第3話 ひかり
半年経って、そろそろ任務が始まると先生から告げられた。当主様にも瑞樹を守るように、との釘を刺すような文を貰い、いよいよ私の本当の仕事がここから始まる。
真翔くんとの距離はあれから変わることはなくて。今も瑞樹と仲が良いのを見かけるので話しかけることはしなかった。教室は同じだし、席も近いのに私は真翔くんではなく土御門くんと組むことが多かったのでこちらから避けている今接点はない。
私は式神術が得意じゃないけど真翔くんは苦手。私は
「祓え給え清め給え。霊術発動、
「式神『
霊力を使い、術を発動する霊術。陰陽師として一番基本的なその術を発動するための祓い言葉を唱える。数ある霊術の中でも火炎砲は私の一番得意な術。口元に親指と人差し指で丸をつくり、大きく息を吸い込み吐き出すとその息が炎になる術。火力はまだまだだけど下級の妖程度であれば瀕死にできるだろう。
だが土御門くんの作り出した式神『翠の翅』には完全防御されてしまった。土御門くんの背には大きな緑の羽がついていて、私の火炎砲などその羽は無傷で防いでしまう。羽ばたく羽から強力な風を受け、私はなすすべなく吹き飛ばされ地面に転ぶ。決着は呆気なくついてしまう。
土御門くんのほうに白旗を上げた先生はすぐに私のもとへ着て、引っ張り起こしてくれた。こんなことも日常茶飯事で、先生は大きな傷がないことを確認して次の組みへ向かった。
「月並さん大丈夫?」
「お陰様で満身創痍です。本当、つけ入る隙がないよ」
「まあ、強いからね」
「むかつく」
この半年で私は土御門くんに軽口を叩けるほどの仲にまでなった。まあ、真翔くんと関わることが少なくなると彼と接点が増えることは免れなくて。それに教室で上位に入る生徒ではないと彼の相手は務まらない。誰であろうと全く容赦がないしつけられた傷は両手で収まらない。常にどこかに絆創膏はつけてるし酷い時は包帯。ほら今も、膝を擦りむいていて流血が袴を汚している。前の傷が治りかけていたのにその上から傷が増えてしまったことにより治りが遅くなると思うと溜息は漏れる。
それと同時に自分の弱さに呆れていると少し先で瑞樹と真翔くんの教室外交流が始まっていた。瑞樹は霊術で真翔くんが式神術。瑞樹は霊術の1つ
対する真翔くんはかつて見たことのある式神『
真翔くんは私が避け始めたこの2か月で大きく成長していて。私なんてもう肩を並べて走れないほど、追い越されている。どうしようもない。避けて、それに納得しているはずなのにいざ二人が戦って、強くなっているところを見ると話しているところを見るときとは違う感情が湧いてくる。
真翔くんと一緒に修行をできなくて、成長できなくて二人を見るのが辛い。
これ以上二人を見ることができなくて俯いていると隣に土御門くんが腰を下ろした。
「ねえ月並さん。真翔と、何かあったよね」
まるで、全てを知っているかのような口ぶりで話しかける土御門くん。顔を上げ表情を見るとその顔はいつもの少し小馬鹿にしたような、からかうような素振りは1つもない。
私の心など何もかも見透かしたような土御門くん。余裕そうな彼に羨ましくなる。私にはそんな余裕を持てない。陰陽師としても、一人の人間としても。
「……少し、ね」
「来週から任務も始まるし、気軽に話せる時間は取れなくなるよ。今しかないからね」
「……分かってる」
頭の中では分かっている。もう話しをしないといけないと。
だけど今日、二人を見たことで今まで溜めてきた勇気はみるみるなくなっていて。元々活発的に自分から何か行動を起こす方じゃないし、どちらかと言えば迷惑をかけないようにひっそり生きて来た。学園でも、月並でも誰かの影に隠れて過ごす日々。だから自分から光に当たる生活は初めてで。どうすればいいか分からない。
真翔くんは私に、私だけの光をくれた。私にとって失いたくないもの。変えたくないもの。
だけど相手が瑞樹なら別。私は瑞樹に敵うところがひとつもないのだから。
「月並さんは、1組の月並瑞樹さんと合同任務ね。最初の内は仕事の見学から。同行する陰陽師の許可が出れば4級以下の妖程度だったら祓ってもいいよ」
「はい。分かりました」
「初任務は二日後の夕刻。正門で担当陰陽師と合流です」
先生に呼び出されて任務内容の書かれた書類を貰う。とうとう初任務がやってきた。
やはり瑞樹と合同任務で当主様の根回しは成功している。後は同行する陰陽師だがここの根回しも済んでいるだろうし特に心配することはない。
あとは嫌がらせで等級以上の任務が来ないかだけが心配だが、ここもそこまで懸念する所ではないだろう。気軽な気持ちではいけないが少し軽めの気持ちで初めての任務に挑むことにした。
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