第5話 イリス・ウェーデルの誘惑


「ふふふふふ……」


 面白そうに目を細めるルナ――いや、水龍。


「うっ……!」


 後ろで、誰かのうめき声が聞こえた。バッと後ろをふりかえると、レオが顔を真っ青にしている。


「レオ!」


 コルンがレオに駆け寄る。


「魔力が……!」

「くそっ!」


(レオの魔力が吸われてる!? ルナが水龍に操られてるのか……?)


 すると―――


 ザクッ!


 水で作った剣で、水龍はルナの髪の毛を切った。


「お前……!」


 アルは怒りに打ち震えた。


「なんだ? この髪の毛には力が宿っている。それを使おうとしただけじゃないか」


 にっこりと優しい笑みをつくる水龍。


「雷よ、我に集え。

 雷光の矢で敵を撃ってください!……雷撃!」


 オスカーが怒りの混じった声で呪文を唱える。

ドンッ! と音を立て、雷の矢は水龍に直撃した。建物は壊れ、水龍とともに吹き飛んだ。煙の中から出てきたのは……。


「なかなか強い魔法だったが。…だけど、我には効かなかったようだな」


 アル達は結界を張っていたため、無事だった。だが……。


「……っ!」


 オスカーは水龍の近くにいたため、自分で自分の雷撃をくらったのだ。


「オスカー! むちゃするな!」


 いつもきれいな服も、雷撃のせいで一瞬でボロボロになった。


 (くそ……! そもそも、どうやってルナを操っているんだ。……いや、ルナの中に入っているのか? それとも、ティーナが水龍だった? 落ち着け、何か見落としていることは……!)


 アルはハッとあることに気づいた。


「まさか……!」


 アルはルナが水龍になってから、一人いなくなっている事に気がついた。

そうだ。俺たちを占い屋に誘い込んできた、あの子がいないんだ。


「地の力よ、我に集え。砂よ舞え! ……砂礫されきの壁!」


「雷よ、我に集え。雷光の矢で打ってください! ……雷撃!」


 アルが呪文を唱えると、次の行動をよんだかのようにオスカーが続けて呪文を唱える。


「無駄だ。我は水龍。そんな魔法効くわけ……」


 魔法で土で水龍のまわりを囲う。そして、水龍めがけて電撃が走った。


 ドォンッ!


「あああああっ!」


 ルナの声で悲鳴を上げる水龍。


「ルナーー! 戻ってこい!」


 ……?

 あれ、誰かの声がする。


『ルナ! 戻ってこい!』


 戻る……? どこへ?


『行かないで! 私を置いていくの? いかないでよぅ……っ』


 ハッと横を見ると、さっきの女の子がルナの肩にしがみつき、泣きじゃくっている。


 ズキン、ズキン、ズキン……。


 胸に雷が走ったかのように、痛い。


(さっきの声、私、知ってる気がする)


『ルナ!』


『おねぇちゃぁんっ!』


 二つの声が、畳み掛けるように聞こえる。




「――っ、アル!」


 彼の名前を呼んだ途端、海特有の塩の香りが私を包み込んだ。


 カッ!!


 水龍に雷が直撃した瞬間、真っ白な光があたりを照らした。


 ふわっ


「……ルナ!」


 煙の中から見えたルナの姿。

次の瞬間、その場にいたみんなが彼女に釘付けになった。


「あれは……!」


 ルナの左目が、透き通った水のように青くなっていたのだった。髪の毛は戻っているのに。

ゲイルタウンで操られたヒューレムと戦ったときも、似たようなことがあった。

あの時は、炎が燃え上がったかのような真紅。今回は、透き通った水ような青。


「ルナさん! 大丈夫ですか!」


 オスカーの声を無視して、濁った空が映る海へと歩き出すルナ。


「……っ!」


 グラッとルナが倒れそうになる。


「ルナ!」

「ルナさん!」


 二人がルナを支える。


「は……ッ……っ」


 ゲホッ、ゴホッと苦しそうに咳き込むルナ。


(やっぱり……!)


 前の戦いと同じだ。前も、こんなふうに咳き込んでいた。


「……ア、ル……オス、カー」


 必死に立ち上がろうとするルナ。


「無理しなくていい」


 アルとオスカーを見て、体を引きずりながら近づこうとする。


「……ルナさん? どうしたんですか?」


「……水の……力、……いま、つど……」


 ぼそぼそと何かをつぶやく。

すると、木々や海面から力の渦が集まってきた。


 ザァァァァァァ


 水の力、今集え。

 さざめく水面よ。川の流れよ。生命の源よ

 今、我に力を。


 ゆらり、と立ち上がるルナ。

 アルとオスカーは目を見開いた。ルナが立ち上がったせいもあるが、何より不思議な力が湧いてきたからであった。


「……!?」


 ルナの瞳がいつもの色に戻り、我に返ったようだ。


「イリス・ウェーデル! こいつらはくれてやる、姿を現せ!」


 声の方に振り向くとそこに占い屋にいたあの少女が立っていた。


 少女はイライラとした様子で声を荒げた。


 バシャンッ!


 水龍の荒々しい呼びかけで、海から美しい人魚が現れた。


『水龍様に呼んでいただけるなんて、今日はとても良い日ですわ』


 金の長い髪を揺らしながら微笑むイリス・ウェーデル。


(イリス・ウェーデル!?)


 全員、一歩後ろへ下がった。

 朝オスカーが言っていた知識を思い出す。


 イリス・ウェーデルは、上半身が人間、下半身が魚……そう、人魚の形をしています。ですが、イリス・ウェーデルに気に入られた者は海へ連れて行かれるという言い伝えがあります――。


 ゾッと背筋に冷たいものが走った。


『あら、男の子が四人……五人? ふふふ。今日は本当にいい日になりそう』


 イリス・ウェーデルはそういった後、アル達の方を見た。


「……っ!」


(声が、出ない……!?)


 体も、思うように動かない。


『私の所においで……』


 甘く、べっとりと張り付くような声。


「……アル? オスカー?」


 イリス・ウェーデルの呼び声にアルとオスカー、レオとコルンまで彼女の方へ歩みだした。

 

 完全に操られている光のない目。


「アル!」


(行っちゃダメ!!)


 動かない手を必死に伸ばすルナ。


 一方、イリス・ウェーデルとアル達は海に足を踏み入れていた。


 ――私の仲間たちを……返して!


『ルナ! 戻ってこい!』


(さっき、アル達が呼んでくれたから戻ってこれた。……今度は、私の番だ!)


 拳を強く握って、叫んだ。


「アル!! みんな! 戻ってきて!!」


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☆ここまで読んでくださってありがとうございます!♡や、やさしい感想等お聞かせ願えるとうれしいです!SANA✿☆


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