第7話 最終話 ジャンクでも、キレイになれる

 私たちは、電子頭脳をゲットして部室に戻ってきた。


「いいものはあったか?」


「記録媒体を保存するだけだから、特に高いものは買ってないよ」


『記憶なんて最悪、クラウドで保存すればいいから』って、ルゥが言ったのだ。


 たしかに、そこがアンドロイドの強みか。

 クラウドのセキュリティも、自分でなんとかするだろうし。


「らしい言い方だな。ハードで保存のほうがリスキーとは。オレも、考えを改めねばならんかもな」


「あんたは、人間でしょうが。意識を保ち続けられなくなるよ」


「わはは。ここまできたら、限りなくネコに近づきたくなったのだ」


 アカン。顧問がますます変人めいてきた。

 そのうち、日向ぼっこだけする本物のネコに成り下がりそう。

 

「モモちゃんさん、しーちゃんさん。少し、鏡台を貸していただけないでしょうか?」


 鏡台を見つけて、ルゥが発言をする。声帯をいじっているので、声も電子的ではなくなった。


「いいよ。好きに使って」


「ありがとうございます、モモちゃんさん」

 

 ルゥは、鏡の前に座る。

 化粧品を用意して、パフを顔にポンポンっと。


 たったそれだけの、動作だった。

 なのに、見違えるほどキレイになっていく。


「すごいわね。ジャンクの寄せ集めで作った適当な顔なのに、段々と美しくなっていくわ」


「化粧のしがいのある顔です。丈夫な部品を使っているためか、肌が化粧にも負けません」


 一流メイクアップアーティストのような動きで、ルゥは自分を美しく彩った。


「できました。これでどうでしょうか?」


 ゆめかわ女子が、眼の前に。


「いいね!」


 ルゥが、一気に美人度を増す。


「メイクは、盲点だったわ。元々の部品の形だけで判断するのは、美的感覚の欠損につながるのね。やはり女なら、メイクの技術も学ばないと」


 ルゥの美しさは、美を追求する家系に生まれたしーちゃんもうなるほど。 

 

 私もメイクを勉強したくて、「おっさんが女装して美人になる」動画なども漁ってきた。

 鏡台のメイク用品は、その名残である。


 しかし、ルゥの変化は、それさえも上回っていた。


 顔のパーツさえデコボコだったのに、メイクを少ししただけで見違えたのである。


「ルゥ、これすごいよ! ジャンクでも、メイク次第でめちゃかわいくなるんだね?」


「そうなんです。肉体改造による整形が主流になってから、メイクはあまり評価されなくなってきました。ですがまだまだ顔の整形などは、骨格面など課題が多いです。やはり、まだメイクは必要になるかと」


 ルゥの発言を聞いて、しーちゃんもうんうんとうなずいた。


「わかるわ。ウチの親も、『どうやってもムリ』って無理難題を、毎回押し付けられているもの。あなたの意見は、参考になるわ」


「ありがとうございます、しーちゃんさん」


「いいえ。あなたは生徒ではなく、顧問にすべきだったと後悔したわ」


「とんでもありません。わたしは人間のコトをまるで知りません。この顔だって、ロボットの形状の構造を理解していたから、メイクできただけでして」


「サラッと言っているけれど、それってドチャクソすごいのよ」


「そうなんでしょうか?」


 戸惑うルゥに対して、しーちゃんが「まあいいわ」と締めくくる。


「これで、ジャンク品でも美人になるって証明できたわね」


「うん! まさか、こんなやり方があったとは」


「なまじ女子高生だから、肌の強さを過信していたわ」


「素がよくても、全体のバランスを考えないといけないんだね」

 

 ルゥが来てくれたことで、勉強になることが増えた。


「この調子で、ばんばんキレイになっていくぞ!」



(おしまい)

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ジャンクでも、キレイになりたい! 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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