仲間を守るための力。
第3話 私は、何者? 前編
ドォン!
ゲイルタウンで一番大きな屋敷の大広間の床が破壊され、大きな爆発音をあげる。
「……おや、あの生贄の牢屋から出てきてしまったのですか?」
聞き覚えのある声が、ルナの耳に響いた。
「え……なん、で……?」
そこにいたのは、ニッコリと余裕の笑みを浮かべるヒューレムだった。
「ルナ!」
ヒューレムの後ろに、鎖で繋がれたコルンとレオがいた。後ろには、倒れたアルとオスカーが。
プツッとなにかが切れる音がした。
「……私の、仲間に、何をしたの……許さない。許せない……!」
ヒューレムが面白そうに笑った。
「う……」
ルナの後ろに倒れていたアルとオスカーが目を覚ました。
「ルナ……さん?」
「おい、ルナ?」
二人が声をかけるが、ルナには聞こえていない。
その時、アルとオスカーは息を呑んだ。
ルナの左目が、真っ赤な真紅に染まっていたのだ。
「ゆるさない!」
ブワッと炎が燃え上がった。剣の形をした炎が、数え切れないほど出てきていた。ルナが炎の剣を操ろうと、手をあげたその時――。
「おい! ルナレイン・アルファ!」
アルがルナの名を呼んだ。
ビクッとルナの動きが止まった。
「……あ、れ?」
ガクン、と床に倒れこむ。瞳も、いつもの色に戻った。
「ハァッ、はぁっ、ハァッ、はぁっ……」
肩で息を何回も繰り返す。
(な、なに……なにが、起こった、の……)
全身が、ガタガタと震える。指先はとても冷たい。
神経が狂ってしまいそうだ。体も、うまく動かない。
「ルナさん! 俺です、オスカーです。わかりますか」
オスカーの呼びかけになんとか頷く。
(息が、しにくい……)
意識が薄れていく気がする。
(でも、こんなところで倒れてる場合じゃない!)
「……お前が黒幕か」
いつもより低い、怒ったようなアルの声。
「そうです。ルナレインさんを生贄にしようとしたんですけど……こうなったら仕方ないですね」
悪魔のような笑みを浮かべるヒューレム。
「君たちを生贄にしてしまいましょう。この際男の子でもいいです」
絶えず笑いながら話す。
「……」
ルナもオスカーも絶句する。
……どうして、この男は笑みを浮かべながら淡々と話せているのだろうか。
アルは魔法で澄んだ清水の剣を作る。
「……俺は、お前の生贄になんかならない。もちろん、ルナとオスカーもだ」
アルは怒りに震える拳を強く握りしめた。
「お前みたいに狂ったやつの思い通りなんかになるもんか!!」
アルがヒューレムに斬りかかる。
ヒューレムは黒い炎を操り、アルの方をめがけて解き放った。
「だめぇっ!!」
ルナは、無我夢中で走り出し、アル達の前へ出た。そして、自分の手を掲げた。
カッ!
すると、ルナの手のひらから光り輝く炎がヒューレムをおおった。
『『うわぁぁっ!』』
ズズズズ……!
ヒューレムから、影が出てきた。
『クソ……! 覚えておれ!』
その影は外へと舞い上がり、消えてしまった。ヒューレムは、その場に倒れ込んだ。
「終わっ……た……?」
アルとオスカーがこっちを振り向く。私は、二人と笑い合おうと、走ろうとした。
だけど、この言葉を最後に、私は意識を失ってしまった。
***** *****
「……う……」
暖かい。フワフワする。もう少し、寝ていたい。
頭がボーッとする中、ゆさゆさと体が揺れている……いや、揺らされている。
(まだ寝かせてよぅ……)
ルナは寝返りを打とうとして、あることに気づく。
体が動かない。……というよりは、暖かいものに抱き込まれているような…?
(ま、まさ、か……!?)
