第3話
彼はコーヒーを啜っている。
誰かが器に注がないかぎり、
そのコーヒーが増えていくことはない。
誰も飲まなかったとしても、
いずれは干からびてゆくはずなのに、
ましてやその男が飲んでいるのに、
しかしそれは減っていく様子がない。
脚を交差して振り向き様に、
ホットコーヒーを啜りながら、
流し目でこちらを見ているのではなく、
右手はストローを持ち、
左手はコースターを押さえて、
陽の入る机の高いカウンターで、
グラスが結露してコースターを濡らす
アイスコーヒーを啜っているのだが、
しかしコーヒーは一向に減らない。
彼は正面に窓の向こうを捉えて、
ぎょっと目を張っている。
ストローを噛んでしまっているのか、
ぢぅぢぅ吸ってる必死さが、
顔中に滲み出ているのだが、
それでもコーヒーの水位は下がらない。
定規を当てて確かめてみるといい、
何十分たっても、かさは減らない。
文字通り一ミリも。
そんなことがおきるのは、
この男が絵の中の人だからだ。
ほら、手前に定規を当ててる女がいる。
絵の中のコーヒーが減らないのを
さも面白がる顔でこちらに向き、
お前もこの定規当ててみ!っと
大阪のおばちゃんのようなコミュ力を
発揮しているように見える。
そこまでが私の見ている絵であり、
その絵を見る私の感想・分析を、
また誰かが覗いているのである。
Nothing Changes @Ahhissya
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