8話 「護るべきもの」






たまもから話を聞いた夏鈴とテンは、慌てて電話をかけ泣きながら助けを求めていた。


「大変なの!お兄ちゃんが殺し屋に連れて行かれちゃったよぉ…どうしようクリスタお姉ちゃん…」


「ソフィ姉さん?兄さんが…兄さんが…」


それを聞いたクリスタとソフィは、すぐにマライアに連絡を取りラビットテイルの面々にも声を掛け幸近捜索へと出向いた。





そして幸近がジャッカルに連れてこられたのは、

以前レッドと闘ったとある廃倉庫であった。



「ここなら一般人がやってくる事もないだろう」


「お前は俺の殺しを誰に依頼されたんだ?」


「守秘義務がある」


「そりゃそうか…」


「では仕事を遂行する…」



ゆっくりと近づいてくるジャッカルを見て、幸近は刀袋から刀を取り出し構える。


ジャッカルが拳を振りかぶる時、幸近も同時に技を放つ。


「藤堂一刀流居合『虎風』」


幸近の剣は確実にジャッカルの体に当たったのだが、その瞬間まるで金属同士がぶつかったような音が響き、彼の服は切り裂いたが体には一切の傷はなかった。


「やっぱりお前の体は刃も通しちゃくれねぇか…」


「諦めろ、貴様は私の体に傷はつけられん」

そう言って破れた上半身の服を脱ぐとその体は赤く、光沢を帯びていた。


「体を硬くする能力ってところか…」


「説明する義理はない」


軽い身のこなしから拳を向けてくるジャッカルに対し、

幸近はそれを刀で受け止め力と力のぶつかり合いになる。


幸近が膝をつきそうなほど屈まされる体勢へと押し込まれた時、声を上げた。


「『白雲狐飛(はくうんこひ)』」


幸近がそう叫ぶと白い霧が発生し、すぐさま辺りを包み込んだ。

その隙に幸近は押し合いを逃れ、ジャッカルの死角から突きを放つが、その攻撃では一歩後退させただけだった。


霧が晴れるとジャッカルがすぐさま回し蹴りを仕掛ける。


「『天狗舞(てんぐまい)』」


すると幸近はまるで舞を舞うかのように美しく空中へと跳び上がって避け、下降する最中に続けて技を放つ。


「藤堂一刀流『門前雀羅(もんぜんじゃくら)』」

(数十の刃の残像が残るほど素早い突きの連続技)


幸近の新技が炸裂し、多くの金属音が鳴り響くと共にジャッカルを地面へと倒す事に成功していた。



だが、やはり未だ無傷のジャッカル。

起き上がると今の一連の流れについて幸近に尋ねる。



「私が調べたところ貴様は無能力者の筈だが…

今のはさすがにそれの芸当ではないな」




ジャッカルの言う通り幸近は無能力者として生活しているが、彼には『真の平等(エガリテ)』という能力がある。


この能力は彼本人に作用する力はないと思われていたのだが、3人の弟妹達にラグラスを使用してから、分かりやすく幸近の体に変化が現れたのだ。


その変化とは、自身のラグラスで契約した相手と似たような能力を多少だが幸近も使用出来るというものだった。


この現象についてケンちゃんへ相談をした際の見解は、

契約相手と幸近は約束の刻印によって少なからずリンクした状態にある。

そのリンクが続く限り、契約相手の能力を少しだけ利用する事が出来るのではないかというものだった。



「俺もお前に説明する義理はねぇさ」


「まあいい、その程度の目眩しでは私には勝てん」


幸近はさらに攻撃を仕掛ける。


「山形流剣術一の太刀『一閃』2連撃!」


2度金属音が響くがこれも相手の体に傷はつけられない。

そしてジャッカルは攻撃を放った幸近の腕を掴み逃げ場を与えず、もう一方の腕で殴り飛ばす。


「ぐっは…」

(一撃が重い…俺はこいつに勝てるのか…)


自信を失いそうになった後もジャッカルに剣撃を浴びせ続けるが先ほどまでと同様、虚しい金属音が響くばかり。

鬱陶しいと言わんばかりに蹴りを放つジャッカル。


「がはっ」

吹き飛ばされ倒れ込むがなんとか起き上がる幸近。


そしてジャッカルがあの時の技を放つ。


「豪拳」


その拳が腹部に直撃し、凄まじい轟音と共に幸近は倉庫の屋外まで飛ばされた。


「一応確認しておくか」


外に出ると血だらけの幸近が立ち上がり構えていた。


「何だと…」


「藤堂一刀流居合奥義『雲龍風虎』」


この十時の斬撃を受けたジャッカルは倉庫内へと押し戻され仰向けに倒れた。

幸近がその後を追い倉庫へと戻るが、ジャッカルは首を回しながら立ち上がった。


「今のは、少し焦った」


(俺の奥義なんだけどな…)


