第5話 ヒミコとシズク
そして、私ケタ3は無事地球に到着した。
祖先の日誌でしか知ることができなかった地球は紀元後2000年を過ぎヒミコの生まれた島は日本という国になっていた。
文明は進化し地球を多数の人工衛星が周回している。
私はヒミコの眠る前方後円墳に宇宙船では行けないと判断し、とりあえずメラ人が昔資源開発のために作った海底基地を目指した。
海底はまだ人類にとって未踏の地である。
座標の通り存在していた基地は1500年たっているとは思えないないほどしっかりしており、中に入るとほとんどの機器も作動した。
機器の調整と修理を終え、一息着いた時思いもよらない来訪者が現れた。
「私はカイザー星雲、カイザー惑星のシズクという者だ。カイザーは約1000年前に地球支部を作り調査を続けている。
以前からこの基地がどこの星のものか気になっていたのだが、ようやく主が現れたので会いたくてやってきた」
ここを見張っていたのか!
このまま無視すれば攻撃されるのか?
異星人と交流したことのない私は動揺した。
「勘違いしないでほしい。
危害を加えるつもりなどない。
会って話しをすれば君たちにも有益な情報が得られる」
「私はメラ星からやってきた。いきなり来た君の話しを信じる根拠がない」
「メラ人か!知っているぞ!
君たちは確か接触を好まない種だった。
メラ星が崩壊して移住したと聞いたが、また探索を始めたのか?」
なんと!カイザーはメラのことを知っている……。
それならメラもカイザーについてのデータを残しているかもしれない。
データはメラから仲間が持ち出したので、機器も作動したし時間さえあれば調べられる。
それを確認してから会うべきだと考え、到着したばかりなので後日改めてと返答した。
しかしシズクは挨拶をするだけで手間は取らせないと執拗に迫り交渉に不慣れな私は結局了承してしまった。
カイザー人のシズクは身長は私より頭一つ分高く、ほっそりとした体型で髪も皮膚も青白く目は深い緑だった。
長い腕を曲げ手のひらを胸にあて私を射るように見ている。
どうやらこれがカイザーの挨拶らしい。
私もメラの挨拶を返すと、基地の一室に案内した。
私は慎重に言葉を選びながら通訳機にマイクを向け
「まず、私から質問したい。あなたたちは1000年前にここに来たのか?」
「いや初めて来たのは地球でいう古代で、そこから度々来ている。今の海底基地を作ったのが1000年前なのだ。古代にカイザーや他星人が地上に作った基地は洪水や大陸移動で全て使い物にならなくなってしまった」
「そんなに多くの外星人がこの地球に来ているのか?」
「現在の地球に基地があるのは6星人だ。
それぞれ交流があり、情報交換している。だから君も加わって欲しい」
「私は1人で来たし、メラはあなたが知っての通り外交拒否してきた惑星だから提供できる情報などない」
「1人で?何か目的があるのか?」
「いや、あなた方や地球になんの影響もないことだ。
あなたこそ地球にいる目的はなんだ?」
「カイザー人は自分達に適合する惑星を見つけると基地を作り念入りに調査する。これはメラや他の星人も同じだろう。
ただここ最近の地球は環境悪化に加えて、戦争の危機も常にある。
もしこの地球に危害を与える事態が起こった
らどうするか、我ら外星人が地球連盟を結成して話し合っている。だから君もメラ代表として加わらないか?」
「何かするつもりなのか?」
「それは、メラが連盟に入ってくれれば話す」
とても気になる……。
いや、私はまず自分の目的を果たすまでだ。
失敗したら地球を去るのだから。
「私はまだ来たばかりでこの地球の事を何も知らない。落ち着くまで時間がほしい」
「どのくらい待てばいい?」
「地球時間で一年くれ」
「落ち着くだけにしてはずいぶん長いな……。まあ君の動向はこれからも注視させてもらう」
そう言い残しカイザー人シズクは帰った。
そうとなったらグズグスしていられない。
この基地でまず受精を成功させなければ一人で来た意味がない。
私は体調を整え、採取した自分の精子とヒミコの卵子を慎重に受精させた。
次にそれを子宮内環境装置に移して育つかが最初の難関だ。
三ヶ月、六ヶ月と順調に体が作られていく。
この子は内臓が2個ずつできている。
期待が膨らんできた。
十一ヶ月目、もう体が完全に出来上がり装置の取り出しOKのブザーが鳴った。
これからは私が育てなければならない。
育児書を読み漁り何度も手順を頭に叩き込んだ。
そっと取り出し抱き抱えると今まで感じたことのない感情が溢れ涙がでた。
しかし実際育児を始めるとその気持ちを味わう余裕などなくなった。
本は全く役に立たず、どうしたらよいかわからない。
いったいこの子は何故こう始終泣くのだ?
私の何が悪いのか?
