第3話 私は、何者? 後編

 三日後。ヒューレムが目を覚ました。

 魔物に操られていたため、魔力不足で倒れてベットで休んでいたところ……。


「今まで、本当に申し訳ありませんでした」


 ヒューレムは、深々と頭を下げた。


「いえいえ! 大丈夫です! お願いします! 頭を上げてくださーい!!」

「本当に申し訳ありません……」


 アワアワと叫ぶルナと、下げた頭をもっと下げるヒューレム。


「けっこう、おもしろい光景かも……」


 レオが吹き出しそうなのを必死でこらえている。


「レオ、笑わないでください。これはすべき謝罪なのですよ」

「し、しなくていいです! いや、したほうがいいかもしれませんが、しなくていいです!」


 ……そんなことを言い合いながら、時間はあっという間に過ぎ去った。


 一件落着した翌日、ゲイルタウンで劇をすることを決め、準備をしていた。


「えっと、今回は友情と冒険の話なんだね! いい話!」


 主人公とその親友が、力を合わせて悪い魔女を倒す物語。

ケンカをしてもすぐに仲直りして、戦う時は助け合って、息ぴったりの……そう、相棒のような存在だ。


 コルンとレオが顔を真っ赤にして台本を見つめる。


「この話……もしかして俺たちが題材……!?」

「そうだよ、主人公役も二人にやってもらうからね?」


「やると言ったならやらなくちゃな」と絶対無敵の笑みを浮かべたハルヴィ団長。


 ちなみにルナは脇役で占い師。


(脇役でも全力で頑張るぞーっ!)


「さ、練習を始めるよ」


 練習を始めた三十分後、新人の二人はすぐにバテて倒れていた。

やっとの休憩時間。ルナは一人で休憩時間にも関わらず練習していた。


「貴方は……希望の……月の道、切り開く」


 ブツブツとセリフを呟くルナ。


「休め」


 アルがふわっとタオルを肩にのせてくれた。


「ありがと、でも大丈夫だよ!」


 ニコッと笑う。

 すると、アルはギュッと眉をよせた。


「大丈夫、じゃないだろ。元気もないし」


「えっ……」


 休んでいたレオやコルン、オスカーが目を丸くした。


「いやいやいや、どこから見ても元気でしょ?」

「……だいたい、ルナが元気ない時はとにかく”大丈夫”っていうんだよな」

「……え?」


 キッとルナを睨むアル。


(そう、なのかな?)


「……私、元気ないの?」


「無自覚かよ……」


 さっきと変わらず、アルは厳しい顔をしてる。


「……でも、もう、本当に大丈夫だから。ね?」


 ルナは安心させるようにニコッと笑った。

するとアルは、大きなため息をついて他の団員の方へ行ってしまった。


「大丈夫、ですか……?」

「大丈夫だって」


 アルからもらったタオルをオスカーに渡し、ルナはそのまま練習に戻っていった。


「……オスカー。僕から見たら、ルナはとても元気に見えるんだけど……違うの?」


 コルンが尋ねる。


「俺も、気づいていませんでした」


どこか悔しげに答えたオスカー。


「彼は人の変化に気づくのがうまいですね。

 ……特に、ルナさんのことになると」


 とても、とても小さな声で、ぽつり、と呟いた。



*****  *****



 フィオレン劇団公演日、当日。


「き、緊張してきた……」


 外をチラチラ見ながら、うろうろと周りを歩く主役たち。


「ダイジョーブだよ。私も最初は緊張したけど、やってみたらそんな不安、忘れちゃうから!」


 メイクをしながら明るく喋るルナ。


「それはそうと……」


 みんながこっちに視線をむけてくる。


「ルナは大丈夫なの?」

「え、大丈夫だけど……どういう意味の大丈夫?」


 無意識に目線をそらし、メイクの続きをする。


「……えっと、ほら!昨日アルに元気ないんじゃないかって言われてたから、本当に大丈夫なのかなって」


(……)


 はぁっと大きなため息をついてみんなの目を見た。


「あのね、何回私に”大丈夫”って言わせるつもり?

 わ・た・し・は・だ・い・じょ・う・ぶ・な・の!」


 怒ったような素振りを見せたけど、もう一度、小さなため息をついた。


「……でも、心配してくれて、ありがと」


 優しい笑み。それは、昔から一緒にいるアルやオスカーでも、見たことのない表情かおだった。でもすぐに、いつものルナに戻った。


「……さ!行こう」


 新しい仲間とともに、舞台へと駆け出した。


『あなた達が魔女を倒すという結果が出ています。月の道……固い絆が未来を切り開くでしょう』


 主人公とすれ違った占い師が、独りごとを呟いた。

場面が移り変わった。


『魔女め……!』


『絆など、壊れるのは一瞬だ。絆など、いらない……!』


 レオとコルンが魔女を切る。


『オレたちの絆は、絶対に切れない!』

『俺たちとお前は違うんだ!』


 ワアァァァァァ!

 歓声が響く。


『私達フィオレン劇団は、みんなが幸せになってほしいという願いから結成されました』


『……貴方は、今を幸せに過ごしていますか?』


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☆ここまで読んでくださってありがとうございます!♡や、やさしい感想等お聞かせ願えるとうれしいです!SANA✿☆

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