「もう楽にしてやる」


そう言って幸近に近づくとジャッカルはアッパーを繰り出し、幸近を空中へと打ち上げた。

そしてジャッカルも跳び上がり、地面へ向けて再度放つ。


「豪拳」


「がっっはぁ…」


とてつもない威力で幸近が叩きつけられた衝撃で、廃倉庫の床にはまるでクレーターのようなものが出来上がる。




その場に蹲りながらまるで走馬灯の様に、昔の母との会話を思い出していた。




―10数年前の記憶―

「藤堂一刀流居合『虎風』」


「うわぁー!」幼い幸近が倒れる。


「これで母さんの526勝目ね」


「くそっ!これだけ稽古しても勝てねーのかよ!

なんで母さんはそんなに強いんだ?」


「幸近は何の為に剣を振るの?」


「そりゃ母さんや父さんみたいに強くなる為だよ!」


「そうね…母さんも最初は自分が強くなって、自分を守る為だけに剣を振っていたの


でもね、不思議なことに剣を振り続けて強くなっていくと同時に少しずつ護るべきものが増えていった


幸近や夏鈴はもちろん、母さんは異能警察だからこの街の、この国のみんなを護っている


幸近もこれから大人になって護るべきものができた時、きっと今よりもずっと強くなっているはずよ」


「じゃあ俺も母さんみたいな異能警察になって、みんなを護れる強い男になるよ!」


「それは楽しみね!その時はその護りたいものを母さんにも紹介してね?」




(そうだったな…近々紹介するよ

サンキュー母さん…)


なんとか意識を保ち起き上がりジャッカルへ語りかける。

「おい殺し屋、あんたには護りたいものってあるか?」



幸近が起き上がった事に驚きつつもそれに答える。

「殺し屋という家業は家族や特段親しい者は作らんのだ、

強いて言うなら私が仕事をしくじらないという信用だな」


「そうか…じゃあやっぱりあんたには負けらんねぇわ」


「そんなにボロボロな貴様に今更何が出来るというのだ」


「お前を刑務所に送ってやるよ」


「貴様がどんな技を駆使しようとも私の体に傷一つつける事は出来ん」


「今までの俺ならそうかもな…

でも何故だかもう負ける気がしねぇ…」


「その根拠のない自信ごと打ち砕くのみ」


そう言ってゆっくりと幸近に近づくジャッカル。


その時幸近の顔つきが変わり、彼が纏う禍々しいオーラを目にしたジャッカルの動きが止まる。


幸近が放ったのは『鬼気森然(ききしんぜん)』

鬼の形相で相手を威嚇し恐怖を与え動きを止める、テンの鬼の力を利用した技である。



(これは何だ…この私がこの男を恐れているとでも言うのか…)



ジャッカルは冷や汗を流しながらも心を落ち着かせようとしていた時、幸近の顔を見ると彼は目を瞑っていた。


「舐めるなよ貴様!戦闘の最中に目を瞑るなど、死を覚悟しろ!」


怒りのあまり全ての力を拳に集めながら幸近へと殴りかかるジャッカル。



「藤堂一刀流居合『盲亀浮木(もうきふぼく)』」



互いに最大の攻撃を放ちあい背中合わせの2人。



しばしの静寂の後、幸近の刀が鞘に納められる音が響くと共にジャッカルの体から血しぶきが上がり膝をつく。


「ぐぁはあ…」


(私の体に傷をつける者がこの国に2人もいるとはな…)


「見事だ…」


後ろを振り返りながらそう言い残し倒れたジャッカルの背中には大きな刀傷のような古傷があった。



「親父、あんたの技借りたぜ…」


幸近の放った『盲亀浮木』は、目を瞑り極限の集中状態を作り上げる居合術であり、防御は著しく疎かになるが通常の数倍の攻撃力を得る諸刃の剣の一撃である。




家族に連絡をしなくてはと電話をかけた所で、幸近は倒れこんでしまった。


「もしもし!お兄ちゃん?今どこなの?

ねぇお兄ちゃん!」



「………」






第2部 8話 護るべきもの 完が




登場人物紹介




名前:ブルー・ウォルター(殺し屋ジャッカル)

髪型:薄茶色のオールバック

瞳の色:青

身長:183cm

体重:92kg

誕生日:3月19日

年齢:53歳

血液型:A型

好きな食べ物:秋刀魚

嫌いな食べ物:ゴーヤ

ラグラス:硬化(キュアリング)

体の硬度を高め攻撃力と防御力を跳ね上げる




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進化の後遺症 ~異能警察学校編~ 野谷 海 @nozakikai

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