第3話 移住

 私ケタ2はメラに戻ると、第二班移住チームに配属され惑星メラIIにやってきた。

メラは環境悪化が日に日に進み皆少しでも早く移住したかった。

私はイムの推薦もあって科学者として第二班に入ることができ幸運だったのだ。


 移住したメラIIと呼ぶこの惑星は誕生から推定

40億年、大気は安定し生物も発生している。海洋と陸地の割合は8対2で陸地は5万年前にこの惑星の真ん中に細長くまるで2等分するかのように盛り上がってできた。

最初に海洋で発生した生物の一つが進化をとげ陸地に上がり60万年前に二足歩行となり今の知的生物となった。

その後海洋では多種多様な生物が発生したが、このような知的生物は存在していないことは調査済みだ。


進化をとげた二足歩行の生物を我々は背が高いというメラ語でノボルと呼ぶことにした。

ノボルは地上1000メートルまで隆起した陸地で数を増やした。


ノボルは見かけは地球人と同様それほどメラ星人と変わらないが、身長が平均2メートルあった。

彼らの主食アホの実に手が届くように伸びたのだと推測される。

身体は心臓や他の臓器はひとつでどちらかというと地球人に近い構造だが、寿命は平均120歳だ。


陸地には微生物、昆虫、小動物は存在しているが

ノボルを脅かす肉食動物は発生しておらず、緯度は惑星のほぼ真ん中で一年中気温に変化がなく

アホの実は常に生り食料に困ることはない。

驚いたことにノボルは1000年以上たっても生活様式が変わってないし文明も進んでない。

言葉は地域によってまちまちだが、文字もできていなかった。

ノボルは一人一人勝手に暮らし、気に入った相手と性交し子供ができればアホの実を食べられる3歳になるまで二人で世話をする。

それを過ぎればまた元に戻り次の相手を探したり

一人でぶらぶら過ごす。

よほど知能が低いのかと彼らを調べたが、我々には及ばないが他の惑星の知的生物と変わらないレベルなのである。

のんびりとして欲がない性質に起因するものだと我々は結論着け、これが移住する惑星を選ぶ決め手の一つとなった。

彼らとなら干渉し合うことなく平和に暮らしていける。


 さて、第一陣はさっそく都市作りにとりかかった。

おおよその外観ができあがると、私達第二陣がそれを細かく作り上げていく。

我々が目をつけたのはアホの実が全く生えない地域だ。

大陸はつながっているが、ここだけ標高は少し低く異なる地形だった。土壌も酸性でアホの実はならない。

ノボルはここを終末の地のように恐れて近寄らなかった。

地盤や火山活動など念入りに調査し 問題なしと結論を出した我々は着手した。

都市の構想はこの地を中心として放射状に海上まで含めて都市を広げていく。

 

 インフラが整いメラ星人の移住が完了した頃からノボルがだんだんと近づいてきた。

彼らが終末と思っていた地にあっという間に美しい都市ができ驚いたのだろう。


一人のノボルがアホの実を抱えきれないほど持ち近づくとそれを手前に置き、何かつぶやいてひれ伏した。それを見ていたノボルも皆同時に平伏している。

多分我々を神のように思って貢ぎ物を捧げているようだ。


 メラとは青紫という意味で惑星の外観を表す。

メラ星人はこの宇宙で最も優秀な種と自負している。

我々は無欲、無神、無支配を信条に宇宙アカデミー惑星として進化をとげてきた。

その間、他の多くの惑星は文明が進化しても醜い権力争いを続けやがては滅びていった。

種の存続のため我々はこのノボルの惑星に移住はしたが、ノボルと争うつもりなどなく共存共栄を望んでいる。

ノボルが我々に近づきたいならば拒む理由はなく、メラ語を教えて欲しいという彼らを受け入れることにした。

すると噂を聞いたノボルが続々と集まってきて習い始めた。

彼らは意外にも瞬く間に言葉を覚え次に文字も教えるとこれもすぐに習得してしまった。

ノボルに誇りというものはないのだろうか?

今まで使っていた言葉など捨ててしまったかのようにノボル同志でもメラ語で話し、我々にもっと色々なことを教えて欲しいと願ってきた。


 メラはアカデミーのマイスターと呼ばれる35名の合議制を柱としている。

生まれると同時にアカデミーに登録され、5歳から入学し250歳までアカデミー生として過ごす。

その中で智者20名、賢人10名、大賢者5名が国民投票で選ばれマイスターとなる。

賢人は智者の二倍、大賢者は賢人の二倍の投票権を持ち、このマイスターの合議制で国としての方針を決めてきた。


マイスターはノボルと今後どう接するか意見が別れた。


「いくら共存しているとはいえこれ以上の教育は必要ない」


「ノボルは我らほどの知能はないので同じ教育は無理だ。ノボルのための施設を作るべき」


「初等教育だけ一緒に受けさせ、ついていけるか様子をみては」


意見はまとまらず、多数決で急きょノボルのための教育機関を設立することになり私ケタ2はその立ち上げの責任者となってしまった。

この就任によって再び地球に行くという密かな望みは絶たれた。

「タイシよ、すまない。父を許してくれ」


結局私はそれから生涯ノボルの教育機関長として過ごしたのだった。

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