ある宇宙人の誤算
@kinnikoushi
第1話 ケタの航星日誌
私は地球から3億光年離れた惑星メラからやってきた。
惑星メラが誕生したのは地球より75億年前で大きさは地球の10分の1、大気の組成は酸素の比率が23%と少し高いがあとはほぼ地球と同じだ。
我々の外見は身長が平均130センチという以外は地球人と変わりなく見えるが、身体構造が大きく違う。
メラ人は臓器の数が3つずつあり寿命は人間で言うと300歳以上ある。
生殖可能な時期は男女共に50歳から60歳と短く、それを過ぎると中性に身体が変化していく。
そのため、1000年前までは人口減少が深刻であったが、卵子凍結、顕微受精、子宮環境保育器が発明されてからはそれも解決した。
食事に関してはメラ人が生きていくのに必要な全ての栄養を含んでいるタッタ草を発見してからは
AI管理による生産工場で安定供給されている。
皆1日5〜6回タッタ草のカプセルを携帯し空腹を感じた時に飲む。
遺伝子操作など医療技術の進歩や食事の統一化により病気で亡くなる確率は0.1%まで低下している。
そして知能は非常に高く、地球よりもはるかに早く科学技術は進み宇宙に進出してメラの環境と似た惑星を探す事ができた。
メラ人は他の惑星を侵略する意思などなく、交流さえも嫌う種であった。
しかし、メラの恒星スーの寿命が迫ってくると
そのままメラと共に滅びるという選択はできなかった。
これまでに移住可能な惑星を調査し、候補を20の惑星に絞り選ばれた科学者チームがそれぞれに派遣された。
そして私ケタは科学者チームのリーダーとしてここ地球にやって来たのである。
この時地球は紀元後140年の時代で、世界各地に文明社会ができつつあった。
私は実験を行うにはちょうどよい小さな島国を選び、宇宙船を森の中に着陸させバリアをはった。
この地はまだ文字は存在せず、各地で小競り合いをしながら暮らす民族である。
早速10人の妊娠可能な女を拉致し、意識を失わせたままにする。
排卵誘発剤を投与し採取した卵子にメラ人の精子を注入し受精を試みたが、成功したのは2人だけであった。
その受精卵を2人の子宮に戻して着床したのを確認して10人まとめて集落の中にそっと返す。
女達は自分になにがおこったかはわからないまま
住処に戻った。
そして2人の住処には監視カメラを設置して自然分娩で生まれるのを待つ。
結果1人は生まれるまでにいたらず流れたが、1人は無事に生まれた。
この子が生まれた時はチーム一同歓喜した。
研究というものは忍耐強く積み重ねていくしかない。
それが最初の実験で一例でも成功したことは奇跡と言っていいだろう。
再度母親と赤ん坊を夜中にそっと拉致し、この赤ん坊の身体構造を調べた。
女児で心臓は2個、あとは地球とメラが混合した身体であった。
翌朝には住処に戻し、これからは成長の過程を観察していく。
同時にまた同じ実験と新たに男性を拉致し精子をとってメラ人の卵子と顕微授精させることを試みた。
しかし、これは全て失敗に終わった。
これだけの数ではまだはっきりしたないが、仮説としてあげられるのは地球のある特定の卵子とメラ精子が組み合わせとしてよいのではないか。
これからさらに実験を重ねて検証していこう。
さて、奇跡の女児は成長とともに驚くべき能力を発揮しはじめた。
1歳で大人のように話し始めると3歳の頃には神が授けた子ヒミコと呼ばれ名が広まっていた。
ヒミコは周りの状況を判断し的確な助言をすることによって、やがて各地の長達の頂点に君臨するようになっていた。
しかし我々の予想外だったのは、ヒミコは男と交わってはいけない神聖な象徴になってしまったことだ。
これではヒミコの子は望めない。
協議の結果ヒミコに真実を明かそうということになった。
夜半に再び拉致したヒミコは冷静で臆することなく宇宙船の中を見回している。
正直に目的をAI変換で話し、さらに
「もし君がここが心地良いと感じたなら好きなだけいてもかまわない。君も我々の大事な仲間だ」
と提案した。
メラにとってもヒミコは大事な検体だ。
「ひとつ聞きたい。我が地もこのような未来がくるのか?」
「間違った方向に行かなければ到達する」
「間違った方向とは?」
「争いでこの地を汚してしまうことだ」
「なんと!己の大地を汚すのか?」
「ああ、そうだ。それで滅びた惑星をいくつも見てきた」
「それなら我はやはり帰らなければならない。
我が生きている間だけでも正しい方に導きたい」
一同感動した。なんと気高い子なのか。
「君を誇りに思う。帰っても我々が見守っていることを忘れないでくれ」
そしてヒミコは
「我の子がこの地をまた導いてくれるならこんな嬉しいことはない」
と言って卵子の提供も快く承諾してくれた。
それからヒミコは再び預言者として君臨し70年の人生を終えた。
70年という寿命は私の予想外だった。
色々な要因が寿命を縮めたのか?
ヒミコを失った私は呆然とした。
しかし悲しんでいる場合ではない。
「ヒミコよ、ありがとう。
君の子孫は必ず残してみせる」
亡骸はヒミコの遺言でこの宇宙船が降りた森に埋葬されることとなり、我々はヒミコの意思を汲んで移動した。
ヒミコが眠る墓はそのまま宇宙船の形の墓、後に前方後円墳と呼ばれるようになった。
その後も実験を重ねデータを取り続けたが、やはりヒミコのような子はできなかった。
着床し出産までいっても、育たないのである。
こうしているうちに私の寿命もあとわずかになり
残念だがここで退くこととなった。
今までの全ての実験データと共にこの航星日誌を後進に託す。
ヒミコの思いを必ず成し遂げて欲しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます