第2話 ゲイルタウンの住人 前編

 ここはイグニア地方。火を司るクレナ族の発祥地である。

イグニア地方は灼熱の太陽が照りつけるジャングルのような場所だ。だが、植物はとても美しい。たまに見かける澄んだ湧き水がイグニア地方の木々を美しくしていることがわかった。


「……そろそろ、ゲイルタウンという街につくみたいですよ」

「行こう!」

「言われるまでもない」


 一方、フィオレン劇団はイグニア地方の南西部にあるゲイルタウンという街を目指していた。


「城下町の外ってこんな感じだったんだ。緑がすごくきれい」

「そうですね、アルとルナさんは城下町の外へ出るのは初めてでしたね」


 すると、急に熱風が吹いた。


『君たちは、だぁれ?』


 幼そうな声が風に乗って聞こえる。全員の顔がさっとけわしくなった。


「……私達はフィオレン劇団。最近結成された、まだ無名だけれど……一応私がフィオレン劇団団長を努めているハルヴィだ。そっちも名ぐらい名乗ってほしいね」


 ハルヴィ団長が挑発的な口調でルナたちの前に立つ。


『……まだ君たちが安全か確認できてないから、名前は名乗れないけど、僕はゲイルタウンの住民の一人だ』


(ゲイルタウンの住民……!)


 謎の声は『ん?』と不思議そうな声を出した。


『あれぇ? ……初めてみたなぁ、魔力が感じられない人を見るのは』

「……?」


(魔力が、感じられない?)


『めずらしいねぇ。レオ、通してみる?』

「レオ……?」


 ボッ、と赤い炎が燃え上がる。すると、中から男の子が二人出てきた。

燃え上がるような赤毛に茶色い瞳をした活発そうな子と、焦げ茶色の髪の毛に澄んだ金の瞳をした優しそうな子。


「はじめまして、僕はコルン・ダンテ。ゲイルタウンの住民の一人だよぉ」


 のんびりとした声で自己紹介するコルン。


「オレはレオナルド・ジーン! レオって呼んでいいぜ、よろしくなっ!」


 おっきな声でニコッと笑うレオ。


(ふたりとも、いい人そう……)


「あ、私はルナ。ルナレイン・アルファ。よろしく……?!」


 名前を言った途端、コルンがキラキラとした瞳でルナの手を握った。


「ルナかぁ、いい名前だねぇ! 劇団っていってたけど、ゲイルタウンで劇をするの?」

「う、うん、一応そのつもりだよ?」

「すっげー!」


 わいわいとルナの方へと集まる。


「一応自己紹介しますが、オレはオスカー・レファールと言います。よろしく」

「……俺はアルフレッド・ディーラ」


 ゲイルタウンへ歩きながら、二人とも自己紹介する。


「女の子なんてなかなか来ないからうれしいなぁ」

「なかなか来ない?」


 眉をひそめるハルヴィ団長。


「ああ。村のしきたりで、ここで生まれた女の子。全員……神に捧げる生贄にされるんだ」


(生、贄――)


 サッと、血の気が引いた。


「でも! 外から来た女の子は生贄にされないから安心して!」


 レオが必死にフォローしてくれる。だが、それはルナには聞こえなかった。


「……ん……さん、……ルナさん!」


 ハッと我に返る。すると、みんなが心配そうにルナを見つめていた。


「! ……あ、のさ、ゲイルタウンはどんなところなの? 特産物とか、ないの?」


 パッとレオの顔が輝いた。


「ある! ここのリズの実パンがすっごく美味しいんだ! 甘酸っぱくて!」

「レオはリズの実パン、すごく好きだよねぇ」


あはは、と笑うコルン。それを見て、ルナは少しホッとしたような表情になる。


「あ、そろそろ着くよ」

「霧に気をつけてねぇ」


 霧が段々と濃くなったかと思うと、急に視界がひらけた。その瞬間、


「レオ! コルン!」


 純白の髪をした二十代後半くらいの男がこっちに走ってきた。


「客を連れてくるというのはどういうことです!?」


 やっとルナたちの存在に気づいたらしく、驚きの表情を浮かべる。だが、コホンと咳払いをし、背筋を伸ばした。


「失礼しました。私はヒューレム。ここゲイルタウンの副村長……とでもいいましょうか……よろしく。貴方のような可愛らしい方に出会えて光栄です」


 ニッコリと優しい笑みを浮かべる副村長。だが、その笑顔にルナは違和感を覚えた。


(なんだろう。なんだか、背中が冷たくなるような感覚……って言うのかな?)


 不思議に思いつつ、笑顔を返す。


「レオ、コルン。私の屋敷へ案内なさい」

「はいっ」

「あと、ついでに街も案内してあげなさい」

「はいっ!」


 レオとコルンは大きな声で返事をし、ルナの手を引いた。


「ゲイルタウンへようこそ! さぁ、街の案内は任せてよ!」


「えっ?ちょ……ちょっとぉ!」


 二人がものすごいスピードで走り出し、無我夢中で追いかけた。


「………はぁっ、はぁっ……はぁ……」


 ゼーゼーと荒い息をしながらなんとか立ち上がる。


「つ、疲れましたね……」

「普通に……呼吸困難、だよ……!?」

「……」


 アル、オスカー、ルナは揃って酸欠状態。


「意外と体力ないんだなー、つっまんねぇの」

「まぁ、いいんじゃなぁい? 人それぞれなんだしぃ」

 そう言いながらズボッと口の中になにかを詰め込まれる。

「んがっ!?」


 びっくりするまもなく甘酸っぱい味が口いっぱいに広がる。


「んんっ!? ……ひょいひぃ!(おいしい!)」


「だろーっ!? これがリズの実パンなんだよ!」


ルナとレオが盛り上がっていると……。


「おえっ……」


 恐る恐る声がした方を向くと、アルが顔を真っ青にしながらリズの実パンを食べていた。


「わぁっ、アル! 大丈夫!?」


 ドゴッ!


「ゴホッ……」


 意識が飛ぶ寸前。コルンがアルに腹パンを食らわせ、吐き出させたのであった。


 数十分後……


「し、死ぬかと思った……」


 アルははぁ、と疲れたように呟いた。


(まぁ……鍛えててもあのパンチは痛そうだった……)


 ついさっきのことを思い出すと、ゾッとする。


「お店は他にも色々あるんだよ!」


 元気いっぱいなコルン。


(……けっこう、謎が多いかも。コルンって)


 ルナは苦笑いを浮かべていた、その時――!


『……呪われた姫君、か――。丁度いい、はやく生贄にしよう』


(……え?)


 なにか、黒いものが私の手を掴んだような気がした。


 そして、すぐに気を失った。



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☆ここまで読んでくださってありがとうございます!♡や、やさしい感想等お聞かせ願えるとうれしいです!SANA✿☆


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