第2話

カフェから出たような気分だ。

私は遠めにいる男を見つめた。

ちょうど道1本を挟んだ遠くから。


男もまた、私を見つめていた。

見つめるというより睨んでいた。


男はコーヒーをちびちび飲む。

ああ、きっと熱いんだろうなぁ。


でもよく見てよ。

薄めのグラスに結露した水滴。

あれ、アイスコーヒーだよ。


ちゅうううううううう、

  ちゆゅうううううううう!

顔は真っ赤にして、

鼻の穴も広がって、

一生懸命吸っているのがわかる。


誰も追加で注いでなんていないのに、

コーヒーは一向に減らない。

減ってないように見えるだけだって?


そんなことないよ、ほら、

メガネをかけたお姉さんがガラス越しに

男のグラスに定規をあて、笑って言った。

「びっくりするでしょ。

 本当に1ミリも減っていないのよ。」


その男の前で立ち尽くした私は、

グラスの水滴が滑り落ちる錯覚に陥った。

あまりにすごいから、お姉さんに聞いた。

「これはどなたの作品なんですか?」


そう、それは絵でした。

絵なんだから、時間なんて流れてない。

男は永遠に必死で、永遠に飲めない。

永遠に、何も変わっていかないのです。


それから、次の絵に行くのだけれど、

興味をそそるものはひとつもなかった。


…この時間の動かない物語を

読んでいる誰かさんが楽しんでくれますように

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