第1話 不思議な劇団 後編
「♪」
ハルヴィ団長に挨拶したあと、ルナは軽い足取りで城下町を歩く。
「おや、ルナのお嬢ちゃん!」
「あ、おばさん!」
すると、いつも食料を分けてくれるおばさんがルナに声をかける。
「前の劇、よかったねぇ。見せてもらったお礼にパン、どうだい?」
「そんな! いいよ! 劇団は劇を見せるのが仕事なんだから」
慌てて断ると、おばさんはにっこり笑った。
「いいんだよ、アンタ達のおかげで、この古い店に希望をともしてくれたんだから。もらっておくれ」
そう言って、ルナの手にしっかりとパンをおく。少し黙り込んだが、みるみるうちに顔が笑顔になっていく。
「ありがとう! おばさん!」
そう言って、おばさんの店をあとにした。城下町を少し歩いて、ある公園へと着いた。
「あ!ルナ!」
三人の子供たちが一斉にルナの方へと駆け寄る。
ニコッと子供たちに笑いかける。
「今日はどうしたの?」
「前の劇、すごかったです」
「遊んで!」
楽しげに子ども達とじゃれ合うルナ。
「なにして遊ぶ?」
「鬼ごっこ!」
「じゃーんけーんポンッ!」
あはは、と元気な笑い声を響かせながら走り回る。
ルナは城下町では有名で、彼女を悪く言う者はいない。逆にみんなに好かれているのだ。日が真っ赤に染まり始めた申の刻(午後四時)。子供たちと分かれ、荷車に向かい始めた。
「ただいまっ!」
ひょっこりと顔をのぞかせると、「おかえりなさい」とオスカーの声が聞こえた。横にアルもいる。
「あのね、今日はおばさんにパンをもらったんだ!」
「腹減った、よこせ」
「そろそろ夕食にしましょうか」
そう言って、ご飯を食べて、もう日が落ちた。
また明日。
心のなかでそう言って、眠りに落ちた。
***** *****
「な、なんだってぇぇぇっ!?」
翌朝、城下町の空き地にある荷車から、驚きの声が鳴りひびいた。
「アルっ! うるさい!」
「そ、それはまた……ものすごい決意ですね」
珍しくオスカーもおどろいた表情を見せていた。
遡ること数分前……
「あのね、二人に話すことがあるんだけどさ、今ちょっといい?」
「なんですか?」
「簡潔に言えよ」
(簡潔……か)
少し黙り込み、口を開く。
「……一週間後、新しい劇団を結成して、フィオレン王国をまわろう!」
……ということなのである。
「なっ、ハルヴィ団長とかの許可は……」
「もちろん、相談してOKもらったよ!」
「ですが、急に旅立とうと言っても無理がありませんか?」
金魚のように口をパクパクと動かすアル。
「大丈夫! 実はハルヴィ団長と前々から予定してたから荷物とか色々な手続きは終わってるの!」
「そうですか。なら俺も同行いたしましょう」
「ありがと!」
いい感じに話が進んだところで、アルが口を挟んだ。
「俺は行かないぞ。少なくとも、なんで行くかを俺が納得するまでは」
それを聞いたルナの瞳から、だんだん温度が抜けて冷たくなっていった。
「……バーカ」
「バカですね」
「なっ、なんだと!」
ベーッと舌を出すルナ。
「私達の夢は”みんなを幸せにする劇団を作ること”!」
目を見開くと、はぁ、とため息をつくアル。
「……やっぱ、お前には負ける」
「わーっ! ありがとう! アル!」
ルナがニコッと笑顔を向けると、アルはボンッと顔を赤くした。
「アル?! どうしたの?!」
「イヤ……ナンデモ、ナイ……」
片言で答えるアルを青ざめながらおろおろするルナ。
「アルは素直じゃないですね」
にこにこと保護者目線で二人を見つめるオスカー。
「あ、そうだ。新しい劇団のメンバーなんだけど、ハルヴィ団長と私達は確定でしょ? だけど、その他のメンバーがずいぶん減っちゃってさ」
「まあ、フィオレン王国一周位を目指すってのは、そこまでしようとするやつも多くはないだろ」
そうだ、フィオレン王国は七個もの地方があり、広大な国なのである。
「で、何人くらいなんですか?」
「……二十」
ふくれながら呟く。
「少なっ! 普通五十人はほしいところだぞ!」
「まあまあ、旅の途中で仲間が増えるかもしれませんし、気長にいきましょうよ」
いわいと元気な声を響かせる三人。
「彼は来ないらしいよ、残念だっね」
はっとハルヴィの方を向く。いつの間にか荷車に顔を出していた。
彼とは、いつも劇団を援助してくれるおじさんのことだ。
「……うそ」
「俺が嘘をつくとでも?」
皮肉な笑みを浮かべながら話し出す。
「城下町を離れるわけにはいけないらしい。彼はお人好しだね、市民に引き留められて足止めを食らうとは」
「まあ、仕方ありません。あの人の事ですから」
珍しくそっけない返事をするオスカー。
「その代わり、ちゃんと援助金を出してくれるらしいよ」
「そっか、なら心配なしだね!」
「切り替え早えな」
また、明るい雰囲気に戻った。ただ一人、表情を曇らせているのを除いて。
旅立ちの時は来た。
晴天の空、旅立ちにはピッタリの天気。城下町の門の前では大勢がルナ達を見送ろうと集まっていた。
「本当に行っちまうのかい?」
「ルナぁ……」
「達者でな」
みんながルナ達の旅立ちを祝福をしてくれる。
「…そろそろ、行こうかな。みんな、お見送りありがとう」
ちらっと、オスカーとアルの方を向く。二人とも複雑そうに笑う。すると、いつもルナたちを援助してくれるおじさんがルナ達の前に立つ。
「一ついいか?」
「?」
「……お前たちの劇団、今までと同じだったら変だろう? 劇団の名を教えてくれ」
少し考えて、ふっと一つの言葉を思いついた。
「
「……そうか」
そう言って、ルナ、アル、オスカーを見る。
「一緒に行ってやれなくて悪いな。……これ、受け取ってくれ」
おじさんが差し出したのは宝石の飾りだった。
真紅の耳飾り、紺青のブレスレット、緑のループタイ。一人づつ渡していく。
「……いいの?」
ルナが困ったような声で聞く。すると、おじさんはなにも言わずにニッコリと笑った。
(不思議、なんだか力が湧いてくるような……)
だんだん、口元がほころんでくる。ルナは満面の笑みを浮かべて見送りに来てくれた人の顔を目に焼き付ける。そして、すーっと息を吸って走り出す。
「いってきます!」
そう言って、世界への第一歩を踏み出した。
世界中の人を幸せに。
フィオレン劇団、出発!
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☆ここまで読んでくださってありがとうございます!♡や、やさしい感想等お聞かせ願えるとうれしいです!SANA✿☆
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