ストレスと睡眠不足でヘトヘトになった。
一ヶ月たった頃あのカイザー人シズクがやってきた。
……そういえばもう一年だ。
あれからメラのデータを調べてみたが、
カイザーという惑星から交流を望まれたが拒否した
という記録以外何も情報は得られなかった。
今はまだ会えないと断ると
「そろそろ育児に悩んでいるのではないか?」
と言うではないか。
驚いた。監視されているのはわかっていたが、まさかここまで筒抜けだったとは。
「何が目的だ?」
「確かに君が何をするつもりなのかは見張らせてもらったが、まさか子育てとは思いもよらなかった。
このまま海底基地で育てるわけにはいかないだろう?手助けしよう」
「私はこの子と地球で暮らしたいだけなのだ。
決して貴方たちに迷惑などかけないから放っておいてもらえないか?」
「私が子供に危害を及ぼすのではと疑っているならカイザー人をみくびらないでほしい。
我々はこの宇宙の住人として科学技術を進化させながらも他の惑星と交流し同盟を結び宇宙連合を作りあげてきた。
メラは自己保身だけの惑星で我々にとって君達は興味の対象ではない」
「では、そんな取るに足らない私に何故関わろうとする?」
「ヒミコやタイシを知っているからだ」
「住み始めたのは1000年前でも、古代から度々来てはこの地球の進化を見てきた。
メラ人が紀元後の日本で交配を試み、あの2人を生み出したのは偉業だ。
先ほど興味の対象外と言ったが、カイザーはこの件は正当に評価している」
私は思いもよらないことを言われて戸惑った。
メラの歴史書ではこの宇宙の中でもメラのように種を継続している惑星は他にはない、どの惑星も科学技術が進化すると破滅に向かう。
だから外惑星と交流を持っても無意味だと記されていたのだ。
これは全て偽りだったのか?
あまりの驚きで思考は停止し、疲労感がどっと押し寄せ睡魔が襲ってきた。
ヒミコが横で泣いている。見てあげなくては……と思いながら身体が動かなくなりそのまま倒れ眠りに落ちた。
どのくらい寝てしまったのか?
ふと、目が覚めるとヒミコの泣き声はなく穏やかな空気だった。
かたわらでシズクがヒミコを抱いている!
「少しは疲れがとれたか?」
「どうやって入った?」
「ああ、実を言うとこの基地は昔調べさせてもらった。突然話しが途切れたので心配になってね。かなり疲労がたまってるようだな」
何から何までカイザーにしてやられている。
情けない……。
「君1人で子を育てるのは大変だ。私が手伝おう」
「いや、それは遠慮したい」
「もう、限界なのだろう?この子が大切ならば
プライドなど捨て助けを請え!」
結局、押し切られてしまった。
私はすっかり自信がなくなっていたのだ。
それからのシズクは素晴らしく有能だった。
ヒミコの世話はもちろん、日本で廃村になり残っている古民家を買い取るとそこに地下の基地を作り、小型の宇宙船が出入りできるようにした。
米良健太、氷見子、雫という偽の戸籍を作り役所に登録し日本人になりすましヒミコを育てる環境を手早く整え、海底基地からこの日本の基地に移動し3人の生活が始まった。
カイザー人は両性として生まれ性を選べば200年、選ばなければ500年の寿命で、シズクは私と暮らすようになり女性を選んだ。
カイザー人は髪も皮膚も目も爪も全てが青白い。
性を選ぶと女性は青みが減り白が増す。
性格は冷静沈着、これはカイザー人共通の性質で知的生物としてのレベルは高く惑星の進化はこの宇宙でもトップクラスである。
宇宙連合は今や300以上の惑星が加盟していて、その中心的な役割を担っているのがカイザーだとシズクから教えてもらった。
シズクと日本で暮らし始めたころ3つの惑星に移住したメラ人と連絡が取れなくなった。
最後に交信した時に体調のことを聞かれたが、私もヒミコができて余裕がなくあまり話せなかった。
シズクに助けてもらいようやく自分の時間が少しでき交信を再開した時はもう遅かったのである。
シズクに相談すると早速カイザー星に知らせ調査をしてくれた。
結果がわかるとシズクの白い顔が濃い青に変化してとんできた。
珍しい、このような取り乱すシズクは初めて見る。
「ケタ、君たちは移住する時にワクチンは打たなかったのか?」
「ワクチンは打ったはずだ」
「それは今現在の感染リスクを調べて打ったのか?」
「いや、昔のデータで打った」
「やはりな、君の仲間はそれが原因で新たな感染症にかかってしまった」
と言うと取り出したパッチを私の上腕に貼った。
「これは?」
「地球に住むにあたり外星人が予防しておかなければならないワクチンだ」
メラIIから脱出した純血メラ人は私以外全滅してしまった。
私も危ないところだったがシズクのおかげで生き延びたのである。
最初からシズクを受け入れていれば仲間を助けられたと思うと罪悪感で苦しんだ。
しかしシズクの存在が私を救ってくれた。
後にシズクはカイザー人地球支部の幹部で目的があり私に接近したと知るが、私はもうシズクを深く愛していたのである。
ヒミコは一歳になるとメラ語、カイザー語、英語日本語を話し色々な能力を発揮するようになっていた。
シズクを母、私ケタを父と思っている。
これからヒミコをどう育てていくか……。
この子がこの地球を変える存在になるかもしれない。
宇宙の片隅で誕生したメラという種が、選択ミスを重ねた結果私ケタ3で終わる。
航星日誌もこれが最後の巻となり、日誌はヒミコに託そうと思う。
読まずに破棄してもかまわない。
宇宙は限りなく永遠で我々の歴史など塵に等しいのだから。
ある宇宙人の誤算 @kinnikoushi
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