パチッと目を開けると……。
「うっ、わぁぁぁっ!」
ゴチッ! と音を立てて硬いものに激突する。
何があったかというと……。
目が覚めた瞬間、アルとオスカーの顔が目の前にあって、二人のおでこと激突したのだ。
「い、痛い……!」
う~っと唸ると、アルが怒鳴った。
「お前は何回俺の心臓を止める気なんだ!」
ひゃっ、と首を縮めた。
「い、今のは効きましたね……め、目が覚めてよかったです」
おでこを覆いながら苦笑いを浮かべるオスカー。
「あっ! ご、ごめん! ごめんね! オスカー」
アワアワしつつも謝る。
「おーいーっ!」
あわわわわっ!完全お怒りモードに入っちゃった…!
(こっ、これはヤバイ……)
にゅっとルナの脇に手が伸びる。
「はわぁっ!」
すると、アルがルナの脇を思いっきりくすぐった。
「あはっ、はははっ!……っ!」
(笑いすぎて息ができないっ……!)
「おーい……ルナが死にそうな顔してるよ」
「ルナぁ……ちなみに、どこが弱いの?」
レオとコルンが顔を出す。
(たっ、たすけてぇっ~~!)
「っ! ……くっ、首っ……あひゃぁっ!」
「へぇ~。ここらへん?」
ルナの首に手が伸びる。
(もうやめてよぅ……っ!)
声にならない叫び声を上げていると。
「ハイ、ストップ!」
この現場を見てたらしいハルヴィ団長が止めに入る。
「ゴホッ……うえぇっ……」
「若者共、か弱い女の子をいじめるものではないよ」
ハルヴィ団長、天使……!
咳き込みながらハルヴィ団長を見上げる。
「まぁ、ルナはか弱くないし、女の子らしくないけれどね」
ハルヴィ団長、悪魔……!
そうだった、この人は上げて下げる天使のようで悪魔の人だったんだ……!
キッとハルヴィ団長を睨むと、からかうような笑みで視線を返してきた。
その時。
バタッ!
立ち上がろうとしたが、体に力が入らず倒れてしまった。
「あ……れ?」
(なんで……?)
「魔力がごっそりなくなったんだ。当たり前、たてないだろうな」
アルがそう話した。
「……ルナさんは魔法を仕えないのに、なぜ魔法のようなものを使えたのでしょうか」
え?
「そうだねぇ、ルナは魔力が全く感じられないしぃ」
「でも、人間は魔力が生命みたいなものだろ。ルナはもともと魔力がほとんどないのに、今、普通に喋れるし見たところ元気そうだぜ」
コルンやレオの言ってることがあまり分からなくて頭にクエスチョンマークを浮かべた。
「えっと……?」
「この世界では魔法使いであろうがなかろうが人は魔力を体にためています。そのため、ほとんどの人々が魔法を使え、普通魔力を持っていない人はほとんどいないません。でも、ルナさんは魔力がないのになぜ魔法を使えたのでしょうか?」
オスカーが説明してくれる。
「私は……普通じゃない?」
サッと血の気が引くのがわかった。
「私は……何者なの?」
「まだ、なんとも……」
いえません、と言う前に、アルが口を開いた。
「ルナなら大丈夫だろ? ルナはルナだしな」
アルが不敵な笑みを浮かべる。
クスッとみんなが吹き出した。
「そうですね」
「うん」
「おう」
「ルナ」
みんなで笑いあった後、アルがルナに話しかけた。
「お前が眠ってる間に……その」
「僕とレオもルナたちの度に参加することになったんだよぉ!」
コルンとレオのいきなりの爆弾宣言に、一瞬固まってしまった。
「ほん、とうなの?」
「もちろん!」
即答するコルン。
「ありがとう! 二人が入ってくれてうれしい!」
えへっとテレ笑いのような笑みを返すと、レオとコルンが目を見開いた。
「……たしかに、コレはけっこうやられる……」
ボソッと声が聞こえた。
「え? なんか言った?」
「何も言ってないよ?」
不思議に思いつつも、ルナはゆっくり立ち上がる。
「よいしょっ……と」
よし、立ち上がれる。
「大丈夫? たてるの?」
「うん、もう大丈夫!」
また、笑う。
一人、眉間にしわを寄せてなにか言いたげな顔をしているのに、ルナは気づかなかった。
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☆ここまで読んでくださってありがとうございます!♡や、やさしい感想等お聞かせ願えるとうれしいです!SANA✿☆
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