第21話 私がもしケンカの強い男だったら

私は運動能力が低い。

腕力もからっきしだから他人とケンカしたら負けるに決まってるからできない。

幼少期の時点ですでに不本意ながら認めざるを得なかった事実である。


そのおかげでいわれなき不利益をこうむり続けてきたわけだから、私は小さい頃からケンカの強い人間になった自分を夢想し続けてきた。

バカげた空想だが、本当にそうなったら実に素晴らしい世界を生きることができるだろう。

現実世界の自分ができないことの多くができるようになるんだから、自信を持って生きることができたはずだ。


だが、本当に良いことづくめか?

よくよく考えてみたらそれは諸刃の刃であったかもしれない。


私はちょっとしたことでも気にする性格だ。

つまり傷つきやすい、精神に痛点の多い人間だ。

そして傷つきやすい人間というのは反面で腹を立てやすい性格でもあるのではないか。

しかも結構しつこく覚えている。


そんな人間に腕力が備わっていたらどうなるか?


自分を傷つけた、自分のカンに触ったことを言ったりやったりした人間に対してそれを行使し、如何に間違ったことをやったかを体でわからせていただろう。


それはそれで大いに結構で愉快なことだが、社会的には許されざる行為だ。

自制の効かない私のことだからついついやりすぎたりして、現実世界の私にはない前科の一つや二つがあった可能性がある。

というか今でも刑務所の中かもしれない。

また、相手によっては返り討ちに遭うか、後で報復されてこの年齢まで生きていなかったこともありうる。


そう考えると、私は今の腕力でよかったとみなすべきなのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る