第3話 刺客
20✕✕年 ◯月◯日 午後2:40
私の名前は、笹井 真由 二十四歳
平日のこの時間、フードコートは凄く暇だ。
──なんか面白いこと無いかな……
ショッピングモールのフードコート、ハンバーガーショップでアルバイトをしている真由は、客の少ないこの時間、ある楽しみがある。
『人間観察』
ただ周りの人を観察するだけだか、真由にとって至極最高の時間だ。
真由はさっそく、気になる人物を見つけロックオン!
隣のラーメン屋からトレイにのったラーメンを、テーブルまで運んでいるおっさん。キョロキョロして、めっちゃ挙動不審だ。怪しすぎる。ワクワクしてくる。
おっさん、テーブルに置いたラーメンを前に、チラチラとラーメン屋の方を気にしている様子。しばらくして、手を合わせいただきます。ニヤけ顔でラーメンを食い始める。
──ん?
口内炎でもできているのか? 歯医者で麻酔でも打たれたのか? 麺をすすらず、モミモミと変な食い方で食べ進めるおっさん。ずっとニヤけている。
ふと箸を止めるおっさん。
どうした? 口内炎を刺激したか? 歯医者で詰めた詰め物がとれたのか?
おっさん、今はニヤけてない。何か深刻な事態が発生したのか? どうしたおっさん! 負けるな!
──え!
「なっ!!」ビックリして声が漏れてしまった。
おっさん突然、眼球がこぼれ落ちんばかりに目を見開き、丼を指差している! かと思えば今度は、どこを向いて何に対してなのか、グッドポーズをしてニヤけている。
怖い…… しかし目が離せない! 見えない何かと戦っているのか? 頑張れおっさん!
真由は興奮していたが、なんとか冷静さも保っていた。そこら辺の素人ウォッチャーと一緒にしてもらっては困る。
そう。見逃してはいなかった。真由は、ラーメンおっさんをロックオンしつつ、別の一人の動きを警戒していたのだ!
忙しくラーメンを食っているおっさんを、密かにウォッチングしている奴の存在、
──そうお前だ! うどんを食っている中年男!
私は見ているぞ!
中年男は、おっさんのテーブルからニ、三席はなれた位置で、あきらかにおっさんを観察している。
お前、必死に笑いをこらえているな! さっきからうどん全然食べてないな! でもわかる。あれだけ刺激的なおっさんを前にしたら、誰でもそうなるさ!
しばらく真由は、二人のおっさんの動向を見守っていた……
妙な行動を続ける、ラーメンおっさん。それを見て肩を振るわせ、必死に笑いをこらえているうどん男。
その時は突然にやってきた! 予想外の展開!!
「うわっ! ヤバ!」真由はあせった!
中年男とおっさんの目が合っている!
どうなる!?
緊張の糸が張り詰め、ちぎれる寸前のワクワク感が止まらない。
見つめ合う二人のおっさん。
実質は数秒だろうが、真由にとっては、周りの景色が早送りで夜になり 朝になり 日が昇り また日が暮れる その繰り返しで三日ほど時が流れたようなとてつもない無駄な時間。
二人のおっさんは、互いを真っ直ぐ見据えたまま、うなづきあっている。
──…………
「何しとんねん! 何の時間やねん! アホくさ!!」真由は思わずツッコミを入れる。
食事を終えたラーメンおっさん、間違えてうちの返却口に来て、バカ殿みたいな声で、
「ごちそうさまでした~」
──ラーメン屋は隣や! うちはバーガーや! ずっと何しとんねん!
うどん男を見ると、小指くらいにのびて膨らんたうどんを、寂しそうにチュルチュル食べている。
「何しとんねん!!」
真由は密かにツッコミを連発して、やっと緊張感から開放されていた。
──ふぅ 今日のウォッチングは、なかなかハードだったな…… 満足、満足。
その時、真由は背後から殺気を感じた!
恐る恐る、ゆっくり振り向く……
バーガー屋 厨房の奥に居たのは、いつも無口な陽子先輩!
──まさ…… か……
陽子先輩は、驚いている真由を見て静かに微笑んだ。
真由の背中に冷たい物が走った!
──見られていた…… 全部……
過信。油断。最悪だ! 自信満々に、ウォッチャーをウォッチングしていたつもりがウォッチャーをウォッチングしているところをさらなるウォッチャーにウォッチングされていた!
真由は膝から崩れ落ちた。
フードコートが少しづつ賑やかになる中、真由の心はあの冷めてのびたうどんのように冷たくなっていた……
『のびたうどん』🍜
のびたうどん 原口 モ @mo-haraguchi
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