第24話 私の特技
私は確かに社会の最底辺に追いやられているダメ人間だが、世の中のどんなことをやってもダメというわけではない。
人より優れている能力が実はいくつかあると自負している。
それは方向感覚が鋭敏であることだ。
いや、かつてはだったから「あったことだ」というべきか。
私は幼少期から一度通った道は忘れなかったし、車で家族旅行に行った際には子供の分際でハンドルを握る父が道を間違えたことを指摘、私の示した方向に目的地がちゃんとあった。
そして私は道に迷うという経験をあまりしたことがない。
たとえ地図がなくても目的地には確実にたどり着けた、というか私の進む先に目的地があると思ったくらいだ。
そんな私の手元に地図があろうものならば鬼に金棒。
初めての土地であっても最短距離の経路を頭の中ではじき出して最短時間で目的地に着ける。
グーグルマップなど持っていたらもう鬼に金棒どころか、宮本武蔵にマシンガンとハンドガンを持たせるようなもので無双。
土地勘なんてものはその土地に着いて数時間もすれば十分ついたことだろう。
だがこの黄金の能力は加齢とともに劣化していくもののようだ。
私は昔からバイクを持っていてあちこち走り回っており、東京都内と近郊だったらどこへ行くにも地図はいらないくらいなのだが、つい最近都内某所でバイクを路駐してラーメンを食べに行ったはいいが、目的のラーメン屋がグーグルマップを使っているにも関わらずなかなか見つからなかった。
やっと見つけてラーメンを食べ終わり、バイクを路駐した場所に戻ろうと思ったが、どこに停めたか分からなくなってしまったのだ。
これはラーメン屋が見つからないより焦る。
一瞬実は停めた場所に着いているが、盗まれたのかも知れないとまで狼狽した。
結局あちこち歩き回ってようやく愛しの愛車を見つけたら、駐禁を切られていた。
罰金を支払わされるという不運もしかりだが、数少ない長所である鋭敏な方向感覚がもう失われてしまった事実に私は打ちのめされたものだ。
他にもいろいろ特技や私以外ほぼ誰も知らないような知識を持っていたりもすると自負するが、もはや失われたことがはっきりした方向感覚も含めて残念なことがある。
それはどの特技もつぶしが効かないということだ。
どれもこれも仕事や高収入につながる技能や能力ではないのである。
せめて口のうまさだとかプログラミングとかそういうのが得意だったらよかったのだが。
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