第12話 進め! 幸せを呼ぶフィオレン劇団

 村の人達の催眠もとけて、数え切れないほどの御礼の言葉を貰った。

そして、いつもの通り劇の準備をしていたときのこと。


「今回の劇は……恋愛もの!?」


 ルナが青ざめた顔で台本を握りしめる。


「う、うそ……私、恋愛もの一番苦手なのに……!」


「え、そうなのですか?」


 今回の劇に特別参加するレイナが驚く。


「俺達から見るととても上手に見えますけど……」

「ある意味一番得意そうだが――」


「でも嫌いなの!」


 ぷぅ、と頬を膨らますルナ。


「でもやるしかないんだよ? それとも、不参加で行くかい?」


 ハルヴィ団長が少し意地悪な笑みを浮かべる。


「そ、そんな事言ってない!」


 ルナは顔を真っ赤にして訴え、各自練習に入った。


(えーっと。私の役は……双子の王子かぁ。たまにあるんだよなぁ、男女逆転してる劇)


「……!?」


 役者分担のページを見ると、姫役の欄にとても意外な人物の名前が書いてあった。


 金色の美しい髪を持つ心優しい姫役は、笑顔のまま凍りついていた……。



   *  *



「”私は、あなたと一緒にいたい。……共に人生を生きる、唯一無二のパートナーになってくれませんか――?”」


 ニコッと笑みを作るルナ。

それを見たレイナが、ほぅ、とため息をついた。


「本当にルナは演技が上手なのですね……! すごいです!」

「そうでもないよ。好きだからやってるだけ」


「ルナさん、レイナさん、すこしいいですか?」


 ニコニコとレイナとルナが笑い合う。その時、ちょうどオスカーが二人に話しかけた。


「お二人に練習に付き合ってほしいのですが……だめですかね?」


「だめじゃないよ! やろう!」

「は、はい。私で良ければ……」


 少し元気のないオスカー。


(まぁ、当たり前っていうか……。男の子なのに姫役やれって言われたら、そりゃ嫌だよね)


 そう思いながら、台本を見る。


 魔物に襲われたフィリア姫(オスカー)を、双子王子の一人、アーサー(ルナ)が助けるシーン。


(ここ、フィリア姫をかばうところって、抱き合うみたいになるんじゃ……)


 自分が赤くなったのがわかって、ぶんぶんと考えたことを忘れようとする。

そして、リハーサルに入った。


「”あぶない!”」


 王子役のルナが、姫役のオスカーを後ろにし、魔物に斬りかかる。

だが、オスカーの背後にもう一体の魔物が迫っていた。


「”きゃぁっ!”」


「!」


 ぐいっとオスカーを腕を引っ張り、魔物を切る。


「わっ」


 オスカーは引っ張られた反動でよろめき、ルナの体に当たる。


「……っ!」


 顔が真っ赤になった瞬間、低い大人の声がわって入った。


「ハイストップ」


 声の主は、ハルヴィ団長だった。


「……君たち、ちょっと体あたったくらいで赤くならないでね。見てる方から赤くなったのモロバレだったよ?」


「あ、赤くないもん! ねっ!? オス――」


 オスカーの方へと目線を移すと、彼は片手で顔を隠していた。ほんのりと、耳が赤い。

ハッとしたようにルナの方を向き、うなづく。


「そ、そうですね」


 まだ、オスカーの顔が赤い。


(……もしかして、オスカーって――)



 いや、そんなわけがない。そう、思いたい。



「ちょっと休憩する! つかれちゃった」


 ルナはそう言って、荷馬車へと向かった。


「……ふぅ」


(練習に集中しなくちゃ。……集中、集中――)


 ガタンッ


 そう心に念じていると、物音がした。


「ルナ、大丈夫か?」


「大丈夫だよ」


 外から荷馬車に入ってきたのは、心配そうな顔のアルだった。


「飲め」


 ぶっきらぼうに飲み物を手渡される。


「ありがと」


 ルナは飲み物のキャップをとり、喉を潤す。

すると、アルがあからさまにホッとした表情になった。


「……どうしたの?」


「いや。ルナは集中できないときとか演技がうまくいかないときとかって、無茶したりするからな。一回それでぶっ倒れたことあっただろ?」


 ああ、と思い当たる。


(幼い頃。夏の暑い日に、演技がうまくできなくて、イライラして……もうむちゃくちゃにやりまくったら、熱中症になって倒れたことがあったっけ)


「っていうか、なんで集中してないのわかったの?」


「……わかんねー」


 二人でぷっと吹き出す。


「わかんないのになんで来たんだろうね?」


「なんとなくだよ」


 ふふ、と笑い合う。



 ……こんな日が、いつまでも続けばいいのに。



 そう、思う。


 そして、翌日。

フィオレン劇団の劇が、始まる。


「”はじめまして、私はアーサー。よろしく”」

「”私はフィリアと申します”」


「”あぶない!”」


「”あなたのことが好きです。共に人生を歩む、パートナーになっていただけませんか?”」

「”――はい……!”」



 心が、気持ちが、つながる。

成功させたい、楽しませたい、楽しみたい。――皆を、幸せにしたい。


 一つ生まれて、一つ生まれる。


 ――何が?


 幸せが、生まれる。


 ワァァァァァァァ‼️‼️


 響き渡る歓声。笑い合う声。


「私っ、こんな楽しい気持ちになったのは、久しぶりですっ」

「やりましたね!」

「もっとやりたい!」

「よかったねぇ」


「ルナっ!」


 笑い合って、抱き合って。



 生まれる、私達だけの幸せが。


 幸せを感じるのは、言葉に出来ないほど気持ちがいい。


 さあ、これからも進もう。

私達、フィオレン劇団の目標は、世界中の人を幸せにすること。



 ――進め! 幸せを呼ぶ、フィオレン劇団よ!


 


  *  *



劇が終わった後――。

ルナは一人、リランガの村の近くの草原へ足を運んだ。


外はもう真っ暗で、空にある満月と星たちがキラキラと輝いている。


「……アル。オスカー」


満月の下で二人、並んで座っているアルとオスカーに、声をかけた。

すると二人は息ぴったりで、


「「こっち来いよ(来ますか?)」」


って言ってくれる。


「うん!」


ルナは嬉しそうに頬を染め、満面の笑みを浮かべた。

二人の間に座って、夜空を見上げる。


「今日は楽しかったね~」

「はい。でも、俺はもう女役は勘弁ですよ」

「その割にはハマってたけどな」


何気ない話をして、笑って。

ルナはふと、遠くを見て話し始めた。


「劇って……すごいよね。

 みんなで協力して、一つの目標に向かって頑張るんだよ? 練習とかきつかったり、大変なことが多い。しかも、たった一回の本番のために時間を使って。でも、それ以上に……その一回が最高に楽しいんだよねっ!」


月と星空の下で屈託くったくなく笑うルナは、間違いなく人を引き付ける力を持っている。

ルナの笑顔が、周りを幸せにしていく。



さあ、今日も前を向こう。

光り輝く、朝日に向かって――。



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☆ここまで読んでくださってありがとうございます!♡や、やさしい感想等お聞かせ願えるとうれしいです!SANA✿☆

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