第14話 嵐の夜


 日が落ち、真っ暗な砂漠。

金の髪の少年が、何気なく外へ出て、ぼうっと輝く星を見つめていた。


『根性無しなので、少しだけ、時間をください。近いうちに、必ずお話します』


 少し前にオスカーがルナに言った、あの言葉を思い出す。


(やっぱり、ルナさんの前で格好つけるのは難しいな)


 困ったように眉を下げる表情も、絵になる顔。

さらさらと、風になびく金の髪。優しく、淡い緑の瞳。


(今度こそ、伝えるんだ)


 オスカーはあることを決意し、自分のテントへと戻ろうとした、その瞬間――!


バチンッ‼️‼️




 静かな寝息だけが聞こえる、テントの中。

一人、「うう」とうめき声を上げた。――黒髪の少女だ。


 ――ナカマガ、トオクヘ イッテシマウ。

ウゴケ、ワタシノ カラダ。オネガイ、ウゴイテ――!


 ハッと、黒髪の少女が目を覚ます。全身に汗をかいていて、息が荒い。

そして、呼吸を整え、ゆっくりと顔を上げる。


「!……オスカー‼️」


 バッとテントの外へ出ると、少し遠くの場所で、金色の髪の少年が倒れていた。

しかも、その周りに鎧を着た兵士十人ほどの内一人が、オスカーの前に立ちはだかっている。


「っ……‼️‼️」


 全身に、鳥肌が立つ。

何が起こったか、全てはわからない。だが、これだけは確かだ。


 ――あの鎧を着た兵士たちが、オスカーに何をしたということは。


 からだが、沸騰ふっとうしているかのように熱い。


(私には力がない。どうすれば……!)


 ふっと一つ。思い当たった。

ルナが……ルナだけにしかできない力。


(一瞬にかける、爆発的な力。左目の、色を変える)


 自分の意志で、力を、引き出す。


(私は――今、オスカーを。仲間を、助けたい!)


ズズ……


 ルナの左目が、夜空のような紫から、大地の茶色へ。


「大地よ! この世界のいしずえよ、悪しき者へ怒りの叫びを!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………


 地面が、大きく揺れた。


「うわっ! なんだ!?」


 兵士たちが、大きな揺れに驚き、怯む。

一方ルナは、平然とした顔つきでオスカーのもとへとゆっくりすすむ。


 そして、オスカーのそばへとたどり着いた。

きれいな瞳を閉ざしてしまっている顔は、悲しいくらいに美しい。


「な、何だお前っ……!」


 兵士に声をかけられた瞬間、より一層揺れが増す。


「何……それはこっちの台詞だよ。私の大事な仲間に何をしたの――!」


 キッと兵士たちを睨みつける。

そして、また揺れを強くしようとした、その時――。


「……ナっ!…………ルナ!」


 ハッと声がした方を向く。


「ア……ル?」


 ふっと、瞳の色が戻った。

すると、急に激しいめまいと咳に襲われた。


「ゴホッ! …………か……ハッ」


(息が……苦しい!)


「ルナ!」


 アルが倒れこんだルナと、気絶しているオスカーを見て、必死に走ってくる。


「まさか……これは、か――?」


(呪われた種族……? 一体、なんの――?)


「この……ガキッ!」


 兵士の一人が、般若はんにゃのような顔でスラッと剣を抜く。

アルは、まだ来ない。


(だめ……この距離じゃっ、間に合わない……!)


 ルナは咳をしながら、オスカーをかばうように抱きしめる。


(だめ……ダメ!)


 兵士が剣を振り下ろした、その瞬間。


「――待て」


 ピ、とルナの首元で刃先がとまった。


「この娘が呪われた種族の生き残りなら、殺すのはもったいない。とりあえず、クリストファー様を捕獲するのが優先だ」


 兵士の一人が、そう言う。

ルナに剣を向けた兵士はチッと舌打ちして、剣を収める。


(あ……目眩が)


 ルナの世界が、ぐにゃりと揺れる。


「~~っ」


(倒れてる場合じゃない! 立って、オスカーを守らなくちゃ……!)


 揺れる世界で、なんとか立ち上がろうと力を入れる。

だが、体は言うことを聞かない。


「クリストファー様を捕まえろ」


ドンッ


 兵士の一人が、ルナを突き飛ばす。


(また、あの力を……瞳の色を、変えて……)



 ……できない。



 体に、力が入らない。

いつもだったら、力が湧き上がってくる。はずなのに……。


(視界が、黒く……)


 意識を失う、直前。


「「「「大地よ! ――」」」」


 誰か……大勢が、一斉に呪文を唱えている声を、聞いた気がした。



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☆ここまで読んでくださってありがとうございます!♡や、やさしい感想等お聞かせ願えるとうれしいです!SANA✿☆

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