第4話 凡庸なる恐怖

 私はケタ、登録はケタ3。

ケタ2からしばらく男子が生まれず1500年ぶりに2人生まれ次男の私はケタをもらった。


 ケタ2の時代からこの惑星は大きく変化した。

そう、進化でなく変化なのだ。

今ノボルだけの純血種は絶滅し全てメラとの混血種となり、メラの純血種は全人口のわずか200人だけとなった。


 メラ人がノボルの惑星に移住してからの経緯をざっとお話ししよう。


メラの言葉と文字を覚えたノボルは、アカデミーとは別に祖先のケタ2が教育機関長となり設立したノボル専門科に希望すれば入学を許された。

ここはメラ人と共存するための一般教養を学ぶ場で、5年間学べば我々と社会生活が送れる。


 ノボルという種は、まるでメラを待っていたかのようだった。

我々を空から降ってきた偉大なメーラと崇め、まるで下僕のように接してくるのに、メラの技術には貪欲で怠け者どころか驚くほど熱心に学ぼうとする。


しかし、我々とて最初は警戒を怠ってはいなかった。

今まで種の存続を成し遂げてきたのは、この警戒心と防衛を国の最重要事項としてきたからだ。

ノボルに教育を与えるのはここまでで、メラ人の社会に入ってきても下働きしか選択肢はない。

嫌なら今まで通りの生活に戻ればよいだけだ。


ところが皆どんな仕事でも喜んでやり、もう森の生活に戻るノボルはいなかった。

そうしてメラ人と共に過ごしているうちに異変が起きた。

メラとノボルの間に恋愛感情が生じたのである。


我々は移住前の惑星調査で人工交配を試みていた。

これは、移住地の知的生物と混血子を作ることが目的でなく遺伝子が受け入れられるかを実験していたのだ。

受精不可ならば環境に適応できない可能性もあるからだ。

もちろん混血子ができたとして育つのか、どのような子ができるかもその後の課題として見ていかねばならない。

当然ノボルとも移住前に交配を試みると高確率で受精し、できた混血子も調べてみるとほぼノボルの身体構造だった。

これが移住地を決めた重要な因子の一つではあるが、だからといって実際に交配などおこりえないと思っていた。


メラ人は感情をあまり表に出さず恋愛が苦手で文明が進めば進むほど適齢期にAIで相手を見つけてもらう者が多くなった。

ところがあらゆる面から正確にAIが選び出した相手でも共に暮らすとうまくいかず半分以上が別れてしまう。

そのため出産率は低く、人口減少が問題になり種の存続のため、卵子凍結、精子提供が義務化され生まれた子は保育施設で専門家に大切に育てられ守られるようになった。


一方ノボルは陽気で優しく面倒見がとてもよい。

気質が頑固なメラ人同士ではうまくいかないのに、ノボルとはいつのまにかパートナーとなり仲睦まじく子供を産み育てるようになっていった。


混血子が増えてくると、この子達はメラアカデミーに入学が許された。


この時科学者が警鐘を鳴らした。

このままいけばメラの純血種が絶滅しさらに

科学技術の進化も止まってしまうのではないかと。


幸い義務化された卵子凍結と精子提供のおかげで純血は少数ながら維持されていたが、もう一つ思いもよらない事が起きた。

メラ人の身体構造の変化である。

純血なのに心臓が2つの子が生まれだし、身長も30センチ平均で伸び寿命は100年近く縮まった。

その原因として考えられるのは、大気の組成や気温の違い、そしてアホの実を食べるようになってしまったことだ。

メラ人は食は生きるためにとり、楽しむという習慣がなかった。

タッタ草はとても美味しいとはいえない味で、粉末にしてカプセル化したのだ。

しかし、アホの実は美味しかった。

この世にこんな美味しい物があるのかとメラ人は驚き、一度口にするとやめられなくなってしまった。

このアホの実を調べた結果栄養価は高いが中毒性があり睡眠によって解毒されることがわかった。

ノボルは消化する菌を生まれつき持っていて問題ないが、メラ人はないため食べると眠くなり解毒できるまで目覚めない。

しかし今さらタッタ草に戻すことはできず、科学者達の必死の研究で消化菌を開発しアホの実はメラ人にとっても完全に主食となった。



 それから混血種が圧倒的多数になり、マイスターも混血種が占めるようになった1500年後、

アカデミーの片隅の宇宙開発部に純血メラ人はいた。

アカデミーは宇宙開発や防衛を重要視せず予算は減り続けているが、メラ人には敬意を表してこの部は存続していた。

メラ人達は研究と宇宙探索を地道に続けていたが、もはや情熱を失い思うような結果は出せず進化は止まっていた。


 変わりゆく惑星を見ながらメラ人達は自問自答した

いったい我々はどこで誤ったのか?

ノボルに教育を与えたからか?

アホの実を食べたからか?

いや、そもそもこの惑星を選んてしまったことが誤りだったのでは?


自分達は優秀だと傲り高ぶり、いつのまにか

外来種のメラは在来種のノボルに操られてしまったのだ。


 そして出した結論はこの惑星を捨て新たな惑星に移住するということだった。


 この惑星はメラ人が移住したことによりノボルの原始的な生活から一気に文明が開花し、快適で平和な暮らしを手に入れた。

ノボルはもうこの生活にすっかり馴染み、メラ語や文字を使いこなし社会生活を送っている。

これは知的生物ならば当たり前の事で、昔を懐かしむことはあっても戻りたいとは思わないだろう。

しかしそれなら常により進化を求めて突き進むはずなのにノボルも混血種もこれで満足している。

メラ人にとって先を見据えることなく、進化の止まったこの凡庸な世界は恐怖でしかない。

今行動を起こさなければまもなく呑み込まれてしまう。


移住候補はいくつかあったが、今度こそ間違えるわけにはいかない。

よって一つに絞らず3つの惑星に移住を試みることを決めた。 

決行は1年後だ。

我々に興味のないこの惑星の凡庸な連中は、宇宙船ごと消えても心配や不安など感じることもないだろう。


私ケタ3は、ずっと考えていたことを実行しようとしていた。

皆と一緒には行かず、祖先が残してくれたヒミコの凍結卵子と共に1人だけ地球に行くのだ。

地球は移住候補ではない。

文明は進化したものの、環境は悪化している。

それでもヒミコが生まれた地球で試したいのだ。


 メラ人達は着々と準備を進め、決行日を待ち夜半静かに旅立った。

私ケタは直前に希望を伝えると、もし受精が失敗したら必ず合流するという誓約のもと許してもらい、1人だけで地球に向かった。




























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