第2話 ケタ2の航星日誌
私はケタ2
メラ星人の名について少し説明しよう。
メラ人は妊娠可能期間が短く、子供は多くても二人しか産めない。
名は2文字か3文字と決まっていて男は父と同じ名、女は母と同じ名をつけその後に数字を付ける決まりである。
数字はその名が何回使われているかを表していて、初回だけは数字をつけず2回目から名前2となる。
男2人が生まれた場合は長男は父の名、次男は新たな名をつけるか使用していない祖先の名から選ぶ。
女2人も同じである。
これらの決まりによって現存している全てのメラ人に同じ名の者は存在せず、血縁関係もわかりやすい。
凍結卵子や精子バンクを利用する際にもA Iがこれを元に候補を選び出してくれる。
私は次男で初代ケタの名をもらい、登録ではケタ2である。
初代ケタはメラでは多くの実績を残した偉大な科学者として知られていた。
メラでは名に意味はなく、いかに与えられた名を後世に残せるかが重んじられる。
よってケタのような祖先がいるとその名を使うのは名誉なことで、名をもらった私は当然のように科学者となり紀元後570年を過ぎたこの地球に派遣されていた。
ヒミコ以来交配は全て失敗し他の条件も難ありでもう移住候補からは外れていたが、メラにとって有用な資源は豊富で密かに採掘していたのである。
しかし予想より早いメラの環境悪化に伴い準備が整い次第移住を開始することになってしまった。
移住先は協議を重ねた結果メラから5億光年離れた惑星と決定された。
メラIIとなるこの惑星に都市作りを始めるため選ばれた専門家達が第一陣としてまず向かう。
第二陣からは名簿に乗った順に出発することになっている。
惑星探索を命じられた科学者達もまもなく帰還命令が出されるであろう。
私はもう地球にいられるのもわずかと思うと今まで抑えていた感情が疼き出した。
またヒミコのような子を作りたい……。
この地球チームのリーダー、イムに相談すると
「やってみるといい。これから我々は移住のために自由な研究はできなくなる。
今は最後のチャンスだ。
しかし精子はどうする?君はまだ適正年齢ではないぞ」
メラでいう適正年齢とは50〜60歳だが私はまだ46歳だった。。
「実験データを何度も見直したのですが、今まで成熟した精子を使い成功した例はヒミコのみ、それなら未熟な精子で試してみてはどうかと考えたのです」
地球のこの島国はヒミコの時と比べて文字も大陸から入ってきていて、組織の体系化ができつつあった。
もはやヒミコのような預言者ではなく天皇と呼ばれる者が国を動かしている。
私が狙いをつけたのはその天皇の配偶者だ。
もしヒミコのように優れた子ができれば、次のトップになれる可能性が高い。
そうなればこの国はますます発展するだろう。
そこで次に即位する用明天皇の皇后穴穂部間人皇女を拉致し意識を失わせ一連の作業を行い、着床を確認して寝所に戻し待った。
11ヶ月後地球人の産月よりは遅く失敗かとあきらめかけた時に生まれひとまず安堵した。
そして生後6ヶ月時にそっとこの赤子を盗み調べると、なんと男子で心臓は2つありヒミコとほぼ同じ身体構造だった。
この子はこれから成長できるのだろうか?
最初はスヤスヤ眠っていたこの赤子は途中から目を覚ますと泣くこともなくただ私をじっとみつめていた。
不思議な子だ……何か力を感じる。
それから7歳になるまで見守り続けたが、
知力、視力、聴力に長け大陸からの書物は全て読破し、いくつもの言葉を操れるようになっていた。
私とイムは彼の成長が楽しみであり活力となっていた。
そんな時ついに帰還命令が出てしまった。
タイシと呼ばれる彼をまだまだ見ていたいし、
危険からも守ってやりたい。
すでに権力争いが起こっているこの国では幼い彼も脅威となる存在であれば狙われる。
これほどの才を持つタイシをできるだけ長く生かさなければこの国の損失だ。
イムは
「心配せずともタイシはとても利発だから必ず生き残る、最後に別れを告げてきなさい」
と言って私を送り出した。
夜半寝所にそっと忍びこんだ。
タイシは寝ていたが、私が入ると同時に目を開いた。
「ずっと来てくれるのを待っていたぞ」
「私を覚えているのか?」
「赤子の時のこと、覚えている。
それから高熱をだして死にそうになった時も助けてくれたではないか」
「君は私が作った。君の成長が楽しみでいつも見ていた。
私は遥か未来の世界にいるのだが、そこに帰ることになり最後に君に会いにきたのだよ」
「ではもう会えぬのか?」
「ああ、残念だ。君は私の話しを信じてくれるのか?」
「もちろんだ」
「私を恨まないのか」
「何故恨む?我は人ができないことが普通にできる。
そなたのおかげだ」
「君は無限の可能性がある。命を大事にして
この国のために尽くしてくれ」
「我もやりたい事が沢山ある。ただ誰も相談する者がいない。そなたに聞いて欲しかった」
私は未来の世界についての話しをし始めた。
タイシはじっと聞き入り時に質問し朝を迎えた。
「タイシ、君は信じる道を突き進め」
それだけ言うと私はタイシの前から消えて宇宙船に戻った。
数日後イムは皆を集め
「これからメラに帰還する。チームはこれで解散となり次の配属先はすぐ発表されるだろう。 皆今までよくやってくれた、感謝する」
こうして私はメラに帰った。
タイシのその後をもう知ることはできない。
でもきっと何かを成し遂げてくれると信じている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます