君と、海

義為

本編

ねえ、知ってる?

この川は、地面に染み込むんだって…………


そりゃあ、水は地面に染み込むでしょ


ううん、普通は沈み込まずに、海まで繋がるんだって……


 

 そう君と話したのは、10年前だったかな。君は東京に、僕は山梨に引っ越した。

 お隣だね、またいつでも会えるね、なんて言った言葉は、嘘になってしまったよ。


 

 僕はこの春、東京の大学に進学する。

 SNSでありがちなハッシュタグ、#春から〇〇大、そこに君の名前を見つけた。

 とくん、と跳ねる鼓動を感じる。君が通うのは、僕と同じ大学だ。

 たまらず、アカウントのプロフィールを見る。大学進学を期に作成されたことを表す、「今年3月から利用しています」の文字列。



 僕は、検索履歴に君の名前を残すことにした。



 君はピアノを習っていた。

 自然と、音楽系のサークルと相互フォローになっていく。

 変わらないね、君は。


 

 よくわからない活動のサークルとも交流する君。

 楽しく、遊ぶ?

 まあ良いんじゃないかな。



 僕も大学用のアカウントを作ることにした。

 君に届くかな。



 「土と岩に染み込むことなく、海へと続け、過去と未来の微かなる流れよ」



 僕は、文学サークルにフォローされた。



 時は流れる。



 僕は、詩を吟じることに熱中して、大学一年の前期を終えた。

 講義の前後に部室に入浸り、あるいは図書館で古典文学を読み漁り、部員と共に風景を眺めて過ごした。



 文学サークルの合宿、行き先は熱海だった。

 小田原急行、その終点で、君を見かけた。


 

 君は、美しく、楽しげに、笑っていた。

 背の高い優男は、君の半歩後ろを歩く。



 ここは、海がよく見える。

 良い詩が書けそうだ。

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君と、海 義為 @ghithewriter

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