さらなる秘密へ。

第13話 嵐の前兆


「あっつ〜い!」


 砂漠の燦々さんさんと照りつける太陽が、影をよりいっそう濃くする。


 この黒髪の少女はルナレイン・アルファ。通称ルナ。

この世界では誰でも持っているはずの魔力がなく、魔法を扱えないが元気でまっすぐな女の子である。


「暑すぎる! アル、魔法で荷馬車の中だけでもどうにかできないの!?」


「俺はそもそも魔法が苦手なんだよ!」


 苛立ったような声をあげたのはアルフレッド・ディーラ。通称アル。

剣術が得意で、ぶっきらぼうだがたまに優しく、平和を乱すものが大嫌いな男の子である。


「しかも、この砂漠だと魔法で集められる力は少ないと思いますよ」


 にこにこと敬語で話すのはオスカー・レファール。

剣術と魔法、両方を使いこなす、心優しく、まさに文武両道な男の子である。


「あ、僕空気が涼しくなる魔法知ってるよぉ!よかったらやるぅ?」


「そうなのか!? すっげーな!」


「私も知っているので、お手伝いします」


 のんびりと話すのはコルン・ダンテ。

マイペースだが少しミステリアスなところもある男の子である。


 続いて大きな声で話すのはレオナルド・ジーン。

元気で燃えるような赤毛の男の子である。


 そして、銀の髪を揺らしながら微笑むのはレイナ・ドルチェ。

最近仲間になった、大人しく穏やかな女の子である。


 ここにいる者たちは、世界中の人々を幸せにするためにフィオレン王国を周るフィオレン劇団の団員である。

 。だが、


「キャァーッ!」

「盗賊だ!」


「ははっ! これは頂いていくぜ!」


 馬に乗った男が、通りすがりの親子の荷馬車の荷物を奪う。


「風よ! 我に集え! 怒りの嵐よ、雷の矢と共に、闇を断ち切れ!」


ザンッ!


ヒヒーン!


「うわぁっ‼️‼️」


 落雷と突風に驚き、盗賊が馬から落ちる。


「ってて……!」


 ピ、と首に刃が向けられる。


「死ぬか、荷物をおいていくか、選べ。……そして、こんな事は二度とするな」


 表は劇団、裏では世直し集団。それが、フィオレン劇団の正体。


「わ、わかった。荷物はおいていくっ! もうしないっ!」


 そう言うと、盗賊は馬に乗って逃げていった。

アルははぁっとため息をついて、剣を鞘に納める。


「まったく、こんなに弱い盗賊は久々だったな」

「さっすがアル!」

「レイナさんも魔法、すごかったです」

「なんにもなくてよかったねぇ」


 あはは、と笑い合う。

すると、さっきの親子が話しかけてきた。


「ありがとうございます! 荷物もほとんど奪われなかったし……なんとお礼を言ったらいいか」


「いえいえ、何も盗まれなくてよかったです。――では」


 そして、その親子を見送った後、また砂漠の道を歩き出す。


「うーん……」


 するとルナが、自分の髪の毛を触りながらうなる。


「どうしたのですか? ルナ」


「なんか、暑いし髪の毛切るか、結ぶかどっちにしようかなぁって」


 「暑さを取るか、オシャレを取るか……」と首をひねるルナ。


「長くするほうが素敵だと思いますよ、俺は」


 オスカーが会話に入る。


「オスカー様っ」


 レイナの頬が朱に染まった。


(レイナはオスカーが好きだからなぁ。かわいい)


 ルナがクスッと笑う。


「――ねぇ、アルはどう思うー?」


 何気なく、剣の手入れをしているアルに聞いた。

「んー」と言いながら、一瞬こっちを向く。


「なんでもいーんじゃねーの?」


「それ、一番困るやつ!」


「じゃあ、結ぶ方」


 そう言ってすぐに視線を剣へと戻す。


「そっか……でもどこで結ぼうかなぁ」


「ハーフアップとかがいいのでは?」


 レイナがニコニコと答える。聞き慣れない単語にルナは首をひねった。


「はーふあっぷ?」


「髪の毛の上半分だけ結ぶことです。やりましょうか?」


「あ、ありがとう!」


 髪の毛をくしでとかされながら、ルナが「はぁーっ」と長い溜息をつく。


「もーちょっとオシャレとかしたいなぁ。ワンピースとかほしい!」


「――そういえばそろそろルナの誕生日だな」

「そうですね。八月ですもんね」

「へぇー……ってそうなの!?」


 レオとコルンが同時に驚く。


「今年で……十五歳、だったかな」

「俺と同じ年になるんですよね」


「??……ちょっとまって、いったんみんなの年教えて!」


 レオが混乱しそうな頭を必死に整理する。


「私は十四歳」

「俺も十四」

「俺は十五歳です」

「私は十三歳です」

「僕は十二歳だよぉ」


「……で俺は十三歳…………」


 一瞬の沈黙。


「いやめっちゃ差がある!」


「まぁ、なんとなくそんな感じはしてたけど」

「最大でコルンさんとオスカー様が三つ差ですね」


 ショックを受けているレオを隣に、ルナとレイナはあはは、とのんびり笑う。


「――はい、できました!」


「「「おお~!」」」


 レイナを除く全員が、おどろいた声を上げた。


「すごい! かわいい!」


 特にルナが嬉しそうに口元をほころばせた。


「本当はつむじの下で結ぶのですが、横で結んだほうがルナらしいと思ったんです」


 少し照れたようにレイナが微笑む。


「凄く似合っています。ルナさん」


「あはは、ありがとう」


 思わず顔を赤くするルナ。


「そういえばここ、クレイズ地方にはオアシスがあるそうですね。……たしかコルンは大地を司るチジン族と火を司るクレナ族のハーフと聞いたのですが、オアシスは見たことがあるんですか?」


「うん! そうだよぉ。オアシスは……本当に小さい時に一度だけ。でも、しっかり覚えてるよ!」


 コルンは思い出そうと瞳を閉じる。


「水がとってもキレイで……フルーツとか、植物がとってもキラキラしてるんだぁっ!」


「へぇ~! 行ってみたいなぁ」


 ふふ、と笑顔を浮かべながら空を見上げるルナ。



  *  *



「……近い内にお迎えにあがります。クリストファー様――」


 この時、ルナ達は気づかなかった。

砂漠に溶けてしまったこの一言から、末恐ろしい未来が生まれていくことに。



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☆ここまで読んでくださってありがとうございます!♡や、やさしい感想等お聞かせ願えるとうれしいです!SANA✿☆

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