第4話 フィレーナ港
「海だぁ~~っ!」
イグニア地方を移動し、水を司るミズキ族の発祥地、レイヴェル地方のフィレーナ港に向かっている。レイヴェル地方には守護龍が存在し、漁が盛んな場所である。
「守護龍って種族とかあるんだっけ?」
「僕達の魔法の力と同じく、火、水、風、地、雷、の種族があるねぇ。ここはレイヴェル地方。水を司るミズキ族と相性がいいのは、やっぱり水龍なのかなぁ?」
オスカーが説明してくれる。
「水龍か、見てみたいね!」
「うん、僕も水龍を見てみたい」
ニコニコと仲良さげに話すルナとコルン。
「知ってる? 最近人魚を目撃したっていう人が何人もいるらしいんだ。しかも、全部レイヴェル地方の海につながる川なんだって!」
レオがひょこっと顔を出した。
「人魚……イリス・ウェーデル、でしょうか」
「なんだ、それ?」
アルも珍しく話に加わる。
「イリス・ウェーデルは、上半身が人間、下半身が魚……そう、人魚の形をしています。ですが、イリス・ウェーデルに気に入られた者は海へ連れて行かれるという言い伝えがあります。人間に化けたり魅了の魔法を使っておびき寄せたりと……愛情が重いぶんだけ、恐ろしい魔物なんだとか」
「すごいな。城下町から来たって聞いたけど、そこまで知ってるやつもなかなかいないと思う」
レオが感心した目でオスカーをみる。
「そういえば、はじめてあったときも本を持ち歩いてたよね。1日で今の親指くらいの厚さの本読んでさ」
「お、親指…!」
レオとコルンが自分の親指を観察して目を丸くする。
「……あ! そういえば三人が出会う前のこと、聞きたい!」
コルンはワクワクした様子でルナに聞いた。
「ええっ?!」
ルナが声をあげる。
「今、それは言わなくていいことだろう」
アルが真剣な表情で言い出したレオを見る。
「アル! 別にいいよ! 大丈夫だから!」
「……もしかして、あんまりいい思い出がないの?」
コルンが心配そうに訪ねる。
「ううん、そういうわけじゃないんだけど……」
珍しくルナは歯切れの悪い返事を返した。
「えっと……覚えてないんだよね。アルと出会う前のこと」
「記憶喪失ってこと?!」
「まあ……そういうことになるね。アルとはじめてあったのは五才か六才だったし。その前の記憶はないから」
苦笑いを浮かべるルナ。
「あ。でもオスカーと会ったのは十歳だったし、オスカーと会う前のことなら……」
「「聞かせて!」」
「俺も聞きたいです、あまり聞いたことはなかったので」
即答する三人。アルは小さなため息をついた。
「えーっと……」
頭のなかで昔のことを思い出す。
(毎日アルと手をつないで城下町探検して、仕事の手伝いとかしてて、夜は一緒に寝てて……)
一つずつ思い出すたびに顔が熱くなっていく。
「あ、あ、あ、アルから言ってみてよ! さっきからなんにもしゃべってないんだから!」
アルに話題をふると、ボンッと顔が赤く染まった。
「べべ別に特に覚えてないな、昔のことなんて?!」
「ほら! 毎日城下町を探検してたり、お店の手伝いしたでしょ?」
(流石に毎日手を繋いでなんて言えないよ~~っ!)
「へぇ~、毎日?」
心の中で考えていたワードを出され、ビクッと体が震えた。
「ううううん? ……えーっと、次はオスカーがいる時の話もしようよ!」
うやむやに答えを返して、別の話題へと切り替える。
「オスカーと出会って……あ! 学校も一時期いってた!」
「そうでしたね。転校初日は俺とアルのところに女子がたくさん寄ってきました」
「寄ってきたって……」
フィオレン劇団の子ども達はあははっと楽しげな声を上げたのだった。
***** *****
「着いたぁっ!」
フィレーナ港に到着して、ルナが声を上げる。
「ルナ、アル、オスカー、レオ、コルン。少し時間があるから買い物でもしてくるといい」
ハルヴィ団長がみんなにお小遣いを渡す。
「やった!」
「じゃあ、いってきます!」
そう言って、フィレーナ港の一角へと走り出した。
「うわぁ~!」
視界に、いろとりどりの屋台が広がる。
「服、買っていかないかい?」
「この魚、とれたてだよ!」
明るく、楽しそうな声があちらこちらで聞こえる。
「そこのおねーさん!」
年下の小さな女の子に、くいっとスカートの裾を引っ張られた。
「どうしたの?」
「占い、しない? わたしのおねーちゃん、占い屋なの。みらいの自分とか、れんあいっていうのがわかるんだって」
えへへ、とかわいい笑みを浮かべる女の子。
(そうだなぁ…)
「みんな!占い屋があるらしいんだけど、いっしょにしない?」
みんなに声をかける。
「いいですね」
「やってみようよ!」
「……俺も行く」
小さな女の子に連れられて、人気のない裏路地にあった小さな家へと入った。
「おねーちゃん! おきゃくさん、つれてきた!」
元気な声で居間らしき所へ走っていく。
「まぁ、ありがとう」
小さな女の子を追って居間らしき所へ行くと、不思議な翡翠色の瞳をした女の子が穏やかに笑った。
「はじめまして、迷える子羊達。私は占い屋のティーナと申します」
ぺこり、とおじぎし、ソファへ案内してくれた。
「……では、あなたからでよろしいでしょうか?」
最初に指名したのはルナだった。
「いいけど……」
「では、瞳を閉じ、手を重ね、私の問いに答えてください」
スッと、目を閉じ、ティーナの手を取った。
「あなたには、目指すものが……ありますね」
占いをはじめてすぐに、ティーナが眉を寄せた。
「……?」
「どうかしたか?」
アルが変化に気づき、声をかける。
「なんだか……急に、気持ち悪く……」
グラッとティーナがルナと手を繋いだまま倒れてしまった。
(……あれ?なんだか、ふわふわする)
目を閉じていないはずなのに目の前が暗い。
『たすけて……たすけてっ』
小さな女の子の声。不思議な声がする。泣いている。
(たすけて、あげる)
そう答えた瞬間。その女の子は、怪しい笑みを浮かべた。
「ルナっ!」
ルナはティーナから手をはなし、ゆっくりと立ち上がった。
ゆっくりと、瞳を開く。すると、みんなは目を見張った。
『なかなか、悪くない体だ。しばらく借りようぞ』
瞳が、違う。口調が違う。外見が、違う。
瞳は薄い青へ。髪は天色へ。
「ルナじゃない。だれだ、お前……!」
『……我は水龍。やっと人間になれた。喜ばしい』
水龍と名乗ったルナは、ニヤリと怪しくも美しい笑みを浮かべた。
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☆ここまで読んでくださってありがとうございます!♡や、やさしい感想等お聞かせ願えるとうれしいです!SANA✿☆
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