第23話 嫌な奴に限って成功している

世の中で何が一番面白くないかって言ったら、嫌な奴が成功しているのを目の当たりにすることだ。

一人や二人じゃなく結構たくさんいて、私の近所にもそんな最高に面白くない奴がいる。

スーパー銭湯のオーナーの男だ。


最初にその男に出会ったのは今から二十年以上前、私が二十五歳くらいの時である。

そいつはよく通うようになっていた銭湯の息子で、私より少し年下の当時二十歳そこそこ、時々番台にいて店を手伝っていた。


不愛想でなんとなく感じの悪い奴だと最初から思っていたが、接客態度もぞんざいそのもの。

というか相手によって態度を露骨に変える野郎で、私に対しては「お前何しにきやがった」としか思えない態度をとる。

銭湯に併設しているコインランドリーで洗濯しようとした時に細かい銭がなかったので両替してもらおうとしたら、「あそこに自販機あんだろ。あそこでくずせよ」とか言ってきやがったし、サウナに入りに行った時などは釣銭を投げてよこしやがった。


そのくせ昔馴染みみたいな人には「〇〇さんいらっしゃい。仕事帰り?」と愛想がいい。

私も結構十年くらい通って常連になっていたのに、態度は相変わらずだった。

だからそいつが番台にいる時はその銭湯を利用しなかったくらいだ。


やがて時は流れ、野郎はいつの間にか結婚していた。

頭にくることに女房はスタイルもいいしかなりの美女だ。

子供も生まれたらしく、時々パパの職場である銭湯に美人のママに連れられて来て跳ね回っていた。


近年完全に代替わりしたらしく、そいつがオーナーになったようだ。

昔ながらの銭湯を大改修し、バーも併設したスーパー銭湯に生まれ変わらせた。

人手不足もどこ吹く風で若い女の子を何人も雇い、リニューアルオープン以降一年以上経つがずっと大賑わいである。

私はシャクにさわるので改修以来一度も行っていないが。


野郎は体形がすっかり丸くなってアゴひげをのばして高級車に乗り、社長としてふんぞり返っている。

まあ奴もひょうひょうとやっているように見えて血のにじむような努力と決死の覚悟をもって家業を引き継ぎ、順調に業績を拡大しているんだろう。

それくらいは私にも分かるし評価してもいる。

従業員にも尊敬されて慕われ、友人も多いみたいだから、実は人望がある人物なのかもしれない。


だが、やっぱり、何となく無性に気に入らない。

嫌いな奴が何もかも手に入れているように見えるし、私に対する数々の無礼な態度への因果応報があったように見えないことが一番の理由なのは私の度量が極小だからだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る