在ですらあった。


私は自らを振り返る度に、絶望の波が押し寄せる。

頭脳と肉体どちらも役に立たぬ人間として、この世に果たすべき使命はあるのだろうか。

自らの存在意義を問い続けても、その問いに答えは見いだせない。

無職となった今、もはや社会の一員ではない。

これまで培った経験も知識も虚無の中に消えていく。


ただ、日が暮れるのを待ち、酒を飲んで眠りにつくだけの日々が続いている。


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