第2話 ゲイルタウンの住人 後編

「……う、ん……」


 ゆっくりまぶたを開く。


「ルナ!」

「ルナさん!」


「……!?」


 ルナが驚いてバッと起き上がる。


「え? え? ……ここは?」


 周りを見ると、奥は霧がかって見えない。一本道に倒れていたようだった。


「よくわかりません……気がついたらここにいたんです。ハルヴィ団長達もいなくなっていて……」


 オスカーが顔をしかめる。


「とにかく、ルナも目が覚めてよかったな……」


 アルがこしこしと目をこする。


(なんか……まだ少し眠たい気がするなぁ)


 ルナもふわぁ……とあくびをする。


「眠そうですね、正直俺も眠いですけど……寝ている場合ではないので、ハルヴィ団長と合流しましょう?」


 よいしょ、と立ち上がる。


(そもそも、さっきまでどこにいたっけ? 城下町だっけ……)


 あれ? なにか忘れてる気がする……。


 なんだろうと思いつつ、ルナたちは走り出した。

 ……走り始めて十分もしない間に、異変に気づいた。


「……さっきから同じところを行き来してませんか?」

「そうだな……」


はぁ、はぁと息を整える。


「どうして……!」


 どれだけ走っても、同じところを行き来するだけ。

 どうすれば、ここから出られるの……!


『……ナ! ……ア……』


(……?)


 声が聞こえた気がして、周りを見渡す。だが、声は聞こえない。


(空耳?)


『……ルナ! アル! オスカー!』


「‼」


 聞こえた、今度ははっきりと。


 ……でも、こんな声の人。聞いたことな……!


聞いたことがない、と思った瞬間、激しい頭痛に襲われた。


「ルナっ!?」

「ルナさん!」


 二人は慌ててルナに近づく。


『は……まして、僕はコ……ンテ。ゲイ……ンの住……一人……よぉ』

『オレ……オナル……ジーン! レオって……いぜ、よろ……なっ!』


 赤毛の少年と焦げ茶の髪の毛の少年が頭に浮かぶ。


 ……そうだ。私は、旅でゲイルタウンに着いて、……それから……


 体中に炎が駆け巡ったような感覚。

すると、ルナたちが行き来していた道ではなく、そこから外れた霧の道へと進みだした。



*****  ***** 



「……!」


 パチッと目が覚める。


(ここ……は?)


 周りは牢屋のような場所が広がっていた。寒いような、温かいような、不思議なところだった。


(たしか……私を生贄にしようって言う声が聞こえて……)


 ブルッと身震いした。なんて、恐ろしい。


『……愛らしい娘、愛しい娘』

『生贄じゃ、生贄じゃ』

『可哀想に、可哀想に』


 ふと、声が聞こえた。悲しそうで、寂しそうな声。聞いているだけで、胸が張り裂けそうになった。


(あ……!)


 それは、生贄にされて死んでしまった人々の声。亡者という悲しい存在。


『きれいな目、きれいな髪』

『羨ましい、羨ましい』

『朽ち果てるのだ、朽ち果てるのだ』

『いつか、いつか』


 怒りと、悲しみと、寂しさと、憎しみがこもった鎖にかけられたような空間。


 ぽたっ


 涙がこぼれた。

ここにいる亡者たちは、どんな気持ちだったのだろうか。私も、こんなふうになってしまうのだろうか。


 怖い。苦しい。悲しい。寂しい。


どうすれば、ここから出られるの……?


 目が覚めてから、ずいぶん時間がたった気がする。

なんで、誰も助けに来ないの? どうして、私だけこんな目に合わなくちゃいけないの……!

 ……ふつふつと怒りがわいてくる。

 モヤッと黒いものがまとわりついたように、心が真っ暗になりそうだ。


『ルナ……ルナレイン。愛しい子』


 その時、優しい声が聞こえた。


(え……?)


 その優しい声が聞こえたとたん、モヤモヤした気持ちがぱっと晴れた。


 何を考えてるの!?

 みんなも何をされているかわからない状況で、自分のことだけを考えて……これじゃ、八つ当たりだよ。


 一旦落ち着こうと息を吐く。


『……ルナレイン、私が力を貸しましょう』


 また、声がした。


「……え?」


『昔ある魔物が、女性を生贄にしないと皆殺しにすると村人を脅したのです。そこで村人は女性を五年に一度、生贄として捧げることを決めたのです』


『しかし』と言葉を続ける。


『二十年ほど前から急に女の赤子が生まれなくなり、生贄に捧げる女の子がへりました。そこで、贄を食らう魔物は外から女の子を生贄にすることを提案したのです』


「……悲しい、よね。みんなの、平穏のために、自分が……犠牲になるのは」


(ああ、苦しい)


 息が、つまる。

 私も、苦しみの海に溺れてしまいそうだ。


 ……だけど。


「……だけど、他にも貴方達のように苦しむ人がいなくなるために、私が出来ることはある? みんなのことを笑顔にするのが……幸せにするのが、私の目標だから」


 ――だから。


「だから、帰ろう? 自分の、在るべき場所へ」


 ザァァァァァァ


 窓もないこの空間から、風が吹き抜けた。暖かく、気持ちいい南風が。


『ああ、暖かい』

『ありがとう、ありがとう』

『あなたの名前は?』

『我々を解放してくれた愛しい娘』


 さっきのような苦しそうな声ではなく、優しく、包み込むような声になっていた。


「ルナ……ルナレイン・アルファ」


『ルナレイン、愛しい子よ』

『私達にも貴女になにか出来ることはある?』


「私、世界中の人を幸せにできるように旅をしているの。だから………私を、見守っててくれないかな」


『よかろう、よかろう』

『ルナレイン。あなたの幸せを願う旅を見守ろう』

『その願いを果たすまで見守ろう』


『……さようなら』


 フッ

 見えなくても、亡者たちがいなくなったのがわかった。


「……」


 さあ、みんなのところに帰らなきゃ。


 天井を向いた。

すると、大きな音をたてて、天井が崩れ落ちた。


『ありがとう……ルナレイン』


 さっき力を貸してくれた人の声が聞こえた気がした。


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☆ここまで読んでくださってありがとうございます!♡や、やさしい感想等お聞かせ願えるとうれしいです!SANA✿☆


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